これからの「採用」はどう変わるのか?④ ~企業は個人に対して、何を発信するべきか 企業が個人に対して発信すべきこと、取るべきコミュニケーションとは?~
急激な少子高齢化、労働人口の減少、デジタル社会への転換、AIの進化など、社会構造は大きく変化しています。その中で、我々が働く環境も変化を遂げつつあり、個人の「働く意識」が大きく変容しています。
そんな中、企業は個人に対してどう働きかけ、どんなコミュニケーションを図っていけばいいのか、解説したいと思います。
企業が発信すべき「H・B・L」とは?
これまでに、社会構造の不可逆的な変化とともに、転職市場が大きく変容していることをお伝えしました。そして、この変化を受けて、企業は採用戦略を進化させることが急務であることもお伝えしました。
今回は、企業は個人とどのようにコミュニケーションを取り、採用を前進させていけばいいのか、具体的な方法についてご説明したいと思います。
社会心理学によると、人が協働体に参加する際の魅力要因は、「目標への共感」「活動内容への魅力」「構成員への魅力」「特権への魅力」の4つに分類されます。そして、これらを転職シーンに当てはめると、さらに8つの魅力要因に分解できます。
・【目標への共感】理念・ビジョンの明快さ/戦略・目標の将来性
・【活動内容への魅力】事業・商品の特徴/仕事・ミッションの醍醐味
・【構成員への魅力】風土・慣行の親和性/人材・人間環境の豊かさ
・【特権への魅力】施設・職場環境の利便性/制度・待遇の充実度
以上を、「企業が個人に何を訴求し、どんなコミュニケーションを取るべきか」という視点で見たとき、3つのフレームに大別することができます。それが「H・L・Bフレーム」です。この3つのフレームについて、それぞれを明確に語ることが、採用コミュニケーションの大きなカギになります。
・Hは「Hill Top」=その職場の丘の上から、自らの将来の希望が見えるか?
事業の短命化が加速する中、新規事業に打って出ることなく既存事業で守りに入っている企業においては、自らの将来のキャリアが見えず、参画する魅力がありません。この丘に立てば、自分のミライが見通せる、成長への期待が描ける。そうした働き手の中長期のキャリアに寄り添って、ワクワクする未来へのビジョンや新たな仕掛けを発信することが大事です。
・Bは「Batter Box」=中途入社者が力を発揮できる裁量権や風土、環境があるか?
社歴に関係なくバッターボックスに立てる機会を与える組織は、中途入社者には魅力的です。新しく入社してきた人が、プロパー社員と同等かそれ以上に、その組織の未来を左右するような勝負の主役に躍り出る。そんな具体的なアサインメントの実績やエピソードを数多く語れる企業は強いと言えます。
・Lは「Lifework Fitting」=生涯現役で活躍するための柔軟な働き方ができるか?
人生100年時代が到来し、共働き家庭が増え、働きながら子育て、介護、学び、副業を行うなど、仕事と生活が組み合わさっていく時代。個人はライフステージによって「今は仕事の比率を増やしたい」「今は子育てのほうにパワーをかけたい」などギアチェンジする必要があります。それに伴い、企業は仕事のアサインメントを変えたり、所属部署を変えたりするなど、柔軟な労働環境を用意できることを伝える必要があります。
経営・人事・現場の三位一体で、一人ひとりに語り掛けることが大事
「個人に対してH・L・Bをまんべんなく語る」だけでなく、「誰が語るか」も非常に重要です。
H=「Hill Top」は、経営者や各部門のトップなど、経営ボードが自分たちの言葉で未来を語ることが大切です。これを人事に丸投げする企業が少なくありませんが、それでは企業の未来が見えず、個人も自身の将来像を描くことができません。
B=「Batter Box」については、現場のリーダーや、中途入社者が語るのが効果的。「入社してすぐに4番バッターを任され、活躍している」という事例を当事者、もしくは近い立場の人が語ることができれば、中途入社者が活躍できる土壌、風土をリアルに伝えることができます。
L=「Lifework Fitting」は、人事担当者の役割です。Work as Life、人生と働くことは同じという考え方が広まりつつありますが、「個人が輝くために、責任をもって仕事と生活を連携させる」と人事が宣言することが大切です。
この3つの要素は、ターゲットごとにバランスを考えながら伝えることが大切。人によって求めているものは異なるし、同じ人であっても置かれているステージによって異なるからです。
前回、十人十色ならぬ、百人百色のテーラーメイド人事を実施するために、経営・人事・現場の三位一体という新しいチームを構築することが大事だとお伝えしました。採用におけるコミュニケーションも同じで、一人ひとりの置かれた状況をしっかり聞き、その人に合った伝え方を考える必要があります。
例えば、今の勤務先が攻めではなく守りの経営に終始し、未来が見えない人であれば、どんな新たなチャレンジをしているかを前面に伝えるべきだし、中途入社者が活躍しにくい組織風土の中で悩んでいる人であれば、裁量権の大きさや中途入社者の活躍事例を厚めに伝えたほうがいい。そして子育てや介護など、制約条件がある中で頑張っている人に対しては、ライフステージに沿った柔軟な労働環境を用意できることを第一に説明するべきでしょう。
このH・L・Bフレームは30年以上も前からあるフレームですが、人材不足、採用難の今こそこのフレームに則って、一人ひとりにきめ細かく企業の魅力を伝えることが大切。求人広告における打ち出しはもちろん、面接の場や、入社後のコミュニケーションにおいてもぜひ活用いただきたいフレームです。