元企業人社労士から見た企業を取り巻く今 〜 組織開発について(その1) ~
先行き不安な日々です
第二波なんでしょうか、これを書いている今日現在、東京都での新型コロナ感染者数は300人に迫り、更なる感染拡大が懸念されています。旅行・観光業の業績回復を期したGoToキャンペーンも、感染者数の最も多い東京都だけを外すことになってしまい、議論百出の様相ですし……
私が、果たして「組織開発」を語れるか?
さて今回取り上げる「組織開発(Organization Development:以下OD)」は、ずいぶん昔から使われてきている言葉なのですが、最近取り上げられることが多くなってきているとお感じになる方も多いのではないでしょうか? それゆえ、今回テーマとして取り上げたという側面もない訳ではないのですが、もう少し私なりの理由があります。それは、企業研修を通して人財育成の仕事に携わらせていただいていますが、いずれODという分野にも踏み込まなければならないだろうという思いを予々持っていたからなのです。そう思う所以をこの後少しずつお話ししていきたいと思います。
ODとよく引き合いに出される言葉に「人材(財)開発(Human Resource Development:以下HRD)」があります。こちらはその名の通り「人」の能力開発を目指すものということですから、比較的理解し易いと思います。一方のODは、何を行うのか分かり難いとお考えの方が多いのではないかと思います。かくいう私も少し前までは、ODとは新しい組織を作り出す活動なのか? または、組織の何か特別な部分を開発するのか? という程度の理解しか持ち合わせていませんでした。それゆえ、とてもODについてお話しできるほどの自信もありませんので、もしかすると中原先生・中村先生(※1)の受け売りになってしまうかも……と少し危惧しています。
誌面の関係で、今回はODの私なりの理解や、何故それを取り上げることにしたのか? という点についてのみお話させていただき、具体的な手法や実施例等については次回以降にご案内したいと思います。
組織と個人の関係性が問われている今だから……
また、最近のテレワークやオンライン会議(飲み会も?)の拡大に伴い、組織内のコミュニケーションの希薄化(及びその懸念)が社会的な問題として取り上げられることが多くなったように感じることも、今回ODを取り上げた要因の一つです。ODが、組織内コミュニケーション対策の万能薬になるとは申しませんが、処方箋の一つにはなり得るだろうと思っています。
HRD、ODの目指すところ
HRDの目的は、個々の人財の職務遂行能力を高めることにより、事業目的の遂行、企業理念の達成に資することです。企業がHRDに投資するのは、その事業目的や理念を達成するために、より生産性を高めることを意図しています。
しかし、折角その人財が期待通り成長しても、その能力・スキルを発揮できる場・環境を用意することができなければ、その投資が活きないどころか、最悪の場合離職によりその投資が無駄になってしまうということもあるでしょう。即ち、HRDは企業の目的・理念の達成に向けての必要条件ではありますが、十分条件とするにはもう一歩、個々の人財が属する組織の中における関係性にまで、踏み込む必要があると考えるようになりました。そうなんです、ODとは「計画的で、組織全体を対象にした、トップによって管理された、組織の効果性と健全さの向上のための努力であり、行動科学の知識を用いて組織プロセスに計画的に介入することで実現される(Beckhard、1963)」(※1)活動なのです。といっても、全く分かりませんよね。そこで、すごく平易に中原先生・中村先生がかみ砕いていただいたODの具体的な進め方を紹介しますと、
ステップ①:見える化 組織の抱える根本的な課題を可視化し
ステップ②:ガチ対話 その課題に構成員全員が向き合って、「真剣な対話」を行い
ステップ③:未来づくり 組織のあるべき姿を議論し、その実現をコミットする
ことなのです(筆者による要約)。こうして初めて、組織が有機体として機能するようになる、と私も思うのです。
企業は複数の人間の集合体ですから、その成長に伴って次第に分業体制を整え、役割・機能を分担した組織を形作ります。それぞれの組織がその担う役割・機能を十分に発揮できなければ、事業目的・理念の達成に向けた活動も、円滑に遂行することはできません。HRDによって組織に属する個々人の能力を引き上げることができたとしても、それを組織(チーム)としてまとめ、組織間の連携・調和を図ることができなければ、企業総体としての成長・発展には結びつかない訳です。個々人の能力が十分発揮できる場を整えるとともに、その力を束ね目指す方向に集結させる働き(所謂、「リーダーシップ」「マネジメント」)や、他の組織と連携・協調させる機能が求めらます(組織マネジメントの必要性)。
そうした機能を発揮させるために、その組織を率いるリーダーの役割は重要です。これまでリーダーシップの在り方やそのスタイル等が研究されてきましたし、マネジメントに携わるリーダーには、大きな期待が寄せられてきました。しかし上述のとおり、単に組織のリーダー(マネジャー)の資質・能力に頼るのでは、その組織全体の能力・パフォーマンスがそのリーダー(マネジャー)のそれに制限されてしまうということでもあります。組織全体のパフォーマンスを上げるには、リーダーだけに焦点を当てるのではなく、構成員を含めた組織全体をその対象として捉え、そこに対する働き掛けが必要なのだと思うのです。
繰り返しになりますが、組織全体のパフォーマンスを上げるために、マネジメントのリーダーシップは必要不可欠です。HRDに携わっていて、この考えが揺らぐことはありません。しかし、HRDとともにODに取り組むことで、一層効果の上がるHRDが可能になる、もっと言えば、ODを見据えたHRDによって、企業の最終的な目的である事業目的・理念の達成に対して、もう少し貢献できるのでは? と考えるようになりました。
企業を取り巻く環境は、新型コロナ感染症の劇的な拡大によって大きく変わってしまいました。企業・組織におけるコミュニケーションの在り方が、色々論じられていることは先に掲げたとおりです。しかし組織の在り方や、運営手法・働き方が変わろうとも、企業の目指す目的や理念が一変する訳ではありません。従来、顔を合わせて(場合によっては、阿吽の呼吸で)行われていた企業内コミュニケーションが、オンライン等の手段を用いることに置き換わるだけで、組織の基本的な機能も変化しません。それゆえ余計に、これまで以上にODの手法が求められ、それによって得ることのできる組織の活性化を、今こそ実現する必要性が高まっていると考えるのです。
ODとは?
さて、改めてODとは何か? について考えてみたいと思います。先にお断りしておきますが、私自身が理論的なバックボーンを持って皆さんにお話しできることは限られていますから、中原先生・中村先生の知恵をお借りする場面が多いことをご承知おきください。
学問的な定義としては、先に挙げたBeckhardの「計画的で、組織全体を……」を始めとして、とてもたくさん(中原先生・中村先生によると27通りも!)存在しています。その何れもが「学問的」だからなのか、分かり難い点では共通しているようです。それこそが、ODを取っ付き難くしている大きな要因ではないかとも思うのですが……
そう思うと、先生方の掲げられた①~③の具体的な手順は、シンプルで分かり易いですよね? これなら「じゃあ、やってみようか!」という気にもなろうというものです。
ODの目的は、「(企業がその目的・理念を達成するために)組織がその本来の目的・機能を果たすことができるようにする」ことであり、それを「意図的に働き掛け」て、目的・機能を果たすことを阻害している「組織課題を解決する」ことが、その手法であるということです。
やるからには、「覚悟」が必要!
しかし簡単そうには見えますが、実際に取り組むのはそれほど容易ではありません。先ず第一に、課題を抱えるトップマネジメントには、その課題解決に向けてODに取り組むという(不退転の!)決意を固めていただかなければなりません。中途半端に取り組んで、「やっぱり(大変なので)止〜めた!」と途中で放り出してしまっては、取り組んだ組織メンバーの挫折感・脱力感は計り知れませんし、梯子を外された格好の組織のリーダーにとって、以降の組織運営は大変難しいものとなることが想定されます。
また、現場で実践するに際しても、大きな問題がありそうです。そもそもODには、教科書に載ってるような決められた手法は存在しませんから、①計画通りには進まない、(何しろ現場で起こる問題を扱うがゆえに)寧ろ想定外のケースが多発することが容易に想定されること ②現場の課題はODによって解決するというよりも、別の手立て(例えばHRD)での解決を目指す方が適しているケースが現れること も起こり得るでしょう。
こうした問題に対して、ODを実践できる要員を自社で育成することは、大きな負担になりますから、ODそのものを外部のコンサルタントに委託するのも、一つのやり方です。アウトソース(外部委託)するにせよ、内製化して自社で取り組むにせよ、担当される部門に何よりも求められることは、問題の起きている組織・人・事象から目を逸らすことなく、その解決に当該組織関係者と一緒に取り組むことです。そこで問題を抱え、悩み苦しんでいる従業員(または、顧客・取引先等)がいる訳ですから。「組織の抱える課題を解決し、事業目的・理念の実現に邁進する」という固い決意なくしては、安易な気持ちではODに(限りませんが)取り組むべきではないと思うのです。
※1:中原 淳、中村 和彦『組織開発の探究 理論に学び、実践に活かす』ダイヤモンド社、2018