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【後編】若手の確保が難しくなるなか、中小企業がやるべきこと【中小企業の“令和流” 若手・第二新卒採用を成功させる秘訣 Vol.6】

コロナ禍が収束して以降、売り手市場は加速しており、少子化という大きなトレンドもある中で、若手確保の難易度は今後も確実に上がっていきます。

そこで前回は、若手採用が今後より一層厳しくなる背景をご紹介しました。今回の後編では、3年5年10年…という時間軸を見据えて、“中小企業が未来に向けて今できる取り組み”、「選ばれる職場になるためにできること」や「令和型マネジメントへの適応」などについてご紹介します。

前編はこちら!

中小企業が未来に向けてできる取り組み

前節で提示したのは非常に悲観的なシナリオですが、「計画は悲観的に、行動は楽観的」にとも言われます。若手採用の難易度UPに向けて、中長期的な視野で対策を考えていく必要があります。ここからは、3年5年10年…といった時間軸を考えた時、中小企業が未来に向けて取り組むべきではないかと考える3つのテーマを紹介します。

◆選ばれる職場になる
1つめのテーマは「選ばれる職場になる」です。身も蓋もないと思われるかもしれませんが、やはり新卒・若手を採用して長く定着・活躍してもらうためには、「選ばれる職場になる」ことが欠かせません。様々な採用ノウハウは大事ですが、職場が本質的に“選ばれる”状況でなければ、苦労して採用した新卒や若手も退職してしまいます。“選ばれる職場”、つまり、いい会社の定義は、それぞれの人の価値観や重視する要素によって異なりますが、汎用的に使える3つの視点を紹介します。

1.衛生要因と動機付け要因
ひとつめは衛生要因と動機付け要因と呼ばれる視点です。選ばれる職場を作るうえで「満たさないと選ばれない」要素が衛生要因です。たとえば、給与や賞与などの金銭的報酬、勤怠管理や労働時間、働き方、安全な就業環境、ハラスメント防止、福利厚生などが衛生要因に当たります。

衛生要因は、一定水準まで満たさないと応募や内定の辞退、大きな不満や離職要因につながります。一方で、水準を多少あげてもモチベーションを大きく上げる要因にはなりません。したがって、職場づくりと採用を考える際、衛生要因に分類される要素は、採用競合や市場の相場と同等ぐらいまで整備することが必須です。また、勤怠管理や労働時間、ハラスメント防止等も、今の“若手の感覚”に合わせて整える必要があるでしょう。

次に、「満たせば満たすほど選ばれる」要素が動機付け要因です。動機付け要因には、たとえば仕事のやりがい、成長実感、貢献実感、承認や感謝、ミッションやビジョンの浸透、心理的安全性、キャリア安全性などが含まれます。

衛生要因を整えたうえで動機付け要因に着目して、たとえば、上司が1on1でポジティブなフィードバックをしたり、具体的な目標設定・達成で自信を付けさせたり、仕事の意味づけをしたりする取り組みが有効です。なお、選ばれる職場づくりを考えた際、衛生要因を満たさないまま、動機付け要因だけ強化しても効果はありません。“やりがい搾取”といった言葉もありますが、動機付け要因と採用ノウハウを組み合わせると、一時的には若手採用は上手くいくでしょう。しかし、中長期的には衛生要因を整えておかないと採用した若手も定着せず、退職者の書き込みで悪評だけが残ってしまうケースもあり得ますので注意が必要です。

まず「衛生要因が欠けていないか」、そして、「動機づけ要因が十分に設計されているか?」、2つの視点で検討すると、“選ばれる職場”づくりに向けてやることが見えてくるでしょう。もちろん、給与水準や勤怠管理はいきなり改善できるものではありません。労働生産性の向上や残業削減、生産性UP等の施策を打っていかなければ、給与水準や労働環境の改善は維持できません。だからこそ、3年5年10年で考えることが必要なのです。

2.心理的安全性とキャリア安全性
次に紹介するのは心理的安全性とキャリア安全性という考え方です。

心理的安全性とは、「チームの中で安心して、チャレンジングな言動をできる状態かどうか?」という指標です。 チャレンジングな言動とは、たとえば「上司の意見に反対意見を述べる」「懸念点を指摘する」「的外れかもしれない質問をする」「突拍子もない提案をする」「自分の能力不足や失敗を明らかにする」といったことです。

心理的安全性を高めるには、従業員同士の相互理解や信頼関係が大切です。ただし、心理的安全性は単なる「仲の良さ」「思ったことを素直に言える」「風通しが良い職場」だけではないので注意が必要です。信頼関係は、心理的安全性を高める上で大切な要素ですが、「チームの共通目標を達成するために」という前提がなくなってしまうと単なる仲良し集団になってしまいます。

心理的安全性を高めると職場での居心地・やりがいが向上し、チームの生産性も高まります。チームの生産性向上は業績の向上にもつながり、さらなる仕事のやりがいや、報酬アップ等に結び付きます。

もう1つの安全性、キャリア安全性は「自分のキャリアが長期間安定な状態でいられると認識できるか」という概念で、「うちの会社で5年後や10年後のキャリアを思い描ける」「うちの会社でこのまま頑張れば市場価値が高まる」と、“本人が思えている”状態です。仮に客観的には市場で通じる能力があるのに、本人が「成長できていない」と感じているとキャリア安全性は低い状態になりますので、ここは注意が必要です。

いまの20代30代の若手はキャリア安全性を重視しており、若手の採用やマネジメントにおける重要性が高まっていることは、これまでの連載でも紹介した通りです。

個人の尊重と信頼関係という土台の上に、組織の共通ゴール(ミッションやビジョン、事業計画)に向けて率直に発言できる心理的安全性をつくる。同時に、社員がキャリアをきちんと構築できる、「市場で通用する実力がついている」と社員が実感できている環境を作ることが大切です。自社を振り返った時に、心理的安全性とキャリア安全性、どちらに手を付ける余地があるでしょうか。振り返って手を打っていく必要があります。

3.社風と社員のタイプにあわせた職場づくり
紹介した2つの視点は、“選ばれる職場”を目指すうえで汎用的に使える考え方です。同時に、どういうタイプの社員が多いか、どういう職場を目指すかによって具体的にどの要素を重点的に強化したほうが良いかは変わります。人が動く動機は大きく分けると4つに分類されます。

・達成動機
⇒自分の努力で成し遂げられる目標や個人的な進歩に対して、興味や関心を持つタイプ。自分の行動に対して、結果やフィードバックがすぐ返ってくることを求める傾向がある。

・親和動機
⇒「好かれたい」という欲求で、人間関係が良い状態を求めるタイプ。なお、人間関係が悪いと行動力が低下しやすくなったり、成果よりも人間関係に重きを置いてしまったりする傾向もある。

・権力動機
⇒他者のコントロールや影響を与えることに、モチベーションが上がるタイプ。他者からの信望を得たり、周囲との競争がある状況を楽しんだりする傾向がある。

・回避動機
⇒失敗やリスクを恐れるタイプ。リスクが高い行動やハイレベルな目標、冒険などは好まず、実現性の高い計画を作成したり、リスクを洗い出したりすることが得意。

職場づくりを考えるうえで、自社がどんな組織を目指すか、どの動機が強いタイプを採用しているかを振り返って、そのうえで重きを置く組織づくりの要素を考えることが効果的です。

正規雇用・直雇用に依存しない仕組みを作る

新卒や若手の採用が、加速度的に難しくなることは確実な未来です。それを考えた時、先ほどは「選ばれる職場になる」というテーマをお送りしましたが、並行して、正規雇用・直雇用に依存しない仕組みを作るということも大事な取り組みです。

前述した通り、労働市場でいうと全体の母数は減っている一方で、フリーランスは増加しているわけです。さらに本業を持ったうえで余暇の時間で働く副業人材も増加しています。こうしたフリーランスや副業人材との業務委託契約を活用して業務が進む仕組みを作っていくこともひとつ有効な施策です。とくに本業、メインの収入源を持っている副業人材は社外での体験に価値を感じて働く側面もあり、専門性を持った即戦力人材に安価で稼働してもらうことも可能です。

ベンチャーやスタートアップなどで経験を積んだ方などを中心に、業務の仕組み化やIT化・効率化をうまく進められる経験値も持ったフリーランスや副業人材もいます。このような取り組みを通じて、正規雇用への集中度、“採用できないと事業に即影響が出る”という依存度を下げると共に、正規雇用の生産性を高めていくことで報酬や労働環境の改善を実現していくという考え方です。

令和型マネジメントへの適応

いまの新卒・若手に対して、「甘い」「忍耐力がない」といったイメージを持たれている方もいるかもしれません。たとえば、若手世代の「成長はしたいけど、ワークライフバランスは大切にしたい。仕事よりもプライベートが優先」といった価値観の傾向から、そう感じる方がいらっしゃることもよく分かります。一方で、昭和から平成、令和と時代が変わる中で、育ってきた環境が異なり、その中で培ってきた雇用や仕事に対する価値観が変わることはやむを得ません。若手の価値観を否定しても、採用や育成がさらに難しくなるだけです。

従って、上記のような傾向になっていることを受け入れて、そのうえでどう採用、育成・活躍させていくのかを考える必要があります。連載の第5回「早期離職の防止」で紹介した通り、上司や管理職層が若手との対話力を身に付ける、1対1の対話機会を社内外で組み合わせるといった取り組みが若手育成する上では重要になってきます。

採用難易度があがり、かつ離職(転職)されやすい状況になっているからこそ、若者に迎合するのでもなく、かといって否定するのでもなく、受け入れて育成するマネジメントの仕組みを組織として整える、また管理職が必要なスキルを身に付ける必要があります。これが管理職やリーダーシップのリスキリングです。

まとめ

全6回に渡って中小企業が新卒・若手を採用するためのノウハウを紹介してきました。コロナ禍が終わって売り手市場の加速が進んだ中で、企業から新卒や若手採用の相談をいただくことは明らかに増えています。事業を3年5年10年20年…と維持・成長させていく上で、「人」は最大の資産であり、新卒や若手の採用は欠かすことができないものです。

一方で、新卒や若手の応募は、知名度があり従業員数が多い大手企業に偏りがちで、中小企業は母集団形成に苦労しがちです。しかし、SNS等の費用がかからない情報発信、コンテンツ蓄積の手段もある中で、“20名も100名も採用するわけではない”という特徴を活かした採用活動を展開すれば、中小企業でも必要人材は確保できます。

まずは連載内で紹介したような採用活動における基本的なターゲティング、母集団形成、志望度UP、見極め、離職防止のノウハウを押さえましょう。そのうえで「多くの母集団を作る」のではなく、「必要な1人に出会う」ことを意識して採用活動を展開することが肝心です。

また、中長期で考えると、大卒の減少が中小企業の若手採用に大きな影響を与えることが予想されます。3年後5年後を見据えて、選ばれる職場づくりを今から進めていきましょう。衛生要因と動機付け要因、心理的安全性とキャリア安全性という2つの視点を踏まえて、社員のタイプと社風に合わせた組織開発を進めていくことがポイントです。

「人は1年でできることを過大評価しすぎる。そして、10年でできることを過小評価しすぎる」とは、世界No1コーチと称されるアンソニー・ロビンス氏の言葉です。組織開発は時間がかかる取り組みです。しかし、長い時間軸で取り組めば、必ず組織は良くなり、採用費の削減や収益の向上にもつながります。本連載が採用の成功、そして、企業の発展に少しでもお役に立てば幸いです。最後までご覧いただきありがとうございました。採用や組織開発に関してご相談があれば、お気軽にお声がけください。