これからの「採用」はどう変わるのか?⑫~リモートワーク下で重視される「ジョブ・アサインメントモデル」~
急激な少子高齢化、労働人口の減少、サービス経済化、デジタル社会への転換、AIの進化など、社会構造は大きく変化しています。働く個人の生き方や働き方に対する意識も大きな変化を遂げつつあり、そこに向き合う企業も採用戦略の新たな在り方が問われ始めています。
そんな中、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、企業の採用活動や人材育成方法も大きく変化しています。今回は、リクルートワークス研究所が研究する、リモートワーク下におけるジョブ・アサインである「リモート・マネジメントモデル」*¹の重要性について、紹介・解説したいと思います。
働く領域において重要な「5つの“ル”」
新型コロナウイルス感染症拡大による在宅勤務増加で、各企業においてリモートワークが一気に浸透しました。このリモートワークという新しい働き方において、どんなツールを使えばいいのかという話は活発に行われていますが、それ以外がおざなりになっていると感じています。
私は常々、働く領域においては5つの「ル」が大切だとお伝えしています。5つの「ル」とは、「ゴール(目標)」、「ロール(役割)」、「エール(応援)」、「ルール(既定の設定)」、そして「ツール」。今、世の中では「ツールが良ければリモートワークもうまくいく」と思われていますが、他の4つの「ル」があってこそ、リモートワークは成り立つのだと思います。
今回ご説明したい「ジョブ・アサインメントモデル」とは、チームの業績を最大化しつつ部下の成長も実現するために、ミドルマネジャーが身につけるべき行動を体系化したもの。このモデルは①目標設定、②職務分担、③達成支援、④仕上げ検証の4つのステージからなり、それぞれのステージには具体的な8つの行動が含まれていますが、この「4つのステージ」はまさに5つの「ル」のうち見落とされがちな4つの「ル」と合致します。そして今の状況下において、より一層着目されるモデルであると捉えています。
ジョブ・アサインメントモデルの徹底が生産性とモチベーションを上げる
従来の日本の雇用環境では、実際のオフィスがあり、人と人とが物理的に触れ合える環境がありました。その中、暗黙知の業務であっても、長期にわたって背中を見せれば若手を育成できると考えられていました。
しかし、リモートワークにおいては、「背中で見せて暗黙知を伝える」のは不可能です。
社会が目まぐるしく変化する不確実な状況において、あいまいなゴールのもと、あいまいなロール設定をして、遠隔だからとエールをおろそかにし、あいまいな評価ルールのもとで検証を怠っていては、どんどん本来の歩むべき道から外れてしまい、隘路に迷ってしまう恐れがあります。
こういう状況だからこそ、明確にゴールを設定して、各メンバーにできるだけ詳細な役割を渡す。そして頻度良くこまめに状況を確認し、フォローしながら業務を進め、定期的に振り返りを行って、何の要素や行動が成果に起因し、何の要素や行動が成果になったのか検証し改善する。この4つのステージをきめ細かくやり切ることが、リモートワークの生産性と、個人のモチベーションを大きく左右するのです。
シミュレーション、サイズ調整…リモートワークで重要な8つのポイント
さきほど、「ジョブ・アサインメントモデルは4つのステージからなり、それぞれのステージは具体的な8つの行動が含まれる」とお伝えしましたが、全32項目のうちリモート・マネジメントにおいて特に重要な8ポイントがあります。マネジメントプロセスの手順に従って、簡単にご説明します。
「シミュレーション」
仕事をアサインする前に具体的な見通しを立てる
「サイズ調整」
仕事の単位をやや小さめに区分して1つの仕事の納期を短めに設定する
「権限委譲」
メンバーの自律度に合わせた適切な権限委譲を行う
「モニタリング」
報連相に依存せず、こちらから1on1ミーティングを週次で設定するなど、勘所を押さえたプッシュ型のモニタリングを行う
「互助」
マネージャーの関与は最小限にしてメンバー同士の助け合いを促すようなネットワークを作る
「危機管理」
リスクを感じる状態に至ったときには迷わず仕事を引き取る
「完了確認」
終わりを明確にして仕事の空白を避ける
「成果共有」
仕事の成果や上手くいった要因をすべてのメンバーでシェアする
そして、これらを随時振り返って軌道修正し、ブラッシュアップしていくことも重要です。
スポーツの世界での優秀なヘッドコーチは、アスリートの成果と成長の両面を見ながら、何を目標に置き、何を任せて何をサポートするべきか常に考えています。企業のマネージャーも同様の方法で、メンバーの成果と成長をマネジメントすべきです。リモートワークが多くの業種や業務の中で当たり前になってゆくと、メンバーごとに何を目標に置き、何を任せて何をサポートするべきか明確にして実行できる会社と、そうでない会社で、今後の大きく二極化し、業績や将来性を左右すると考えられます。
働き手が自らゴール設定することが重要
なお、これらを決定するときは、マネージャーの独断で決めてしまうのではなく、メンバーの声を反映することが重要です。特に重要なのは、ゴール設定。「この領域にもっとパワーを割いたほうがいいのではないか」「自分はこれが得意だから、この分野で頑張りたい」など、リモートワーク下だからこそメンバーの自主性を尊重し、自らゴールセッティングし行動してもらうことが大切です。
この半年の間に、企業を取り巻く環境は大きく変動し、働く環境も変化せざるを得ませんでした。しかし、役職者のマネジメントを進化させるチャンスであり、働き手側のオーナーシップやプロフェッショナリズムを引き出すチャンスでもあると言えます。この環境をぜひ前向きに捉え、各企業における「働く」をさらに進化させてほしいですね。
*「2020年7月2日執筆・寄稿」
*¹:リクルートワークス研究所 ジョブ・アサインメント for リモートワーク
https://www.works-i.com/project/remote/model/detail003.html