品質の可視化とは? 退職クライシスへの備えと対応【退職クライシスを乗り切る! バックオフィス安定運営の秘訣Vol.5】
アウトソーシング事業者である株式会社TMJの村上亘氏が、「退職」に伴う「危機」=「退職クライシス」を乗り切り、バックオフィス安定運営の秘訣を紹介していく本コラム。第5回のテーマはバックオフィス安定運営のための「課題の可視化」について解説します。
課題の優先順位付け
これまでのVol.2では目指すべき状態と目標の設定について、Vol.3とVol.4では2つの可視化手法について説明してきました。これらに取り組むと、改善すべきポイントや可視化そのものができていない場合など、望ましい状態と現状との大きなギャップが明らかになり、どこから手を付ければ良いのか戸惑うことがよくあります。このような場合、目についたものから着手するのはお勧めできません。私たちの場合、課題そのものをきちんと可視化し、解決までのプロセスをコントロールすることをお勧めします。そのためのステップは以下の3つです。
1、課題の優先順位付け
2、進捗の管理
3、上位層の参加
それでは、これらを一つずつご紹介いたします。
課題解決の道筋:フィッシュボーンチャートの活用と優先順位付け
2つの可視化を進めていくと、いくつもの課題が浮かび上がってきます。また、そもそもフローやルール自体が存在していない、数値が正しく取得できていないなどの根本的な事象も可視化されることがあります。しかしながら、バックオフィス業務は中断や遅延が許されない業務も多く、人員も限られている場合がほとんどであるため、全ての課題を同時並行で解決することは難しいと言えるでしょう。この場合、より問題解決に効果的な課題を明確にするために、優先順位をつける必要があります。有効となるのはフィッシュボーンチャート(特性要因図)の作成です。解決すべき問題(退職クライシスの回避)に対して、個々の問題の原因を特定し、その構造を明らかにする手法で、課題の優先順位付けに適した分析となります。作成方法はインターネット上でかなり詳細な情報が見つかりますので、ご自身に合ったものを実践しみてください。なお、ここでは実施の際の2つのポイントをご紹介いたします。
・一人で作らず、上司部下・職場の同僚など立場の異なる複数メンバーで制作する
一人で作成しているとその方が注目している課題を優先してしまう場合があります。客観的な判断を行うためにも複数人で様々な意見をもとに作成することをお勧めします。関係者間のコミュニケーションも活発になり、共通認識を形成することも期待できます。
・制作時には「なぜ」を合言葉に議論を深堀し言語化する
業務に習熟したベテランの方になると直感的に優先課題を抽出する場合があります。結果として正しい場合もあるのですが、根拠や因果関係が説明された上で判断を行うことで、誰もが納得できる深堀されたものとなるでしょう。
これらの行程を経て、解決するべき問題に対して課題の整理と着手するべき優先課題が明確になります。抽出された課題は管理表にまとめていつでも全体が可視化できるようにしましょう。優先順位はつけましたが、整理の中で浮かび上がった課題も解決すべき問題に関連したものですので、忘れないように可視化しておきます。
課題管理表の作成と工程管理
管理表で課題を一覧化できたら、優先して取り組む課題に一歩踏み込んで計画を洗い出しましょう。解決に向けた手順、必要なデータの準備、実行する上で必要な知識や能力などを明確にし、それらをもとに、誰がいつまでに実施するかといった活動期限や大まかなスケジュールなども明らかにして管理してください。スケジュールの作成には会議体を設けることを忘れないでください。
課題解決に向けた取り組みでは、スケジュールに遅延が発生しないことの方が稀であるとも言えます。バックオフィスの現場では何よりも先行して着手すべき処理業務が多く、活動の遅延やスタックはむしろ起こり得るものであると認識しておいても良いでしょう。会議体では、これらの遅延やスタックを関係者で共有し、計画との差異を確認した上で、その原因や解決策、リカバリープランなどを練りましょう。
最も避けるべきは、遅延やスタックが共有されず、ご自身もメンバーも徐々に活動自体への情熱が失われ、活動が放置されてしまう状態です。できなかったことを責めるのではなく、活動そのものが前進するよう、活動の責任者や上司の関与やマネジメントは重要です。
活動進捗のマイルストーン:上位層との連携によるスムーズな活動の実現
また、活動の主体となるメンバー同士の会議の他に、普段は参加しない上位層や経営陣を交えた報告の機会をマイルストーンとして設けることをお勧めします。活動の結果を経営陣に報告することは、経営側からも求められることがありますが、開始段階や途中経過、年度の要所などにもマイルストーンを設けることが重要です。前述の通り、課題解決の活動には遅延やスタックが付きものです。そのような状態では現場からすればストレスの原因はなるべく排除したいものですが、上位層の関与にはメリットもあります。具体例は以下の通りです。
・活動スタート時
上位層は自身も独自の直感や課題感、問題解決への期待を持合せています。彼らは目標設定や2つの可視化による現状把握、課題の優先順位など、これまでの過程を経験していませんので、立案した計画と自身の感覚との差異を埋めるには活動初期のこの段階が最適です。活動が本格化する前段階で上位層の理解や支持、彼らの譲れない思いを活動に盛り込み、太鼓判を得ることで安心して活動に取り組むことが可能になります。
・活動の中間、節目
しつこいようで恐縮ですが、活動には遅延やスタックがつきものです。活動期間中の報告は、気が重くなる話題かもしれませんが、遅延の発生原因やリカバリー策などをあらかじめ共有しておくことで、理解や合意を得やすくなります。また、知識やスキルの不足、必要なツールやソフトウェアの不備、予算制約など、現場関係者だけでは克服が困難な、いわゆる経営の三要素が遅延やスタックの発生原因である場合、協力を依頼する良い機会となるでしょう。立場は異なれども、問題解決に向けたチームの一員として上位層を巻き込むことで、より円滑な活動を実施することが可能になります。
課題のイマを可視化し、活動をコントロールすることで高いモチベーションを保ったまま活動をやりきることができます。
最後に
さて、全5回に渡って連載してまいりました本シリーズですが、本章が最後になります。
改めましてこのコラムで私が皆さんにお伝えしたかった安定運営の秘訣を振り返って終わりとさせて頂きます。
① 「目指す状態と目標の設定」: 現場と上位層の間での目標認識の差異を理解し、それを解消するための取り組みステップ。
② 「3つの可視化」: フロー・ルール・マニュアルの整備、数値の可視化、課題の可視化と優先順位付けを行い、これらを通じて業務運営を安定させる問題解決への取り組み。
③ 課題管理表やフィッシュボーンチャートを活用した課題解決に向けた具体的な道筋。
これらの手法を活用することで、課題を明確化し、それを解決するための具体的な行動計画を立て、その進捗を管理することが可能になると考えています。皆さんも、退職クライシスを乗り切り、バックオフィスの安定運営の実現を諦めずに、少しずつでも取り組んでみてください。