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AWS、中堅・中小企業の生成AI活用事例を紹介【2025年度版】

2025.07.29
奥山晶子

生成AIの進化が加速している。2025年7月15日、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社(以下、AWS)は中堅・中小企業における導入の現状と、各分野での活用事例を紹介する記者説明会を開催した。本稿では、当日の講演内容と各社事例の一部を紹介し、生成AI活用の最前線をレポートする。

生成AIのめざましい進化――すべての会社がAIを活用する時代へ

生成AIのめざましい進化――すべての会社がAIを活用する時代へ
アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 常務執行役員 広域事業統括本部長 原田洋次氏

発表会では、まずAWSの常務執行役員・広域事業統括本部長の原田洋次氏が登壇。過去3年間の生成AIのあり方について変遷を振り返り、「2022年にPOC(実証実験)が拡散し、2023年に実用化が始まり、2024年には生成AIによる新しいビジネス開発の段階に入った」と説明した。今年、2025年は生成AIによって新しいビジネスを創出するフェーズに入っている。

AWSが行った「AIに関する知識意識調査」では、3年後までに約8割の顧客がAIを利用すると答えている。また、活用部門は多岐にわたっており、原田氏がAWSの膨大な顧客と話をするなかで、生成AIのビジネス価値は「生産性」「洞察」「新体験」「創造性」の4つに分けられていると分析した。

製造・接客・介護の現場における生成AI活用事例

原田氏の分析を受け、AIの活用事例を紹介するために3社が登壇し、それぞれの豊富な取り組みについて語った。ここでは、その一部を紹介する。

マキタの事例「労働災害を防ぐAI」

株式会社マキタ 執行役員 情報企画部部長 高山百合子氏

船舶用エンジンの製造・販売を手がけるマキタ(香川県)は、AWSを活用した内製開発により、労働災害報告書の作成支援AIを構築。現場の安全性向上に向けた取り組みを行っている。登壇した執行役員 情報企画部長の高山百合子氏は「製造業において人権を守る仕組みは不可欠。報告書の作成は現場の負担が大きく、AIで支援できないかと考えた」と述べた。

このAIツールは、Excelで作成された報告書を読み込み、必要な情報の有無をチェックしたうえで過去の類似事例や関連法令を照合し、対策案を提示する。さらに、気象庁のデータを連携させ、災害発生時の天候条件まで加味した分析を行うなど、多角的な視点で安全対策を支援する仕組みとなっている。

労働災害の発生から予防対策までのフローは人的コストが大きく、PC作業に不慣れな人材がいると対応が遅れがち。AIを導入することで報告書作成支援と多角的分析による安全対策の高度化が叶った。

開発は非エンジニア2名によって、わずか1.5カ月で実現。トライアル段階ながら、報告書の提出スピードと精度が向上し、現場からは「手応えあり」との声が上がっている。マキタでは今後、予測分析や市民開発(エンジニアではない社員がシステム開発を行うこと)の推進に取り組んでいく予定だという。

Qualiagramの事例「接客の“暗黙知”をAIに継承する」

株式会社Qualiagram代表取締役 吉井雅己氏

株式会社Qualiagramは、店頭接客における販売促進支援を行う分野で、Amazon Bedrockを活用したAI接客支援ツールを開発している。登壇者の吉井雅己代表取締役は、同社のビジョンとして、AIの社会実装において段階的なアプローチを取っていることを強調した。まずは人の教育サポートから始め、リアルタイムでの接客支援を経て、最終的にAIが人の代わりに接客するという流れを意識しているという。

具体的な取り組みとして紹介されたのが、AIトレーニングツール「mimik」。優れた接客スタッフの動画をもとに、AIを活用して接客トレーニングを行うシステムで、お手本となる先生のロールプレイングからトークや感情表現を学ぶものだ。AIのお客様役と会話練習ができる機能を備えており、フィードバックも得られる。なお、大阪・関西万博にはAI受付スタッフを派遣し、来場者への案内や質問対応を実現した。現在、地方自治体における人口減少にアプローチできる対応策として、LINE連携による高齢者の配車支援などを行い、人手不足社会を見据えたサービス展開を進めている。吉井氏は「AIを活用して、次世代の接客基盤をつくりたい」と強調した。

やさしい手の事例「介護現場の書類業務にAIを」

株式会社やさしい手 代表取締役社長 香取幹氏

在宅介護大手「やさしい手」は、生成AIを戦略的に活用することで、少ない人数で高品質なケアを維持する仕組みづくりに取り組み、その仕組みを商品化して外販も行っている。AIを短期間で導入できた背景として、代表取締役社長の香取幹氏は「ゼロ知識でも使えるユーザー設計、業務に即した柔軟なカスタマイズ性、オープンソースの豊富なドキュメント、AWS支援プログラムによる強力な技術サポートがポイント。特に現場職員自身がこうしたいと思う疑問をエンジニアに頼らず、自ら開発改善できる仕組みは事業スピードに直結します」と分析した。

さらに同社は、AI活用文化の醸成に向けて「AI活用イノベーター制度」や「AIカフェ」を展開。事例を共有できる「マイユースケースの森」、AI活用アイデアを競う年2回の社内コンテストなどを通じて、小さな成功体験の積み重ねと社内浸透を促進している。結果、導入からわずか3カ月で、全従業員の90%がAIを日常業務で活用するまでに至った。

人材育成・内製支援・地域創生により日本の中堅中小企業を活性化

事例紹介後、AWSの原田氏が再び登壇し、日本における生成AIの適用状況と今後の課題について解説した。総務省の調査によれば、海外に比べ、日本のIT内製化率は約4割と諸外国に比べて低い。また原田氏は、日本ではPOC(概念実証)の実施例は多いが、実用化に至るまでに時間がかかっていると指摘した。特に大企業では案件やシステムの規模が大きいため導入に時間がかかる一方、中堅中小企業ではスピード感を持って実装が進んでいるという。従来のDXにおいては大企業が先行していたが、生成AIでは中堅中小企業のほうが先行している可能性があると述べた。

日本のデジタル人材育成対策として、AWSはAI関連を含む500以上の無料トレーニングを提供し、5月には日本で新たな実践型学習サービス「AWS SIMULEARN」も開始している。

最後に原田氏は、生成AIやクラウド、デジタル人材育成を通じて地域間のデジタル格差を解消する取り組みを紹介した。全国のパートナー企業と連携し、営業スタッフへの直接トレーニングなど新たな施策も開始。「地域の中堅中小企業の活性化が日本経済に不可欠」と信念を述べ、今年も全国7カ所で「デジタル社会実現ツアー」を実施予定であることを告げて発表会を締めくくった。

生成AIは、すでに一部の中堅・中小企業で実装フェーズに入りつつある。AWSの支援を追い風に、現場発の創意工夫がさらなる変革を加速させていくだろう。