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Why Japanese pepole!?性格占いで人事アセスメント!?

 日本では先月、多くの企業で来年就職する学生の内定式が行われていたのではないでしょうか?各企業では、採用選考段階で何らかの適性検査を必ず実施していると思いますが、それを担っていた人事の採用担当の負荷は大きかったことでしょう。
 
 私の師である米国アイオワ州立大学の経営学のフランク・シュミット教授は、企業が実施する採用時の多様な選抜プロセスの有効性を調べるため、現在から約一世紀まで遡って職場の生産性データをメタ分析しました。
 
 その結果は、適性検査で生産性の高い人材を見つけることは、認知テストと比べて1/3程度という低いもので、身元照会と比べても低いという結果でした。
 つまり、適性検査は企業側からすると実施する人事担当者と受験者に負担をかけるだけといえる結果で、一方、受験者はこれで自分の未来が決まるという、ある意味、生産性の低い仕組みとも言えるものです。
 
 しかし、ある種の適性検査は自身がどんな人物かを知るには有効であることも解りました。今回はその米国でポピュラーな人材評価についてのお話しします。

米国のスタンダード「MBTI」と、その問題点

 米国では、人材の心理的評価(性格分類方法)としてマイヤーズブリックスタイプインジケータ(MBTI)がスタンダードとなっています。1962年から2010年代初頭まで、米国内の10,000社以上の企業、2,500の大学、200の政府機関、約5,000万人がMBTIの人格テストを受けたと推定されています。米国でのMBTIの受験は、国務省から世界的に有名なコンサルティング会社まで、一種の通過の儀式のようなものとなっています。
 
 これは、1962年にイザベラ・マイヤーズとキャサリン・ブリックスの2人の女性が、20世紀の著名な心理学者カール・グスタフ・ユングの類型論の3つの指標(内向性と外向性、感覚的と直観的、思考型と感情型)に、判断的態度と知覚的態度という独自の指標を加えて、4指標16タイプで性格を分類したものです。

 MBTIは受検者の性格を分析診断するアセスメントではないとしています。その目的は、検査結果から受検者本人がMBTIの著作管理団体が認める有資格者のトレーナーからフィードバックを受けながら自己理解を深めて行き、本人自身が如何なる性格であることかを知り、自己肯定感を増やし、他者との違いは「特性」の違いではなく「質」の違いであることを理解することで、他者を肯定的にとらえることができるようすることです。

 これはイザベラ・マイヤーズが第二次世界大戦を経験して、世界平和への貢献には他者を肯定的にとらえることが必要ということで、この性格分類方法と自身の理解と他者の肯定のプロセスを生み出したとされています。

 MBTIの著作管理団体の取締役会にはカール・ソレセン(Carl Thoresen)、ウェイン・カシオ(Wayne Cascio)、クリスティーナ・マスラッハ(Christina Maslach)の3人の著名な心理学者を抱えていました。特に、カール・ソレセンは長年スタンフォード大学の心理学教授であったので、彼らがMBTIの著作管理団体の所属していることで、その信頼性とブランドは自ずと高まりました。しかし、ソレセンのキャリアの中で発表された約150の論文の中に、MBTIへの言及は全く無いのです。

 カール・ソレセンは「私は実際にMBTIを使用しましたが、私の研究では使用しませんでした。」と発言しています。実はMBTIはソレセンに限らず、心理学研究者によって科学的な有効性の検証が一切されていないという驚くべきものなのです。現在、米国心理学会のデータベースにアクセスして、MBTIに関する論文を検索しても一切出てきません。

 これは、米国ではユングの実績が、経験的なデータ分析から心理学が科学になる前に作られた神秘主義的な学説が多く、日本とは異なりあまり信頼された学説として認識されていないこと。
 MBTIがそれをベースにして作られたものであり、またその制作過程でも明らかに科学的な手法(コンピュータが自在に使える時代ではなく、家のテーブルでタイプ分けを作っていたとされています。)がとられていなかったことが解っていること。
 著作管理によって大きな利益を生み出す商業システムが出来上がっていて、今更それを否定することが出来ないこと。
 以上が誰も研究を試みない理由なのです。
 確かに世界で一番使われている性格診断なのですが、米国心理学会ではMBTIは科学的根拠が無いものとして認定されていて、これを賞賛することはタブーとなっています。

五因子理論(ビックファイブ)とMBTIの違い

 現在、人格型(性格)を導き出す最善の研究結果としては、数十年にわたって行われた幾つかの大規模な独立した研究プロジェクトから生まれた五因子理論(ビッグファイブ)があります。これはMBTIの4つの指標(内向性と外向性、感覚的と直観的、思考型と感情型、判断的態度と知覚的態度)に対して、人格を支える5つの指標(開放性、良心性、外向性、快適さと神経症)を発見しました。これらは頭文字OCEANで表されます。5つのうち、外向性だけがMBTIと共通なものとなっています。

 五因子理論(ビックファイブ)は商業的な目的では無く、パブリックな研究が目的で生み出されたものであり、この著作の管理でビジネスでの収益を上げることが出来ないことがMBTIとの大きな違いとなります。
 またMBTIの大きなセールスポイントとして、分類による結果のアウトプットが明らかにポジティブな内容になっていることです。五因子理論(ビックファイブ)での分類は人格的特性に肯定的ではないことも含まれる場合が多々あり、企業の人材育成には、情熱、モチベーション、コラボレーションなどの言葉が重視されており、これらとシンクロするポジティブな表現を企業の現場では望まれることが多いことから、MBTIと比較して結果が冷たく否定的な内容を含む場合がある五因子理論(ビックファイブ)は、マーケティング的に使いづらい可能性があります。

 20世紀後半から企業の競争優位性の中核的な要素として、人材経営が注目されてきました。その人材の心理的評価としてMBTIは最もポピュラーなものとなったわけですが、実際には前述のとおり、科学的な根拠が検証されていないエンターテインメント的な「性格占い」と変わらないものだったわけです。

 「性格占い」が悪いわけではありません、その結果が五因子理論(ビックファイブ)のように本当のことであっても知りたくない否定的な内容ではなくて、常にポジティブなアドバイスを提供されて、それを受けとる個人の心理的エンパワーメントが向上するのであれば、それは意味があるものです。前述のとおりMBTIは自己肯定感を向上させ、他者を肯定的に受け入れるようにして、組織の中でチーム作りやコミュニケーションを円滑に進められるようにすることが目的で、アセスメントではないとしていますから科学的な根拠が無くても良いわけです。

日本の人事アセスメントは「科学的」ではない

 さて、日本では正規のMBTIは米国ほど普及していないようですが、MBTIをベースにしたアセスメントや、MBTIの分類を明らかに模倣したものが幾つか存在しているように思われます。MBTIの著作管理団体は世界中にあるMBTIの無断利用や模倣されたものを発見し訴訟を起こすことを積極的に行っていますが、日本国内でそういったものが存在していることを見ると、やはり日本語の壁は厚いようで、著作管理団体がこれらを見つけ難いのではないかと思います。

 日本のHR TechではMBTIの模倣や五因子理論(ビックファイブ)に似たような心理指標を独自に作って、その分類や指標データを統計分析やAI分析するといったものが「科学的」として提供されていることに本当に驚きます。これが「性格占い」なら全く問題は無いですが、人事アセスメントは結果によっては従業員の人生に大きな影響を与える可能性があります。

 人事アセスメントを提供している企業は、具体的に自社の分類・分析方法(統計やAI以外)の具体的な科学的根拠を示す必要があるのではないでしょうか。ただ、どこかの大学教授が推薦しているとか、学会や学会誌で発表されても査読や検証を受けていない段階のAI分析で相関関係が認められたなどは、決して科学的なことではありません。

 MBTIはアセスメントでは無く、その分類結果から専門のトレーナーによるアドバイスを受けて自身と他者の肯定を導くものなので、前述のとおり科学的な根拠は必要なくても良いのです。
 しかし、この分類・分析方法(模倣や独自で用意されたものも含む)だけをアセスメントとして使うことは、科学的な根拠を検証されていないもの、すなわち「性格占い」を使って、採用や人事配置のような人の人生を大きく左右することを平気でやっていることに他なりません。これを確信犯としてやっているのは勿論ですが、知らないでやっていたというのも相当罪深く、それを採用した企業の人材経営を場合によっては間違った方向に誘導し、内部から壊す破壊兵器に変わってしまう恐れがあると思います。

マーケティングの視点で見てしまうと、人材は「人間」ではなくなる

 最新の経営心理学の研究では、パフォーマンスやエンゲージメントや離職の可能性など、様々なことが、五因子理論(ビックファイブ)から性格の要素と職場での各種の心理要素の因果・相関関係をメタ分析から数式化することが出来ています。
 パフォーマンスやエンゲージメントや離職の可能性の現状分析は、わざわざAI分析を用いなくても出来てしまうのです。これは日本ではほとんど知られていません。私はこの研究の専門家で、その数式を作り出し他の研究者からの検証なども得て、その有効性を認められたものとなっています。

 どうやら日本の大学での心理学分野は、ユングの心理学をベースとしたカウンセリングが古くから確立され、それが今でも主流となっていて臨床心理学が中心になっているように私の目には映ります。臨床心理学以外の経営心理学や産業心理学(経営学分野を含めて)の研究者が少ない感じがします。
 そのため、ビジネスの現場では経営心理学の研究を参照することがほとんど無く、代わりに心理学とは全く関係無いマーケティング的な手法を取り入れて問題解決するビジネスを展開する流れが出来て、適当な人事アセスメントが疑いも無く使われていると思います。

 実際に、日本でのワークエンゲージメントは、マーケティングでの商品やサービスに対する常に維持され続けるエンゲージメントと同じ概念で語られています。そのことから経営心理学では無く、マーケティング的な視点が人事領域でも普及していることが解ります。
 人と仕事の間で常に高いレベルでエンゲージメントを維持させることは、返って逆効果となり、どこかで一旦エンゲージメントを切らないと燃え尽き症候群になってしまう可能性があります。マーケティングの視点で人事を見ると、人材を「人間」ではなく経営に必要な「資源(リソース)」として見てしまうのではないかと思います。

 米国に比べ10倍近くも人材紹介系の企業があると言われる日本では、この業界でのマーケティング戦略的に考えると、(意図的に?)間違った人材分析により生産性が上がらなかったら、(意図的に?)エンゲージメントを上げ過ぎて燃え尽きてしまったら、日本の企業は解雇が難しいから自発的に辞めていく方向に誘導して、また新しい人材を提供すればいいわけですよね。
 だから、「性格占い」のような人事アセスメントがたくさんあり、エンゲージメントやモチベーションをとにかくアップさせようとする。これは合理的で良く出来たビジネスモデルであるのかもしれませんね。
 これは私のブラックジョークです。現実はそうでないと思いますけどね。(笑)
 
 日本のHR Techは今一度「科学的」の意味を問い直すことが必要ではないかと私は思います。