契約管理SaaS「Hubble」、契約業務に伴走するAIエージェントをリリース
契約書管理クラウドサービスの「Hubble」を展開する株式会社Hubble(本社:東京都渋谷区)が、AIによる契約書管理フローにおける様々な業務の自動化を実現する拡張機能「Contract Flow Agent(コントラクト・フロー・エージェント。以下、CFA)」を発表した。契約書をレビューする従来の生成AI利用から一歩踏み込み、進行や意思決定を支援するAIエージェントであるCFAがもたらすインパクトを、株式会社Hubbleでは「破壊的」と表現する。
2025年7月10日に行われた記者発表会には株式会社Hubble Co-Founder & CEO 早川晋平氏(写真右)と同社 Co-Founder & CTO 藤井克也氏(写真左)が登壇。契約書業務を取り巻く課題の紹介から始まり、CFAがもたらす業務革新を解説した。
契約業務の課題や煩雑さはAIレビューだけでは解決できない
最初に登場した早川氏は、多くの企業で契約にまつわる属人的な情報が存在しており、誰に聞けばいいか、過去に何があったか、次にどう進めればいいかがわからない状況が発生している」と語った。
株式会社Hubbleが行ったアンケートでは66%が「契約業務や契約書の保管・管理が原因で取引に支障が出た経験がある」と回答したという。また、アンケートでは退職やリモートワークなどが原因で「契約について相談しづらくなった」かどうかという質問に対して、「感じる」「たまに感じる」という回答があわせて79%にのぼったことも紹介された。
同社がCFAを開発した背景として、早川氏は実際の契約業務は一連のフローで成り立っており、契約書に助言する従来の「AIレビュー」はかえって非効率化を招く恐れを挙げた。契約業務が行われる現場では、過去の資料を探したり、「AIレビュー」の指摘が多くてノイズになったりといったデメリットも生じているという。
従来の業務フローが進まなくなる現象を、早川氏は「つまり」と表現する。「AIが真価を発揮するのは、膨大な情報処理の場面です。CFAでは、AIがルールに基づいて契約をナビゲートし、業務をスムーズに、前に動かす仕組みを構築します」(早川氏)。
AIエージェントが意思決定をサポート
CFAは意思決定フローにおける次のステップを、AIが提示するサービス。これが事業部門と法務部門がお互いに「法務に何を伝えればいいのかわからない」「事業部門が情報を上げてくれない」「誰を承認プロセスに含めればいいのかわからない」という課題を解決する、「Hubble」の新たなソリューションだ。
「AIが最適な承認フローを提案します。契約書の内容をわかりやすく要約し、チャットを読み取ったAIが承認者の意思決定に必要な情報をまとめて送ります」(早川氏)。
CFAが他社のリーガルテックと根本的に異なる点は、「一元的にデータを管理することで、企業全体に最適化したエージェントになる」ことだと早川氏。事業部門の担当者に法務の専門知識がなくても契約フローを進められるように契約書を要約する機能、契約内容の誤りをAIが指摘する機能、更新が近づくと契約見直しのための情報を自動で提供する機能などによって、契約書の起案から締結後の更新作業まで一貫して運用できるという。
多様な機能もCFAの特徴だ。自律的なバージョン管理、柔軟なアクセス権限の設定などにより、AIによる契約書の契約台帳への書き込み、親子関係がある契約の紐づけ機能は工数の削減に寄与する。
また、会社組織全体でナレッジを蓄積できるCFAにより、「最大で契約業務にかかる時間を82%削減できます」と早川氏。ユーザーの90%を法務以外の部門のメンバーが占める「Hubble」が持つカバレッジの広さがうかがえる。
差分検出がAIの業務サポートを強化する
続いて登壇した藤井氏は、「ビジネス版GitHub」を目指して「Hubble」の開発が始まった経緯を紹介した。ディープラーニングが注目され始めた2017年、企業では多くのデータが「タンスデータ」として社内に眠っていたと振り返る。
「まずは使ってもらえるサービスを作るべく、既存の商習慣を変えることなくUI・UXを強化したサービスに着手。時系列による契約書の差分データの収集を始めました。契約書はコミュニケーションの積み重ねであり、バージョンを重ねるごとに状態が変化します。差分こそが重要なデータです」(藤井氏)。
契約書を丸ごとAIが読み取ると、契約書間で共通の文言がノイズとなり、判断に迷いが生じる。そこでHubbleのAIは、契約内容を丸ごと入力するのではなく、差分(diff)に着目することで意図的に変更された場所がわかりやすくなるように作られているという。
「契約書は機密性が高いため、柔軟な権限設定にもこだわってきました。一般的な権限に加え、『権限無し権限』などの設定も可能。今夏にはカスタム権限設定で操作単位の権限設定も可能になります」(藤井氏)。
また、「Hubble」は「展開性の高いAI活用」のため、法令ライブラリや外部APIなどと接続することで「どんどん賢くなっていきます」とも語った。
「Hubble」は起案から更新までの一連の流れを、時系列の「線」ではなく、担当者が複数介在する「面」でとらえる。この設計思想を藤井氏は「コンテキスト取得に特化したプロダクトの実装例として、きわめて実践的かつ本質的なLLM(大規模言語モデル)活用」と語る。
導入はサポート体制付き
「Hubble」が想定している利用者は従業員50名以上の企業で、理論上CFAは50名規模から導入が可能だと早川氏。導入初期の3か月間はオンボーディング期間として株式会社Hubbleが伴走し、運用の開始をサポートする。
早川氏は「『Hubble』のようなサービスは、初期に専門家ベンダーがコミットすることが重要です。導入完了後はデータが蓄積していきます」と導入体制を説明した。
まとめ
CFAは法務を外部の弁護士事務所などに委託している場合でも社外連携が可能で、その情報はAPIを介して人事や経理といった社内の他部門と有機的に連携できるようになるという。セキュリティ面も財務情報を守るグローバルな会計ソフトと同レベルの堅牢さを持っており、ファイルの暗号化や2段階認証、ワンタイムパスワードといった一般的なセキュリティも実装されている。
早川氏は発表会で「契約の束がビジネスになる」とも語った。確かに何らかの契約が成立し、効力を発揮してはじめてビジネスは動き始める。自社のビジネスを他社と差別化する鍵は、こうした契約業務にあるのかもしれない。











