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これからの「採用」は どう変わるのか?⑰~ 「クラシゴト改革」で働く×住むの関係性が変わる

 急激な少子高齢化、労働人口の減少、サービス経済化、デジタル社会への転換、AIの進化など、社会構造は大きく変化しています。働く個人の生き方や働き方に対する意識も大きな変化を遂げつつあり、そこに向き合う企業も採用戦略の新たな在り方が問われ始めています。
 
 そんな中、コロナ禍により「働く」と「住む」の関係性が変わり、新たな動きが生まれています。この動きを「クラシゴト改革」と名付け、詳しく解説したいと思います。

■テレワーク加速で「住まい方」にも変化が生じている

 新型コロナウイルス感染症の拡大で、テレワークへの移行が加速していますが、それによって人々の価値観が大きく変化し、働き方と暮らし方に新たな潮流が生まれています。

 リクルートキャリアが2020年8月に実施した「新型コロナウイルス禍での仕事に関するアンケート」によると、昨年4月~5月の緊急事態宣言下でテレワークを経験した人は全国平均で48.0%。東京都では71.1%もの人がテレワークを経験しています。
 さらに実際にテレワークを経験された方の多くからポジティブな声があがってきています。例えば、「自己の判断で自由にテレワークができるようになって良かったですか」という問いに対して66.1%は「良かった」、「今後もテレワークを続けたい」と答えています。
 そしてテレワークの加速は、人々の「住み方」にも大きな影響を与えています。リクルート住まいカンパニーが昨年5月に実施した「新型コロナ禍を受けたテレワーク×住まいの意識・実態」調査によると、「今後もテレワークが続く場合、今の家から住み替えを検討したいか」との問いに対し、24%の人が「検討したい」と答えています。日本で1年間に引っ越しをする世帯は約5%ですから、この数字がかなり高いものだとお分かりいただけると思います。

 都心近郊外への移住や都心と田舎の二拠点生活に対するニーズも高まりつつあります。
 「SUUMO」物件ページの閲覧数が、コロナ禍を受けて伸びたエリアを見ると、中古マンションの1位は神奈川県三浦市、2位が逗子市、3位が横浜市瀬谷区、4位が千葉県成田市、中古戸建ての1位は千葉県富津市、2位が館山市、3位は栃木県那須町。風光明媚でリゾート性を兼ね備えたエリアの閲覧数が上がっていて、「テレワークだから少し遠くに拠点を構えてもいいのでは」と考える人が増えていることがわかります。

 テレワークは「場所」だけでなく、「時間の使い方」にも変化をもたらしています。仕事の前後に時間を作って趣味や副業に挑戦する、ボランティアや勉強をする、など。コロナ禍で仕事と暮らしの「自由度」「裁量度」が増し、個人の中で「働き方も住まい方も自分で自由にコントロールする」という感覚が強まっていると見られます。

■生き方そのものをデザインし直す「クラシゴト改革」が顕著に

 そして、個人の価値観にも変化が生じています。
 「コロナ禍を受けて自分の将来を見つめ直したり考えたりしましたか?」と聞いたところ、はい(見つめ直した)と答えた人が58.8%に上りました。※『コロナ禍を受けた住まいと暮らしの価値観調査』 リクルート住まいカンパニー調べ

 さらには、転職検討時の重視項目も変化しています。これまでは「仕事内容」などが上位に来ていましたが、「プライベートの時間を十分に確保できる」「働く時間を柔軟に変えられる」「テレワークが認められている」「副業が認められている」を重視するとの声が非常に増えています。働く時間や場所だけでなく「仕事の内容」も、自身のありたい生活を中心に考えながらもう一度選び直す。そんな人たちが増えているのです。※『新型コロナウイルス禍での仕事に関するアンケート』2020 年 リクルートキャリア調べ

 これらの変化を、「人生をもっと豊かにする暮らし方、働き方の変化の兆し」と捉え、「クラシゴト改革」と名づけました。

 従来言われていた「働き方改革」は、業務時間内の生産性をどう上げるか?という会社起点の概念でしたが、コロナを機に生活者とか働く人が自ら変わる、暮らしごと変えていくという個人起点の概念に変わりつつあり、クラシゴト改革は今後ますます進展すると見られます。

■自分らしい暮らし方・働き方を実践する個人と、それを支援する企業

 「クラシゴト改革」実践者の事例を、いくつか紹介しましょう。

 IT関連企業勤務の20代男性は、コロナ禍でフルテレワークになったのを機に、
都内から実家のある鎌倉に戻ることに。朝夕など仕事の合間に趣味のサーフィンをするという生活にシフトしたところ、格段にコンディションが良くなったのだそうです。
これをきっかけに、小田原で友人とシェアハウスを借りたり、長崎の五島列島にワーケーションできる場所を借りたりして、数カ月さまざまな場所で働きながら暮らしたとのこと。ワーケーションを機に新たな仲間ができ、会社以外の居場所ができたことで心身ともに成長し、仕事にもプラスの影響が出ているのです。

 民間気象会社に勤務する20代のご夫婦は、勤務先に副業交渉を行い、以前から憧れていたフォトグラファーとしての仕事を請け負うようになったそうです。コロナ下でフルテレワークになったことで、平日は7時から15時まで勤務、その後の時間はワーケーション先で、フォトグラファーとして活動。憧れの仕事ができている喜びに加え、インプット量が増えたことで新しいアイディアを会社に提案するなど、本業にもいい影響が出ているとのことです。

 一方で、クラシゴト改革を支援する企業も現れています。
 JTBでは、居住登録地でテレワークをベースに業務に従事できるようにする「ふるさとワーク制度」を導入。転勤辞令が出ても、今いる場所に住み続けながら、異動先の業務にはテレワークで従事するというものです、家族が離れ離れになったり、プライベートで取り組んでいる活動から離れることなく働き続けることを支援する制度です。また、この4月からは、一律週5日勤務という働き方ではなく、社員の希望に応じて5つのパターンから年間の勤務日数を選択できる「勤務日数短縮制度」を導入予定。社員一人ひとりの生き方や働き方を個人が自律的に選べるように支援することによって、顧客サービスや生産性の向上、働きやすさの追求による社員のエンゲージメント向上につなげたい考えです。

 ヤフーでは、リモートワークの回数制限を解除してフルリモート化を実現したほか、通信費などテレワークにかかる費用を月7,000円まで補助。また、オープンイノベーションの創出を目的に、100名を超える副業人材を受け入れています。イノベーションの芽はオフィスの中ではなく、社外との交流により出てくるということを理解し、社員の活動をどんどん解き放つことが必然と捉え、暮らしの中から改革を生み出すことを応援しています。

 どちらの事例も、従来型の「会社中心の働き方改革」ではなく、「生活者中心のクラシゴト改革」にすることによって、最終的に企業自身もサービスの進化、ユーザー体験の向上という合理的な果実を狙っています。今後、「クラシゴト改革」を積極的に支援する企業がますます増えていくのではないかと予想されます。

■企業・個人が「クラシゴト改革」を進めるためのヒント

 コロナ禍でさまざまな制約条件が外れたことにより、従来のように「仕事か生活か」「仕事か家庭か」というトレードオフではなく、どちらも大事にするという方向に進んでいくと思われます。

 ここで、「クラシゴト改革」を進めるうえでのヒントを個人向け、企業向けに分けてご紹介します。

<働く個人へのヒント>
1.見つめ直し
  自分や家族が本当に実現したい暮らし方・生き方を考え直してみる
2.お試し
  新たな暮らし方を体験し、実際に確かめて不安を解消する
3.環境づくり
  意思を口に出す、周囲や会社に相談してみる、仲間を作る
4.計画・実行
  実現のための準備・意向を計画的に行う

<企業へのヒント>
1.制度・ルールの見直し
  働き方・暮らし方の裁量度拡大を支援するための見直しを行う
2.フィジビリティ・スタディ
  希望者を募って実証を行い、課題を把握したうえで制度化を行う
3.環境の整備
  IT環境・テレワーク環境を整備する
4.現場での工夫と実践
  個人の働き方・暮らし方の違いを認めたマネジメントとチームワークを実践する

 企業は早急に、「会社が中心」という概念から、「個人が自らの暮らしを中心に働き方をデザインする」という概念に変えていかないと、本質を見誤る恐れがあります。新しい価値の創出は、もはや会社やオフィスの中だけでは難しく、ユーザー体験やオンライン体験のなかで生まれてくるもの。社員一人ひとりに、暮らしのなかでいかにしてアイディアフルな力を発揮してもらうか、考える好機ではないでしょうか。