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出社かリモートかを考える前にすべきこと【リモートワーク共存時代~これからの社内コミュニケーションの在り方とは? Vol.2】

第1回では、十数年前と今を比べたときに、コミュニケーションチャネルに下記3つの変化が見られていることを説明した。

① 運動会や社員旅行といった社内イベント、たばこ部屋、営業同行帰りなどの他愛もない会話、飲み会などの、インフォーマルな特性をもつコミュニケーションチャネルは減少
② リモートワークにより、フォーマル色とインフォーマル色の両方をあわせもち、社員の活動の起点となった職場というチャネルが機能しづらくなった
③ フォーマル色の強い会議や打合せは、オンラインツールを通じた非対面コミュニケーションに代替

ではこうした変化は企業の成長や働く人にどのような影響を与えているのだろうか?

第2回となる今回は、コミュニケーションチャネルの変化がもたらす影響をみていきたい。
移動コストの削減を中心に、生産性向上に寄与していること、社員に多様な働き方の選択肢を与えていることは事実。目に見えやすい変化はわかりやすい一方で、目に見えない変化も多大な影響を与えている。

現場で起きていることは何か?

私がクライアント先でよく耳にする、コミュニケーションの変化の影響を実感する声の一部を紹介したい。

・営業同行の前後がメンバーコミュニケーションの貴重な機会だった。帰り道に「今日のアポはああだった、こうだった」「あの話し方は直した方がいい」といった仕事を巡る話をすることも多かった。それだけでなく、「どうした、最近元気ない?」とちょっと気になっていたことを話したり、何気ない社員の悩みを把握したりする機会でもあった。最近はそうした機会が全くなくなってしまった。

・顧客との対面アポイントが減ってしまったことの影響を感じている。商談の際、対面であれば、自分の提案に対する顧客の反応がわかりやすく、手ごたえも感じやすかった。提案の前後でふとお客様から思いがけないお褒めの声をいただいたり、他愛もない雑談からアイディアが生まれたり、お客様と仲良くなったりして、仕事への意欲につながることもあったように思う。リモートワークになったことで、社内だけでなく顧客から得られるものも減ってしまった。

・うちはメーカーのためリモートワークは実施していないが、生産性追求、合理化追求を継続した結果、業績はあがったが社員に余裕がなく、素朴な問題意識を巡る交流、人と人としての交流というものに割かれる時間が削られてしまった。マニュアル化の進展など、決まり・仕組みが増えていることも、ある側面では現場で働く社員の自発性を奪いがちになっている。いきすぎた現場では、メンバー、特に若手社員の疲弊や離職、ヒューマンエラーの増加、部署間で意図が正しく伝わらない、という弊害が起きてしまっている。

こうした声が指し示すことは何か?一見すると目に見えづらいが下記2つの変化が起きていると考えられる。

社員の自律・協働という側面に与える変化

「かつて」の職場では、自律・協働という側面でみたときに、下記のようなことがもたらされやすかった。

〇他愛もない会話、交流の中で動機づけられたり、仕事へのやる気を取り戻したりすること
〇自分への信頼が揺らいでいた時、他者からの肯定・評価によって自信を取り戻すこと
〇自分の成功を、他者が肯定・評価してくれたことで自信が確固たるものになること
〇他者との何気ない会話の中でアイデアが生まれること

しかしリモートワークが進み、お互いの感じることや思うことをオープンにコミュニケーションする場がつくりづらくなった結果、これらが得づらくなった。

また、感じること、思うことの交換の中でお互いの個性や持ち味に触れ、それに対するリスペクトが生まれたとき、チームにもたらされていた下記のような動きをつくることは簡単ではなくなっている。

〇チームで互いの強みを生かし合い・弱みを補い合いあうような動き
〇チームで個々の好調・不調の波を補い合っていこうという動き
〇チームで個々の情報・判断の偏りを補い合って仕事に取り組んでいく動き
〇チームで個々の時間の忙閑の波を補い合って取り組んでいくこと

何より、横の交流の中で得られる刺激が人を育て、人を動かす、という力学が働きづらくなっている。個の自律とチームでの協働性発揮という側面で幾つかの悪影響が生じやすい。その一番の被害者は新人社員や若手社員だ。組織の一員・仲間になり周囲の力を借りて自律ー成長していくために必要なコミュニケーションが不足している可能性が高い。

企業の持続成長を支える基盤弱化の可能性

もう一点、「企業の持続成長を支える基盤」に与える影響に目を向けるべきだ。企業の持続成長を生み出すのは、今ある「商品力」や「技術力」、「組織力」ではなく、それそのものを「生み出し続ける力」「磨き続ける力」である。その力を生み出し続けられる会社とそうでない会社の違いは5つあると仮説を置いている。それをシンプルに構造化したものが図1だ。

商品開発を一つの例に挙げて考えたい。目の前の顧客の願望に敏感になり、応えようという「顧客接点」があって商品のヒントがつかめる。そのヒントをもとに商品の開発を進めたとしても、失敗を恐れずに試行錯誤「S―PDS(基準値―仮説―実行―検証)」する中でしか新たな商品は生まれない。途中の困難に直面しても、何としても顧客の要望に応えたいという「モチベーション」がそれを乗り越える原動力になる。品質とコストの二律背反に直面した時、自社として一体何を大事に意思決定していくのか?「意思決定基準」が明確化され、貫かれなければ優位性ある商品は生まれない。そして、それを1人ではなく多くの社員で成し遂げる上では、4つのポイントを活性化させる「コミュニケーション」が醸成されていなければならない。

こうしたポイントを活性化させる一番のコミュニケーションチャネルは、職場だったはずだ。かつての職場は、

・顧客や顧客の願望を巡って素朴な疑問やヒント、喜びやお叱りの声などが共有され、顧客接点を活性化させる場
・個々の成功や失敗を巡って社内で称賛や叱咤激励され社員のモチベーションを喚起する場
・個々の試行錯誤を共有し、お互いの体験から学びあい、ノウハウ化されていく場
・自社が本当に何を大事にして意思決定しているのかが確認され、磨かれていく場

だったはずだ。長い目で見た自社の持続成長という視点から社内のコミュニケーションチャネルの変化を見つめたときに、最も懸念すべき点は、持続成長の基板を育むコミュニケーションチャネルの減少、消滅である。

長期的視野に立ったとき、社内に必要なコミュニケーションは何か?

出社にすべきか、リモートワークにすべきか、その比率をどうすべきか?という手段を考える手前で、

・働く社員、特に新人・若手社員の自律促進、協働性発揮をもたらす信頼・安心感醸成
・企業の持続成長の基板・土台の醸成


この2点に照らして社内コミュニケーションを点検することをお勧めしたい。

このように話してしまうと「昔(=出社100%の時代)は良かった」という論になりがちだが、リモートワークがもたらしたプラスの影響が計り知れないことは言うまでもない。リモートワークと出社を使い分けながら、働き方の多様化、生産性向上を実現していくこと、同時に「特に若手社員の自律性・協働性を育むコミュニケーション」「企業の持続成長の基盤をつくっていくようなコミュニケーション」を生み出していくにはどうしたらいいのか?

第3回からは、実例をご紹介しながら、考えていきたい。