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対人スキル向上の必要性とソーシャル・スタイル【なぜ今、対人スキルが求められるのか?  Vol.1】

2024.08.26

現代の職場は、さまざまな背景を持つさまざまな人材が集まる場となっています(年齢、性別、勤務形態、国籍など)。これによって多様な価値観や経験を持ち寄ることができるため、新たなアイデアや創造的な解決策を生み出す可能性を秘めています。しかし、この多様性が高い環境は同時に、異なる考え方や文化的背景に起因する摩擦を生じやすい場でもあります。

また現代のビジネス環境は、VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)時代と呼ばれ、予測不能な変化が常に起こり得るため、これに対応するための柔軟性と創造力が求められます。このような時代においては、多様な人々と効果的に協働し、新たな価値を創造していく能力が必要不可欠となります。その中で重要とされるスキルの一つが、対人スキルです。対人スキルとは、他者と効果的にコミュニケーションを取り、良好な人間関係を築く能力です。

本連載では、この対人スキルを向上させるために有効な「ソーシャル・スタイル」について、全6回にわたってご紹介したいと思います。初回となる今回は、ソーシャル・スタイルとは何かを解説します。

ソーシャル・スタイルとは

「ソーシャル・スタイル理論(ソーシャル・スタイルモデル)」は、1960年代にアメリカの社会心理学者デイビッド・メリルとロジャー・リードによって開発されました。メリルとリードは、人々の行動を観察し、それらを一定の特性に基づいて分類することで、より効果的なコミュニケーションと関係構築の方法を発見。このモデルは、ビジネスコミュニケーション、リーダーシップの発展、チームワークの改善など、世界中の多くの分野で広く活用されています。
 
ソーシャル・スタイル理論には、対人スキル向上の鍵として「対応性」という概念があります。
対応性とは、「ある人の行動が周りの人から受け入れられている度合い」のことです。対応性が高いほど、周囲の人と円滑なコミュニケーションが可能で、結果として良好な人間関係を構築することができます。前述のメリルとリードの研究によって、対応性が高い人はビジネスで成功する確率が高いことがわかっています。

それでも、周囲にいる多様な人々から受け入れられることは容易ではありません。この対応性を高めるためにはどうすればよいのでしょうか?

対応性を高めるためには、以下4つのステップがあります。
1. 自分を知る
2. 自分をコントロールする
3. 相手を知る
4. 相手に働きかける

これは自分と相手のことをよく理解して、うまくコミュニケーションをとるということですが、「自分と相手のことを理解すると言っても、人間は複雑で多様だから、理解することは難しい。どうやって理解すればいいのか?」という疑問が湧いてきませんか?そこで、役に立つのがソーシャル・スタイルです。
ソーシャル・スタイルとは、人が人と接するときの行動傾向のことであり、行動傾向とは、習慣化された行動だと理解してください。人は自分にとって心地の良い行動をとり続けるので、それがやがて習慣化されて行動傾向になると言われています。例えば、身振り手振りが大きい、話すスピードがゆっくり、といったことですが、身振り手振りが大きい人はいつも大きいわけです。
前述したメリル博士の研究によって、このような人の行動傾向には「自己主張度」と「感情表現度」という2つの尺度があることがわかりました。
自己主張度とは、自分の意見を主張する傾向があるか、聞く傾向があるかを測る尺度であり、感情表現度とは、感情を率直に表すか、抑制するかを測る尺度です。この2つの尺度を組み合わせることで、4つのスタイルに分類することができます。

図1:4つのソーシャル・スタイル

4つのソーシャル・スタイルの特徴4つのスタイルの特徴をみていきましょう。

エクスプレッシブ(直感型)の人は、自分の意見を主張し、感情も率直に表します。喜怒哀楽のどのような感情も、抑制せずに周りに伝えます。行動的で力強く、存在を主張しようともします。自分がどのように感じているかを人に話したがり、いつも率先して人と交わろうとします。気さくな態度で接しているので、人の感情に敏感で同調的に見られます。このスタイルの人は陽気で明るく、行動的な面を持っています。
マイナス面として、衝動的で興奮しやすいという側面があります。競争的で行動が早いため、必要な事実を収集・検討する前に行動を起こしてしまうこともあります。

エミアブル(温和型)の人は、感情を率直に表しますが、自分の考えを伝えることには控えめで、人に対して愛想がよく、協力的に見えます。形式ばらず、すぐに打ち解け、ものごとにあくせくしません。人の感情に同調しやすく、友好的に振る舞い、個人的な親しい関係をつくることに興味を持ちます。
気配りがあり、人間関係を大切にします。人に対して協力的で、人の意見に耳を傾け、その人のアイデアや態度を支持しようとします。マイナス面として、人間関係を重視するあまり、目標達成のための効率的で直接的な行動を取ることが苦手な側面があります。良好な人間関係を大切にし過ぎて、冷静な状況判断をしづらくなることがあります。

アナリティカル(分析型)の人は、相手の意見を聞く傾向があり、感情表現も抑え気味の態度を取ります。人に強く働きかけたりせず、事実を集め、データを検討して慎重に考える傾向があります。控えめで、決して人に対して攻撃的にならず、人に命令したりすることも避けようとします。自分の考えをあまり人に明らかにせず、人に意見を押し付けることもなく、必要がない限り、人と交わらないこともあります。用心深く、慎重で、ものごとを進める時は十分に計画を練る傾向があります。マイナス面として、原理原則にこだわることが多いため、気難しく見えてしまうことがあります。すべての事実を集めてから決定を下そうとするので、意思決定が遅れる傾向があります。

ドライビング(実行型)の人は、行動力と感情表現の抑制が結び付いた人です。活動的で力強く、時として攻撃的に見られます。相手に対して積極的に働きかけ、目の前の達成すべき目標にエネルギーを集中させます。何でも「今すぐにやろう」と性急にものごとを進める傾向もあります。感情表現を抑えることから、冷静で、人に関心がないように見えます。また、形式的で自信があり、論理や効率を重視する傾向があると見られています。人とは真面目に、ビジネスを優先した付き合いをしようとする傾向があります。
マイナス面として、目的や目標達成を重視するため、人の意見や気持ちに配慮していないように見られることがあります。

4つのスタイルには、優劣はありません。それぞれのスタイルにプラス面とマイナス面があります。また、ソーシャル・スタイルは、パーソナリティー(人格)のあくまで一部です。人は多様で複雑ですから、簡単には分類できません。一方で、ソーシャル・スタイルは行動傾向であり、パーソナリティーを構成するさまざまな要素(価値観、信念、哲学など)の中でも周囲から最も見えやすく理解しやすいものです。だからこそ、対人スキル向上に有効なツールと言えるのです。

次回は、エクスプレッシブの特徴とエクスプレッシブへの効果的な対応法をより詳しくご紹介します。