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“力強く成長を遂げる若手”育成のヒントとは─「力強い中堅社員」を育てるための「若手育成」の処方箋vol.3

第2回では、「ここ数年、お客様から『以前より自律して働く若手とそうでない若手の差が開いている』『すぐに離職につながってしまう』という切実な声が増えている」こと。そしてその要因として「若手自身の価値観の変化」「若手OJTを巡る環境の変化」という2点から考えてきました。
一方でこうした中でも、「仕事に集中して取り組み、力強く成長を遂げている若手がいる」のも事実です。そのような若手は、一体どのような考え方・捉え方・工夫をしているのでしょうか。第3回では具体的な事例をご紹介しながら、若手育成のヒントを考えていきます。

「仕事自体にあまりモチベーションを持てない。自分でどうなりたいのか目標を持てず迷走中」

ある専門商社勤務のAさんが、入社2年目を迎えて以降、感じていた問題意識です。

現場の一線で仕事をしたいと思い、意気揚々と入社したものの、配属は希望とは異なる人事・総務部。正直ショックは隠しきれなかったものの、1年目は仕事も覚えることも多く、それなりに充実して仕事に取り組めていました。しかし2年目になり、仕事に慣れ落ち着いてくると自身の業務は「決まりきった仕事、同じことの繰り返し」に思えて単調さを感じるようになってしまいます。周りの同期が現場で仕事を任され活躍し、専門的な知識・スキルを身につけているようにみえ、「それに比べて自分は……」と感じていたようでした。

もし皆さんの後輩にAさんのようなメンバーがいたとしたら、どう感じ、考え、関わりますか?

「Aさんの気持ちは、わからなくはないが……」
「どんな仕事にも工夫できることはたくさんある。自分の捉え方次第ではないだろうか」
「まだ2年目。どっぷりと今の仕事に取り組めば、面白さもわかってくるのではないか」
なんだか「もったいない」。そんな感じ方をされるのではないでしょうか?

そんなAさんが、あるきっかけを境に、「今やっている仕事が、必ず未来のキャリアに繋がってくると感じられたので、明日からまたやっていこうと思えた」と言って前向きに仕事に取り組み始めました。上司からみても「顔つきがよくなったのでびっくりした」とのことでした。一体、Aさんに何があったのでしょうか?

“雑多”と感じられる仕事への捉え方

きっかけは、「同期と仕事やキャリア、問題意識を巡って交流する研修の機会」でした。手前みそながら弊社の研修なのですが、そこでAさんはいくつかのことを感じたようでした。

若手同士で仕事上の問題意識を話していると、実は「他の現場に配属されて、一見華々しく仕事に取り組んでいると思っていた同期も、雑多と感じられる仕事に対してモチベーションを保つことに苦労していること」がわかったそうです。

しかし同時にそのような仕事に自分なりの意味づけをして取り組んでいる同期がいたことに驚きました。一例をあげると「一見自分に関係ないと思える会議や議事録の打ち込み」に対して「自分の考えを整理する場になるし、他の事例を知る機会になる。全ての打ち合わせが自分の成長につながると思っている。議事録はお客さんから聞かれたときに備えて聞いている」という意見を聞き、「正直すごい」と思ったそうです。

「面倒、億劫と思えていた仕事への見方・感じ方」をやりとりするうちに、Aさん自身も新入社員のころ、あるイベントを仕切ることになった体験を思い出したそうです。任された当初は「なぜ自分が……」と億劫さを感じていたのですが、途中から「任されたことだから」と当事者意識をもって取り組み、こだわって準備した結果、「一手先をイメージして段取りを組むこと」の大切さを実感できたそうです。もしも適当に取り組んでいたとしたらそのことは掴めなった、とも思いました。その体験を話したところ、現場の一線で頑張っている同期からは「それは大事なことだ」とフィードバックをもらえて、嬉しかったそうです。

交流を続ける中でAさんは、「どんな物事・仕事にも当事者意識をもって取り組む姿勢」というのは、「どの部署・どの業種にも共通するビジネスマンとしての行動原則であり、大事な力だ」「その力は今の仕事の中で磨くことが可能だと思えた」、と話してくれました。その後、Aさんとは定期的に接点がありますが、以前のような悩み方はしなくなったそうです。

Aさんはなぜ、目の前の仕事に前のめりに取り組むようになったのか

Aさんは、どんな仕事にも当事者意識をもって取り組むことが大事なことだと頭ではわかっていたし、仕事の中でそのような姿勢を大事にして取り組んだ体験の持ち主でもありました。きっと心の中には「今、目の前の仕事にも手を抜くことなく集中して取り組めば、自分にプラスになるはずだ」という自分もいたと思います。

一方で、「そこまでして何になる……」という後ろ向きな自分もいた。心の中での気持ちの綱引きが起きていたのではないかと思います。

それが、仲間の体験や、自分の過去の体験を振り返ることを通して、自分の中の前向きな気持ちが強くなり、綱引きに勝つことができた。「自分の中にある前向きな捉え方を信じてもう一回やってみようと思えた」のではないでしょうか。

このケースから学ぶべきことは何か?

図表①を参照ください。

目の前の日常業務に集中して取り組んでいない若手を育てる立場にあるマネジャーは、このような症状の若手をみるとその原因を「自分で意味づけて仕事に取り組むことがわかっていない」と捉えたり、「自分のやりたいことと仕事が紐づけられていない」と考えて「その考え方を付与すること」に知恵を絞ったりするケースが多いように思います。もちろんそれが功を奏する場合もあります。しかし本ケースは「意味があると信じて飛び込んでみよう」という自信が欠けているケースです。特に若手は仕事に取り組む当初から明確な意味づけができることなど稀。むしろ「きっと意味があるはずだ」という感覚を持って飛び込むことの方が圧倒的に多いと思います。本ケースを通してお伝えしたいことは下記のことです。


① 目の前の仕事が億劫、面倒、意味が感じられないと悩む若手社員が躓きを乗り越えるとき、現実的には(明確な意味づけなどできないが)「信じて飛び込んでみよう」と思えるかどうかがポイント

② 若手社員の多くは、これまでの人生・仕事体験の中で、当事者意識をもって取り組んだ結果、自分なりに意味を見いだせた体験を持っている。しかし、それがうまく生かせていないし、価値あるものだと捉えられていない

③ 「若手社員の中にある前向きな意欲と、人生・仕事体験の中に数多くのヒントが眠っていること」を信頼し、引き出し、その価値を確定していくことができるかどうかがマネジャーの腕の見せどころ

かつての時代の若手は、職場で働く先輩たちが「目の前の仕事に熱心に取り組む姿、意味を感じて仕事に取り組む姿」を間近でみて「きっと意味がある」という感覚を受け取っていたように思いますし、職場の同僚とのやり取りの中で自然と学び合っていたことだと思います。しかし環境変化の中で通常業務のなかでは学びづらくなっているのも事実。上記のことを若手自身で自ら掴みとってもらうか、もしくは育てる上司側に意識して取り組んでもらうことが大事になってきます。ぜひ参考にしてみてください。

本ケースはほんの一例です。ちょっとしたきっかけによって仕事への集中を引き出したケースですが、日常の業務に対する前のめりの姿勢をつくる上では有効でも、若手の置かれた現実環境が厳しかったり、課題の難度が高かったりする場合は、必ずしもこの限りではありません。次回は別のケースをご紹介します。