人事・経理・総務・管理の「目指す状態と目標の設定」と「3つの可視化」とは?~退職クライシスを乗り切る! バックオフィス安定運営の秘訣
人事・経理・総務・管理。部門名が同じだからといって、会社によって仕事の進め方や業務の悩みは千差万別です。その点、業界や規模、使用システムすらも異なる複数の企業から業務を受注するアウトソーシング事業者は、幅広いクライアントの多種多様な課題に対し、経験と分析に基づいたノウハウをもって、ソリューションを提供しているだけあって、知見は確かです。このコラムでは「退職クライシス」をテーマに、アウトソーシング事業者である株式会社TMJの村上亘氏が、バックオフィス安定運営の秘訣を紹介していきます。第1回は「目指す状態と目標の設定」と「3つの可視化」について。
ノウハウの源泉
私たちTMJは、コールセンターやバックオフィス(事務処理センター)の構築・運営を行うセコムグループのBPO(Business Process Outsourcing)アウトソーサーとして活動しています。設立以来培ったノウハウを生かし、資本関係のあった旧親会社のグループ企業10社のバックオフィス業務の集約センターを皮切りに、現在は株主であるセコムグループのバックオフィス業務も引き受けております。また、中小企業向けに人事・経理のスタンダードサービスを展開し、20社以上のクライアントから100件以上の業務を頂戴しています。また、商談の際には、お客様の様々な悩みや相談をお伺いします。
御社では起きていませんか? その悩みの背景にあるもの…
ご想像いただけると思いますが、お悩みの範囲はとても広く、複数の問題が同時に発生し、それらが互いに関連していることがほとんどです。
「少数で担当しているので残業・休日出勤が頻繁する」「新人が入社しても一人前になるまでに時間がかかる」「業務だけでも手一杯なのに新法対応・システム検討など高難易度の仕事があてがわれる」「マニュアルやルール整備と言っても、何をどう作れば良いか分からない」などなど。そして、これらの悩みの原因やきっかけに「担当者の退職」が関係していることが多く、あるいは至ってはいないものの退職の可能性からくる危機感をお聞きします。
では、担当者の退職が防げれば悩みは解決するでしょうか?そうかもしれませんが、現実的には最も難しい解決策であることは言うまでもありません。
そんな課題が多いバックオフィス業務を、アウトソーサーはどのようにして業務運営しているのでしょうか?
ベテラン不在でも安定した運営管理を考える
先に結論を述べますと、アウトソーサーはお仕事を受ける最初の段階から、スタッフが数年で退職することを前提に、ベテランスタッフがいなくなっても業務が維持できる運営体制を構築します。
弊社でも、社員のウェルビーイングや働きやすさの追求などに力を入れ、長期雇用が実現できるように努力しておりますが、退職は完全に防ぎきれません。また、キャリアアップの観点から現場のオペレーターは3年前後で管理者(SV:Supervisor)や品質管理、育成担当などの役割にステップアップできる制度となっています。アウトソーサーの運営では、スタッフや経験に頼るのではなく、未経験の新人をどう戦力化するか、事業運営の安定的継続性が問われるのです。
運営管理で注力しているポイント
上記のような運営を構築する際のポイント、そして私たちアウトソーサーが重視している点を紹介します。ポイントとしては、「目指す状態と目標の設定」と「3つの可視化」があります。3つの可視化とは、「フロー・ルール・マニュアルの可視化」「数値の可視化」「課題の可視化」の3つに分かれています。本章では全体像を簡単に説明し、今後4回に分けて詳しく説明します。どの言葉も一度は聞いたことがあるものだと思いますが、是非ともお付き合いいただけますようお願い申し上げます。
目指す状態と目標の設定
運営体制構築の基本となるのは、その組織が目指す姿や達成したい目標を設定することです。この設定があると、担当者間や担当者と上司の間で共通の目標を掲げることができ、何に向けて努力しているかが明確になります。また、目標の設定にはできるだけ定量的な、数値による目標設定が有効です。
その上で、掲げた目標に近づいているか、目標が達成できているかを確認するためには3つの可視化が必要となります。
・可視化1 フロー・ルール・マニュアルの可視化
担当者が少人数で、業務が属人化している企業では、業務の可視化が進んでいない場合が多いように感じます。業務の可視化とは、日々の業務の流れや手順、業務上求められる判断などを洗い出し、整理することを指します。分かりやすい活用方法としては、これらをドキュメント化して、新人の教育・育成に生かすものです。しかし、少人数で対応している場合は、マニュアル類がなくともOJTで育成することも可能であり、教育・育成を目的に可視化・ドキュメント化を行うと負担が重くなることも考えられます。しかしながら、属人化した業務を可視化してみると、同じ業務のはずが担当者間で手順や判断が異なっていたり、そもそも漠然と「業務A」と言っても担当者間で対応範囲や認識が違っていることさえあり、気付きにくい問題点が明らかになることも多いのです。
このように、フロー・ルール・マニュアルを可視化することで、初めて担当者間の共通認識や業務の平準化を行うことができ、次の可視化である「数値の可視化」が可能となってきます。
・可視化2 数値の可視化
数値の可視化に取組んでみると、実際に収集できるかどうかは別として、多種多様な数値化が気になってきます。タスクの種類、業務量、日々の処理件数など、数ある数値の中で何を重視するべきでしょうか。
ある工程で数値を可視化するとして、私たちは処理された件数自体はもちろん、工程の発生タイミングや担当者の生産性(1件当たりの処理時間)にまずは着目します。
バックオフィス業務では、年末だけ集中的に発生するものもあれば、月間、週間で繁忙と閑散の差が激しいことが多く、この差を正しく把握することは効率化や改善の第一歩と言えます。また、生産性に関しては、ミスや無理が起こらない適切な1件当たりの処理時間を把握することで、新人の成長度合いの把握なども可能となります。
・可視化3 課題の可視化
常に安定して問題がおこらない運営は理想ではありますが、そう上手くいかないのが現実です。多くの経験をした我々アウトソーサーであっても日々新たな課題に直面します。
1、2の可視化を進めていくといきなり問題点が明確になることもあるのですが、そもそもフローやルール自体が存在していない、数字が取れていないといったことも多々あります。こういった際、今解決しなければいけない課題がいくつあるのか、そのうち優先順位の高い課題は何か、関係者や相談先はだれか、いつまでに解決するかといった課題に対する可視化と管理が必要となります。
日々の業務もあるなかで一度にすべての課題を解決するのは困難です。現状に照らし合わせた優先順位付けを行い、これを関係者(同僚・上司)と共有しながら解決策を見つける体制を整えることが必要となります。
以上が私たちが運営管理で注力しているポイントとなります。では実際に一つ一つの プロセスではどの様に実施しているのかをご説明します。次回は「目指す状態と目標の設定」についてお届けします。