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【後編】押さえておきたいハラスメント対策【弁護士が解説!企業の守り方 vol.3】

ビジネスには、リスクがつきものです。そのため企業の法務担当者は、企業のどこに、どのようなリスクがあるのかを把握し、取り除くための対策を講じる必要があります。
このコラムでは、AI法務プラットフォーム「LegalOn Cloud」を提供するLegalOn Technologiesの柄澤愛子弁護士が、企業が直面しやすいリスクとその対策を解説します。
第3回(前後編)、第4回は「押さえておきたいハラスメント対策」について解説します。
コンプライアンス遵守の社会的要求が強まるなか、企業の人事、法務、コンプライアンス等の担当者が必ず押さえておかなければならないテーマです。
今回は第3回の後編です。前編でお伝えしたハラスメントの種類や内容を受け、裁判例から見る、ハラスメントが企業に与える影響についてお伝えします。

前編はこちら

裁判例から見る、ハラスメントが企業に与える影響

ハラスメントが発生すると、企業にとってはさまざまな悪影響を与える可能性があります。
ハラスメントが発生した場合、企業に与える影響について、裁判例を紹介します。

パワハラの裁判例
<裁判例>
上司が部下3名に対してパワハラを行った事例(東京地裁平成22年7月27日判決)

上司Yは、部下X1、X2、X3に対してそれぞれ以下のような言動をした。
・X1、X2に対して扇風機の風をあて続けた。
・X1の、業務方法について事情を聞かずに叱責し、始末書を提出させたり、X1の提案に対して「お前はやる気がない。…明日から来なくていい」と怒鳴るなどした。
・X2とX2の直属の上司を「馬鹿野郎」「給料泥棒」などと叱責し、始末書を提出させた。
・X3の背中を殴る、膝を足の裏で蹴るなどした。
・X3の妻について「よくこんな奴と結婚したな」などとX3に言うなどした。
これに対して、X1、X2、X3が会社とYに損害賠償請求を行った。

判決では、抑うつ状態となり休職した部下X1について約100万円の損害賠償が、X2とX3に対しても慰謝料の支払いが認められた。
また会社についても使用者責任を負うと判断された。

<裁判例>
内部告発をきっかけとした職場でのいじめ事例(富山地裁平成17年2月23日判決)

Xはマスコミに対して自分の会社に関わる違法な闇カルテルの存在を告発したところ、その後教育研修所へ異動となり、同室で仕事をする他の社員とは別に個室に席を配置され、清掃管理、草刈り、研修生の送迎などの補助的な雑務しか仕事を与えられなかった。また、20年弱の間、昇格がなかった。更に、会社の役員などからX及びXの親族に対して度々退職を迫るという退職強要行為があった。
これに対して、Xは会社を提訴し、損害賠償請求を行った。

判決では、Xの内部告発は正当な行為としたうえで、会社のXに対する行為は内部告発の報復として行われたことを認定した。そして、会社の人事権行使に伴う裁量権は「合理的な目的の範囲内で法令や公序良俗に反しない限度で行使されるべき」であるが、本件においては裁量の範囲を逸脱する違法なものであったとして、不法行為や債務不履行責任により会社に計1,357万円の損害賠償を命じた。

セクハラの裁判例
<裁判例>
派遣社員などに対するセクハラ行為により懲戒処分を受けた事例(最高裁平成27年2月26日判決)

営業部のマネージャーらが、派遣社員に対して自らとその不貞相手の関係について話をするなど性的な発言をするなどし、また、課長代理が同派遣社員などに対して「結婚もせんでこんな所で何してんの。」「夜の仕事とかせえへんのか。」などの発言をするなどしたため、これらのセクハラ行為を理由として、マネージャー及び課長代理は出勤停止、降格の懲戒処分を受けた。
これに対してマネージャー及び課長代理は、懲戒処分の無効確認などのため会社を提訴した。

最高裁は、会社の出勤停止や降格の懲戒処分は有効だと判断した。
マネージャーらは、1年以上にわたり発言を繰り返したものであり、職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切であり、執務環境を著しく害するものといえるとした。マネージャーらが管理職として、会社のセクハラ防止に係る方針や取組みを十分理解し、部下を指導する立場にあったにもかかわらずセクハラ行為を繰り返したことも不適切とされた。
派遣社員などがマネージャーに明確な抗議をしていない点についても、職場におけるセクハラ行為について、被害者が人間関係の悪化などを懸念して加害者に対する抵抗を躊躇することは少なくないとして、抗議がなかったことを加害者に有利に斟酌できないとした。

*加害者が会社を訴えた事例ですが、会社がセクハラ行為に対する対応をする際の参考となる事例ですので、紹介しています。

マタハラの裁判例
<裁判例>
妊娠後に管理職を外された不利益処分を受けた事例(広島高裁平成27年11月17日判決)

病院で理学療法士として、また管理職の副主任として勤務していた女性Xが、第2子を妊娠した後に軽易な業務への転換を希望し、訪問リハビリチームから病院リハビリチームへ異動となったが、それに伴い副主任の役職を外され、復帰後も管理職でなくなった。
これに対してXは病院の運営元を提訴し、降格後から退職までの間の副主任手当と、慰謝料を請求した。

判決では、副主任から外したことにつき必要性や理由について説明があったとは認定できず、事後にXが承諾したことが認められるが、自由意志に基づくものとは認定できないとした。そして、病院側には「女性労働者の母性を尊重し、職業生活の充実の確保を果たすべき義務に違反した過失がある」として副主任手当約30万円と慰謝料100万円などを認めた。

*厳密には、マタハラというよりも、妊娠及びそれに伴う軽易業務への転換を理由とした不利益処分を禁止する男女雇用機会均等法9条3項違反に関する裁判例です。

パタハラの裁判例
<裁判例>
育児休業を取得した男性が昇格昇給差別を受けた事例(大阪高裁平成26年7月18日判決)

病院で看護師として勤務していた男性Xが、3か月間育児休業をしたことを理由に、翌年度の昇給が行われず、また、育児休業により不就労期間が生じたことを理由として昇格試験の受験機会が与えられなかった。
これに対して、Xは病院を提訴し、昇給、昇格していれば得られたはずの給与、賞与などとの差額と、慰謝料を請求した。

判決では、病院の就業規則の不昇給規定を根拠に昇給させなかったことは違法と判断された。病院の育児休業規定(「昇給については、育児休業中は本人給のみの昇給とします」との規定)に基づく職能給の不昇給は、病院の人事評価制度のあり方に照らしても合理性を欠き、育児休業取得者に無視できない経済的不利益を与えるものであって育児介護休業法で禁止する不利益取扱いに当たるとされ、また、この規定は育児介護休業法の趣旨を失わせるもので無効とされた。
また、Xが、育児休業を取得し不就労期間が生じたことを理由として昇格試験の受験機会を与えられず、昇進の機会を失ったことによって精神的苦痛を受けたとして慰謝料を認めた。

*2019年にも、スポーツ用品販売の人事政策室に勤めていた男性社員が、育児休業を取得したところ、復帰直後に物流子会社への出向となり倉庫で荷下ろしなどの業務を命じられたなどとして、配置転換が育児休業の取得を理由としたもので育児・介護休業法に違反するとして会社を提訴した事案がありました。
この事案は、2021年に東京地裁で和解となっています。

民事上の訴訟リスクだけでなく企業イメージの損失にも

以上で紹介したのは、ハラスメントが原因で起こされた裁判の一部です。ハラスメント行為については、被害者は加害者と併せて企業に対しても損害賠償請求などを行うことが多いです。

また、民事上の訴訟リスクだけではなく、ハラスメント行為が報道されることで企業の評判が著しく損なわれる可能性もあります。
更に、現代はSNSや企業の口コミサイトにより、企業の内情、評判が簡単に拡散する時代となっています。ハラスメント行為により職場環境が悪化することはもちろん、採用活動への悪影響も避けられません。

また、企業に対しては法律で、ハラスメント防止の措置を講じることが義務付けられています。
ハラスメント防止のための制度が十分にない企業は、すぐにでも制度を整える必要があります。

次回は、企業においてハラスメントを防止するために必要な措置や、問題が起こった時の対応などを解説します。