「採用活動」のポイント(後編)~母集団形成と、志望度を高める口説きポイント~【新卒採用が困難な今、中小企業が「自社で定着・活躍する新卒」を採用する秘訣 Vol.4】
売り手市場の加速により、就職活動の早期化は一段と進み、最近では大学1年生から内定を出すという大手企業も出てきました。中小企業にとっては、限られたリソースで効率的に自社に合う学生を採用することがますます重要になっています。今回の寄稿では、「採用活動のポイント(後編)」として、効率的な母集団形成の方法、そして企業が学生を見極める前段階で必須となる、“学生の志望度を高める”口説きのポイントなどを紹介します。
中小企業の採用は、“確率論”より“1/1採用”を目指す
新卒採用の母集団形成においては、多くの企業が「採用目標人数から逆算して母集団を設定して、母集団人数を確保することで採用人数を達成する」という確率論を基に活動しています。採用人数が数百人になる大手企業の場合には、採用目標人数から逆算して、一次面接やエントリーシート提出などで必要な母集団人数を計算することが合理的です。しかし、中小企業や少人数採用の場合は、このようなアプローチは必ずしも効果的ではありません。採用人数が1桁の場合には、母集団の数にこだわるよりも、自社に合った学生とどう出会うかにフォーカスすることが重要です。
大手企業のように採用活動に多くの工数を投下できない中小企業では、接触する学生一人ひとりとの密接なコミュニケーションが鍵となります。極端に言えば、5人の採用枠に対して5人の面接を行い、全員が採用できる状態が理想的です。つまり、母集団の数を増やすことよりも、質の高い応募者を増やし、対面でのコミュニケーションを通じて学生の志望度を高めることが重要です。まずは実際に顔を合わせ、接近戦で自社の魅力を伝え、学生が自社で働きたいと思う気持ちを醸成することが、効率的な採用活動につながります。
学生に必ず会える、「就活イベント」を活用する
活用する採用媒体や採用チャネルを、「学生と直接会える」「1対1で魅了する」ことを基準に選定するのもひとつです。例えば、就活イベント・ダイレクトリクルーティング・人材紹介・SNS採用などですが、とくに「選考直結型の就活イベント」はお勧めです。「選考直結型の就活イベント」とは、いわゆる「合同企業説明会」とは異なり、説明会と選考がセットになっているため、参加学生に直接自社の魅力を伝えることができます。また、双方の希望がマッチすれば、すぐに本選考へと進むことができるため、効率的な採用活動が可能です。採用支援会社、地方公共団体や商工会などが実施しており、イベント自体には参加費用がかからない場合もあるので、コスト面でもメリットがあります。文系、理系、大学群や地域に特化したイベントもあるため、自社の採用したい学生がいるイベントに参加すれば、効率的に1対1のアプローチを実現できます。
先手必勝。早期からスピーディな内定出しを実現させる
1対1のアプローチに加えて重要なのは、「内定出しのスピード」です。早期化が進む新卒採用活動では、学生の内定獲得時期は4年次の4月から6月に集中しています。大手企業の選考が落ち着いたあとの後半戦に入ると、活動している学生数は一気に減少します。そのため、「うちは中小企業だから、大手の採用活動がひと段落してから動き出そう」と考えるのではなく、早めに動き出したうえで「最初から企業規模を気にしていない、中小企業を就職先として考えている学生に出会う」ことが大切です。また、採用人数が少ないからこそフットワークの軽さも大切です。採用したい学生に出会えたら、早期に内定を出す準備を整えておきましょう。ベンチャーやスタートアップ企業は3年次のインターン終了直後に内定を出すことも珍しくありません。スピーディな内定出しは、学生に「あなたを必要としている」という強いメッセージを伝えるための有効な手段です。
選考序盤は、「志望度」&「信頼・安心」を高めさせる口説きに集中!
採用選考は、企業が候補者を見極める場ですが、選考序盤は、「見極める」こと以上に「選ばれる」ための情報提供やコミュニケーションを行い学生の志望度を高めることが大切です。志望度とは、応募者が「自分の望む未来をこの会社で叶えられるか」という考える度合いとも表現できます。志望度が低下すると、選考辞退や内定辞退につながります。志望度を高めるためには、説明会やSNSなどの1対多向けの情報発信に加えて、選考プロセスを活用して学生一人ひとりのニーズを明確にする(自分の望む未来や会社選びの基準を確認し、一緒に明確化する)、そして、ニーズに応える(自社で叶えられることを示す)ことを心がける必要があります。個々の応募者に応じた口説きプランの作成方法は、【中小企業の“令和流” 若手・第二新卒採用を成功させる秘訣 Vol.4】で詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。
なお、中小企業の場合、初任給や労働条件などに関して、全てのニーズに応えることは難しく、競合に劣る場合もあるでしょう。そのような時は、選考時の関わりを通じて安心感や信頼感を与えることで、自社への志望度を高めることを意識しましょう。実際の企業事例を交えながら、具体的な方法を2つ紹介します。
応募者の強みや価値観を承認する
新卒学生を含む、Z世代の若者たちは、自分や他者の多様性を尊重し、個々の強みや価値観を大切にする傾向があります。この世代に対しては、応募者それぞれの人格や強み、これまでの人生で大切にしてきた価値観や考え方を承認することが大切です。そうすることで、「この会社は自分のことを理解してくれる」という信頼感を醸成することができます。信頼感が高まれば、現時点で完全にニーズに応えられなくても、入社後の期待感を持たせ、志望度を高めることにつながります。
ある不動産販売業の企業では、一次面接の段階で、応募者の人柄や人生観を深く掘り下げ、強みとして感じた部分を具体的に称賛することを心がけています。例えば、「あなたの行動力は並大抵のものではないですね」「その価値観を持てるのは、あなたがこれまでに経験してきた失敗があったからこそだと思います」といった具合です。表面的な褒め言葉ではなく、応募者をしっかり理解した上での承認するアプローチを通じて、「きつい」と思われがちな不動産業界で、若手の採用を継続的に実現しています。
また、選考過程で応募者と対話を重ね、応募者の人生観やキャリアに対する価値観を明確にするサポートを行っている企業もあります。サポートを通じて、「この会社は自分に寄り添い、心の底から理解しようとしてくれている」という信頼感を築き上げることができ、「他の会社とは違う」という差別化にもつながっています。
口説きは、“Youメッセージ”で伝える
応募者の強みや価値観を称賛した後、「だからこそ、あなたと働きたい」という率直な思いを“Youメッセージ”で伝えることが大切です。
このとき、具体的にどのように応募者の強みを活かせるかを示すと効果的です。例えば、「●●さんの行動力は、営業の仕事ですぐに発揮でき、成果を出せると思います」や「すぐに英語を使える部署に配属することは難しいですが、海外取引先とのミーティングに定期的に参加していただきたい」といったように、応募者の脳裏に情景が思い浮かぶような具体的な情報提供をすることで、相手に「自分を見て言ってくれている」と感じてもらうことができます。
例えば、従業員50名程度の清掃業の企業では、労働条件では競合に劣るものの、選考で応募者を深く理解し、徹底的にYouメッセージを使って思いを伝えることで、若手採用に成功しています。労働条件や仕事内容のニーズに応えることも重要ですが、こうしたアプローチを加えることで、選考中に信頼関係を醸成し、志望度を高めてもらうことも、中小企業の選考活動においては大切です。