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「採用活動」のポイント(前編) ~情報発信は『ネガティブな印象の解消』と『差別化』を重視~【新卒採用が困難な今、中小企業が「自社で定着・活躍する新卒」を採用する秘訣 Vol.3】

2024.10.15

インターンや説明会、採用サイトなど、新卒採用活動の様々な場面で、自社の魅力を発信することは重要です。昨今の売り手市場の加速、また学生の大手志向の高まり、そして、大手企業と比べて初任給などの労働条件面において引けを取る場合も多い中小企業が、他社よりも抜きん出て応募者を引きつけるためには、自社のポジションを理解した上で戦略的に情報発信を重ねることが不可欠です。今回は「採用活動のポイント(前編)」として、競合他社に勝つための情報発信のポイントを紹介します。

前回コラムはこちら!

中小企業の情報発信は、「ネガティブな印象の解消」が重要

連載第1回でも述べた通り、学生の安定志向は高まりつつあり、初任給の高さなどの条件面を企業選びの軸に据える学生が増えてきています。中小企業も採用競合と負けないレベルまでは条件面の改善が大切です。ただ、採用活動における情報発信で、労働条件面を全面に出して競合と競うことには限界があります。中小企業においてまず重要なのは、学生が持つ自社への「ネガティブな印象」を解消するための情報発信です。学生は、企業や業界に対して持っている先入観や不安、あるいは無知から、応募をためらうことが少なくありません。まずは自社の業界や規模、職種に対するネガティブな印象を与えそうな要素をしっかりと洗い出し、そうした印象を解消するための情報を早期に整理・発信することが必要です。

整理した情報は、採用サイトやナビサイトのコンテンツを更新する際にも活用できます。学生から出てくる疑問や不安に対して、「こういうネガティブな質問がきたら、こう切り返す」というような、対応準備にもなります。また、内定前後での口説き場面でも多いに役立たせることができます。このように、ネガティブ解消の情報を整理することは、採用活動全体における効果的なコミュニケーションを可能にします。営業活動のロールプレイングにも似ていますが、採用活動においても、相手の不安を解消させる下準備はとても重要です。

次に学生側が持っている、業界や自社に対するネガティブな印象を解消する情報整理の具体的な方法を紹介します。

「ネガティブな印象の解消」に必要な情報整理の2つのステップ

ステップ① ː 自社や業界の「ネガティブ情報」を把握する
ネガティブを解消するには、まず自社や業界に持たれている「ネガティブイメージ」を把握することから始めます。具体的な方法として、OpenWorkなどの「クチコミサイト」に記載された情報の確認が挙げられます。今や就職活動・転職活動をする求職者の多くが、選考に進むかどうかや内定を承諾するかどうかといった重要な意思決定をする際に、クチコミサイトを活用しています。クチコミサイトには、退職者によるネガティブな情報が記載される傾向もあり、応募者のネガティブイメージを作っている可能性が非常に高いです。そのため、主要なクチコミサイトをチェックし、自社に対するネガティブなクチコミを洗い出すことは不可欠です。また、採用職種や業界のマイナスイメージを把握するためには、「マイナビ大学生業界イメージ調査」などのデータを活用することが有効です。調査を読み解くことで、自社が属する業界や採用職種が学生からどのように見られているかを具体的に把握できます。

さらに、自社に対するネガティブな印象の情報を確度高く収集する手段として、直接、企業から学生にヒアリングを行うことも有効です。インターンシップや会社説明会の初期接点の段階でアンケートを実施し、学生が自社や業界に対して抱く懸念や不安を集めます。アンケートでは「率直にお聞かせください」と前置きを入れた上で、「自社の業界や採用職種に関して、何か不安や懸念点はあるか?」「自社のホームページ(採用ページ)を見てどう感じるか?」などの質問を10段階評価で回答してもらい、その理由を自由記述で記入してもらうのもよいでしょう。学生と企業が対等に話しやすいという点では、内定辞退者へのヒアリングも有効な手段です。IT業界のある中小企業では、情報収集の取り組みとして「内定辞退者パーティー」を開催しました。このパーティーは、内定を辞退した学生を招待し、辞退理由を直接聞く機会を設けるもので、学生たちはリラックスした雰囲気の中で率直な意見を伝えることができます。この企業では、学生のフィードバックを踏まえて採用プロセスや企業の魅力発信の改善に取り組み続けた結果、採用力が飛躍的に向上しています。

ステップ② ː 「改善項目」「期待値調整項目」に分類し、解消できる情報を検討する
ネガティブ情報を洗い出したら、次は集めたネガティブ情報を「改善項目」と「期待値調整項目」に分類して、どのように解消するかを検討します。「改善項目」は、既に改善が完了した「過去改善」と、現在改善中または将来的に改善予定の「未来改善」に分けることができます。

「過去改善」の具体例としては、過去のクチコミで、「長時間労働が常態化していた」というネガティブ情報があった場合を考えてみましょう。当時は、勤怠管理が不十分で、時間外労働が平均40時間以上に及んでいたかもしれません。しかし、勤怠管理システムを導入し、管理職層へのマネジメント研修を実施したことで、現在は平均10時間未満にまで削減できていたとします。このような事例は、クチコミに書かれているネガティブな情報に対して、「それは既に改善済みです」と自信を持って説明できる材料がある状態です。一方、「未来改善」は、現在進行中の改善や、今後取り組む予定の改善に該当します。例えば、業界として「将来性」「安定性」が低いイメージを持たれている場合は、説明会で成長に向けて仕掛けている事業を説明する、また、それに伴う売上高や企業規模の目標値などを伝えてもよいでしょう。改善に取り組む姿勢や計画を伝えた上で、相手を共に課題解決に取り組む仲間として迎え入れたいとする姿勢を見せることが有効です。

次に、「期待値調整項目」は、一定の課題があるが、即時の解決は難しく、現状維持が前提となる項目です。例えば、いまの学生は在宅ワークを希望する人も多くいます。しかし、業種や業務内容によっては在宅ワークが難しい場合もあるでしょう。その場合、理由を率直に説明しつつ、「コミュニケーションが円滑で、フィードバックも迅速にもらえる」「メンバーの一体感がある」などの利点や、応募者が想定していないポジティブな面を強調できないかを検討してみましょう。ネガティブな情報を正直に伝えながらも、それを補う具体的なメリットを提示することで、応募者の期待値を調整し、ポジティブな印象を持ってもらうことが可能です。ただし、労働条件や働き方は昨今の学生が重要視している部分なので、可能な限り「未来改善」の項目に含めることも大切です。

差別化された情報発信、採用手法で応募者の興味を引きつける!

連載第1回でも述べましたが、昨今の就職活動は売り手市場化が進んでおり、採用競争が激化しています。中小企業が応募者の興味を自社に引きつけるためには、ただ情報を発信するだけでなく、「飽きさせない」関わり方が重要です。具体的には、他社と同じようなメッセージや採用プロセスではなく、自社ならではの特徴や魅力を打ち出した差別化された情報発信や採用手法を実行することです。ここでは、差別化を図るためのポイントを、いくつかの事例も交えて詳しく紹介します。

採用メッセージは、ネガティブ情報を“逆手”にとる
自社に持たれているネガティブ情報を逆手に取り、解消できる情報を採用活動のキーメッセージとして活用することは非常に効果的です。例えば、介護業界には「賃金が低い」という一般的なイメージがあります。ある企業はネガティブな印象を逆手に取り、業界内で高水準の給与や充実した福利厚生を強調しました。このように、ネガティブなイメージを払拭する具体的な内容を前面に押し出すことで、「思っていたイメージと違う」と応募者に意外性を感じさせ、興味を引きつけることが可能になります。また、ネガティブの解消を全面に出すことは、「社員を大切にしていきたい」という企業姿勢のアピールにもつながります。

応募の入り口を多様化させる
連載第2回では、採用ターゲットとして「自社の優秀人材」を設定する重要性について紹介しました。設定した「自社の優秀人材」は、必ずしも1つの採用枠でまとめる必要はありません。応募の入り口を多様化させることで、差別化を図ることができます。例えば、求める人物像ごとに異なる応募チャネルを設けることで、自社の特徴に合った優秀な人材を引き寄せることが可能です。例えば、「頭で考えるより先に行動する学生枠」「キャプテンやバイトリーダー経験者枠」「コミュニケーション力に自信がない学生枠」など、自社のターゲットに応じたオリジナリティのある応募の入り口を用意することで、より多様な人材にアプローチできます。学生が「自分のことだな」と思うように入り口を工夫することで、相手の興味を引きつけられます。

採用プロセスに、「意味のある“無い”」を取り入れる
採用プロセスに「意味のある“無い”」を取り入れることも、差別化の有効な手段です。売り手市場化が進み、学生に企業選びの主導権が移っている中で、採用プロセスにオリジナリティを加えることが求められています。そのひとつとして、プロセスを「無くす」手法があります。例えば、ある中小企業では「面接」と「先に企業から内定を出す」という従来の選考プロセスを廃止しました。代わりに「面談」を実施し、人事担当者が学生一人ひとりのキャリアビジョンを整理し、自社で実現できる部分とできない部分を丁寧に共有しています。その上で、学生が「入社したい」と言った後に内定を出すというプロセスです。学生の意思を急がせることなく、自社が提供できるものと学生の希望が一致するまで待つ形です。かなり小規模の企業ながら、学生の視点を尊重したプロセスで高い充足率を達成しています。このように、学生側の視点を考慮し、既存の採用プロセスにオリジナリティを持たせることも効果的です。

採用広報は、メディアも味方につける

差別化された情報発信や独自の採用手法は、採用広報にも活用できます。自社の採用サイトやSNSでの発信に加え、さらに広範囲に影響力を持たせるためには、テレビや新聞、WEBメディアなどの力を借りることも有効です。売り手市場や採用難が続く中で、中小企業の工夫を凝らした採用活動がメディアの興味を引き、取材や記事掲載につながる事例も増えています。他社と差別化できる採用手法や施策を進められることになったら、プレスリリースを作成し、メディアに情報提供を行うことをおすすめします。地元の学生をターゲットにしている場合は、地元のテレビ局や新聞社に送付するのも効果的です。プレスリリースの書き方やメディアへの情報提供の方法については専門書が多くありますので、ここでは詳細には触れませんが、メディアに掲載されることで、学生へのアピールが可能になるだけでなく、信頼性のあるメディアに取り上げられたことは企業の信頼にもつながります。プレスリリースの作成、メディアへの情報提供は、費用をかけずに自社内で行うことができます。自社に広報部門がある場合は、プレスリリースの作成からメディアへの情報提供まで、部門内で連携を取りながら進めてみてください。