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Sansanが新AIソリューションを発表 パブリックデータ依存型AIから脱却してDXからAXへ

2025.12.05
奥山晶子

2025年11月21日、企業DXのサポートサービスを提供するSansan株式会社は新AIソリューション発表会を開催。寺田親弘代表取締役社長、小川泰正執行役員が登壇して今後のAI戦略と新サービス、そして「Sansan」の新機能を披露した。会場では「DXからAXへ」という新たなビジョンが示され、AI時代における企業変革の方向性が鮮明に打ち出された。

「AIは幻滅期に入っているのでは?」と問題提起

会見冒頭、寺田社長は「今や耳にしない日はないこの『AI』。弊社でも99%の社員がAIを利用しています。しかし、AIは幻滅期に入っているのではないでしょうか」と問題提起した。

「私自身、今年の前半ぐらいに AIに期待していたことと比較すると、あれ、もっともっと非連続な変化が起きているはずじゃなかったっけ?と思うことが少なくありません。さまざまな業務がAIに置き換わる中で、何なら近い未来には経営判断なども全てAIがやっているのではと想像していたのですが、いくら日々の業務に使って効果を実感しているとはいえ、その時の期待値から現状を見ると大きなギャップがあるように感じています」

Sansan株式会社 寺田親弘 代表取締役社長

寺田社長はギャップが生まれる理由として、AIに問いかければ精緻な回答は返ってくるが、それはあくまで一般論にとどまり、企業固有の状況や顧客関係性を踏まえた具体的な示唆には至らないことを指摘。そしてその原因を「パブリックデータ依存」にあると語った。

公開情報だけを参照するAIでは、企業独自の競争力は生まれない。AI活用の核心は、企業が保有するプライベートデータにあるというのが寺田社長の認識だ。

「必要なのは最新の正確に構造化された AIが読み解けるデータになります。つまり、AI をちゃんと使えるようにするということ。AIに投資するということ、AIに向き合うということは、ほとんどの企業にとっては自社のデータに向き合うことだと私は思います。 この AI時代においてまず投資するべきものは何か。それは企業独自のプライベートデータを正確に構造化していく、正確に構造化し続けるための仕組みだと思います」

企業変革のステージを「DXからAXへ」

寺田社長は続けて、企業変革のステージを「DXからAXへ」と再定義した。これまでのDX(デジタル トランスフォーメーション)は、紙やアナログ業務をデジタル化することに主眼が置かれてきた。しかし今後は、AIを競争力の核とする「AX(AI トランスフォーメーション)」が次のステージになると強調した。

AXを成功させるための土台は、自社のプライベートデータを正確に構造化し続ける仕組みである。名刺、請求書、契約書といったアナログ情報を正確にデータ化してきた同社の強みは、まさにこの基盤にある。寺田氏は「AI投資とは、自社データに向き合い、構造化することだ」と語り、AI時代における投資の本質を提示した。

「当社はこれまで、事業領域を『働き方を変えるDXサービス』としておりました。 この度、『働き方を変えるAXサービス』として事業領域を再定義し、ユーザーの皆様に新たな価値を届けていきたいと考えています」

「働き方を変えるAXサービス」の内容は

今回発表された新ソリューションは「Sansan Zoom連携」「Sansan Data Intelligence」「AI活用ツール(Sansan AIエージェント / MCPサーバー)」の3つだ。「Sansan Data Intelligence」については、プロダクトの責任者である同社執行役員の小川泰正氏が解説した。

Sansan株式会社 執行役員/Sansan事業部 事業部長 小川泰正氏

1. 顧客情報の「取得」 ― Sansan Zoom連携

オンライン会議が当たり前となった現在、参加者の役職や連絡先が画面上でなかなか把握できないという課題がある。Sansan Zoom連携は、会議URL発行時に参加者情報の入力を求め、名刺情報に相当するデータを自動取得する仕組みだ。入力された情報はスマートフォンで即座に確認でき、相手の情報を見ながら会議を進められる。

これにより、オンライン会議でも「名刺交換文化」を再現し、顧客接点を確実にデータ化することが可能となる。提供開始は2026年春を予定している。

2. 顧客情報の「管理・メンテナンス」 ― Sansan Data Intelligence

次に紹介されたのが、データクオリティマネジメントサービス「Sansan Data Intelligence」だ。Sansanの調査では、AIと社内データを連係している企業が約9割に達するものの、重複登録や古い情報が残っているなどして、87.3%の企業が「期待通りの精度は出ていない」と回答。Sansan Data Intelligenceは社内に散らばる顧客データを統合し、重複や表記揺れを解消、常に最新で正確な状態に保つ。800万件を超える企業データベースと2000種以上の独自フラグを活用すれば、取引先の分析や営業戦略の検討に役立つような顧客データが得られるようになる。

質疑応答では料金体系についても触れられ、初期費用はデータ量に応じた設計費用、月額ライセンスは従量課金制となることが明らかにされた。

3. 蓄積データの「AI活用」 ― Sansan AIエージェント / MCPサーバー

最後に発表されたのが「Sansan AIエージェント」と「Sansan MCPサーバー」だ。Sansan AIエージェントは、SansanやBill One、Contract Oneといった同社のサービスのほか、SFA(営業支援システム)や基幹システム、クラウドストレージといった、あらゆるデータソースを統合して、アプローチしたい企業との接点を教えてくれたり、商談の際にどういったストーリーで提案していきたいのか示唆をくれたりなど、AIを使ってチャット感覚で営業活動を支援する。アシスタントとして商談準備の効率化や顧客理解のヒントを提供し、提案力を高めることが狙いだ。

一方、MCPサーバーはMicrosoft CopilotやChatGPTなど外部生成AIツールとSansanを連係する仕組みだ。ユーザーは普段利用しているAIツール上でSansanのデータを直接検索・分析できる。質疑応答においては、大企業にはMCPサーバー、中堅以下にはAIエージェントをというターゲット戦略が示された。なお、課金体系は検討中だ。

AI投資の真の焦点とは

今回の発表会を通じて浮かび上がったのは、AI投資の真の焦点が「正確に構造化されたプライベートデータ」にあるという点だ。パブリックデータを参照するだけでは一般論しか得られず、企業独自の競争力は生まれない。名刺や契約書といった日常業務の接点情報を正確にデータ化し、統合・メンテナンスし続けることこそが、AI活用を成功に導く鍵である。

「インターネット上にあるパブリックデータだけを参照するのではなく、企業独自のコンテクスト、プライベートなデータを組み合わせていく。結局のところ、それでしか競争力は得られません。 AIは日々進行して進化していきます。 それに合わせて自社のデータを整備していくこと、他社と違う独自のプライベートデータをどう構造化していくか、それこそが今必要となるAIの投資であると考えています」と寺田社長。Sansanの新ソリューション群は、AI投資の第一歩を企業に提供する。DXからAXへの転換が、鮮やかに提案された会見だった。