早期退職を防ぎ、新入社員の定着・活躍を加速させるポイント〈後編〉【新卒採用が困難な今、中小企業が「自社で定着・活躍する新卒」を採用する秘訣 Vol.6】
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人手不足や売り手市場が加速する中、新入社員の早期退職を防ぎ、定着・活躍を促すためには、入社前後のフォロー体制の整備、効果的な育成プログラム、そして受け入れ側の育成力向上が重要です。「早期退職を防ぎ、新入社員の定着・活躍を加速させるポイント」後編では、効果的な育成プログラム、受け入れ側の育成力向上を効果的に進めるための具体的なポイントを解説します。
定着と早期活躍を実現する新人育成プログラムの設計ポイント
多くの企業では、新入社員を育成する上で、配属前に研修を含む初期教育を実施しています。ただ、新入社員の定着や早期活躍を実現するには、新人育成プログラムを配属前研修で終わりにしないことがポイントです。効果的な新人育成プログラムの設計ポイントを紹介します。
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〈育成プログラムは、“業務でつまずきやすいタイミング”で複数回実施する〉
新入社員の定着・活躍に成功している企業では、新入社員の就業観や業務でつまずきやすい時期に合わせ、2~3回に分けた研修等のプログラムを実施しています。
現場配属前は、“社会人としての心構えと配属後に必要なスキル”を養う
まず配属前は、“プロとして給与をもらう”社会人としての心構え、また前編で紹介したリアリティショックへの心構えといったマインド面の教育が必須です。ビジネスマナーやスキル教育に偏って、マインド面の教育を怠ると早期退職の要因となります。
そして、業務で必要な基本的なビジネススキルは「配属後すぐに役立てられる」ことを念頭に置いて設計すると良いでしょう。人間関係を作るための立ち居振る舞い、メモや振り返りの習慣、主体的な報連相などが意外と大事です。また、本連載でも何度かお伝えしてきましたが、現代の新入社員は、自身のキャリア形成を重視し、早期活躍を目指す傾向があります。そのため、配属後にOJTを通じて順番に実務経験を積ませることも効果的ですが、仕事の全体像を見せたり、小さな成功体験を積ませたりするような育成プログラムを行うことで、新入社員のスキルとエンゲージメントを事前に高め、スムーズな配属を実現することができます。
例えば、ある人材業界の企業では、“主体的に周囲を巻き込みながら業務を推進できるリーダーシップ”を養うため、入社直後の研修に「顧客集客イベント企画」のプログラムを導入しています。新入社員をチームに分け、各事業部の課題やニーズをリサーチし、実際に顧客集客につながるイベントを企画・実施します。基本的な業務スキルやビジネスマナーを学びながら、チーム内や事業部の先輩社員に主体的に働きかけることで、企画を実行するプロセスを経験します。取り組みを通じて、新入社員が「自ら考え行動することで、その過程が成果や成長につながる」ことを実感し、配属後のOJTにも円滑に適応できるようになっています。
業種や職種によって新人が“一人前”となるまでの期間は異なるでしょう。ただし、上述した通り、「早期活躍」を目指す新人が増えていることも事実です。「石の上にも3年だから」という感覚で育成をしていると離職の引き金になりかねません。入社直後から新入社員に、自社でプロとして活躍する意識を持ってもらい、スキルとエンゲージメントの双方を向上させる、小さな成功体験を積ませることも意識しましょう。
中間地点で「コミュニケーション」、終盤で「キャリア形成」のプログラムを導入
配属後数カ月が経過した時期には、職場での人間関係を円滑にする「コミュニケーションスキル」に関するプログラムを導入することが効果的です。この時期は、実務やOJTを通じて特に上司や先輩との人間関係よるストレスや課題が生じやすいタイミングです。また、最近の新入社員は、コロナ禍でオンライン中心の大学生活を送った影響もあり、対面でのコミュニケーション、とりわけ年齢や価値観の異なる世代とのコミュニケーションにストレスを感じやすい傾向もあります。本人が課題と感じている点を洗い出し、「自分の意見を円滑に伝える方法」や「他者の意見の捉え方・取り入れ方」などに焦点を当てたプログラムを実施しましょう。人間関係と意思疎通がスムーズになると、ストレス軽減や業務効率の向上に寄与します。
さらに、2年目に入る直前の時期には、2年目以降のキャリアパスを明確にし、キャリア自律を促すプログラムを導入することがおすすめです。新入社員が仕事に多少慣れてくるからこそ、ここまで慣れない環境で奮闘してきた疲れも出てきやすいタイミングです。また、少し考える余裕が出てくる中で、働く意味や今後のキャリアに対する不安や疑問を抱えやすい時期でもあります。こうした不安や疑問を整理し、2年目以降の将来像やキャリアビジョンを描けるようにする関わりが重要です。
具体的には、まず振り返り研修等を通じて企業が提供できるキャリアの選択肢や、各ステップで求められるスキルや実績を共有したり、自分の強みや課題を考えたりする機会を提供しましょう。そのうえで、キャリアカウンセリングを受ける機会を提供する、経験豊富な先輩社員をメンターにつけてキャリアの整理と言語化をサポートする、上司や先輩との個別面談で現状の自己評価と今後の目標設定を行う機会などを設けると良いでしょう。
活躍を加速させるために、前後の関わりを重視する
新入社員の早期活躍を促すためには、プログラム前後の関わり方も重要なポイントです。
実際、研修などの育成プログラムは、内容自体よりも、研修前の動機づけや研修後の実践フォローの方が効果的だと言われています。「4:2:4の法則」をご存じでしょうか。ウェストミシガン大学のロバート・ブリンカーホフ教授がASTD(米国人材開発機構)で発表した「ハイ・インパクト・ラーニング・プロセス」に基づく理論です。教授は、効果のない研修の原因は、「研修前が4割:研修中が2割:研修後が4割」だと指摘しています。つまり、研修プログラムをどれだけ磨いても、研修前の動機付けや研修後のフォローに失敗すると研修の効果はほとんど得られないということです。
たとえば、研修前の関わりであれば、「研修の全体像を共有する」「研修の目的と必要性を明確に理解してもらう」「研修での学びが自分の成長や成果にどうつながるかを検討してもらう」といったことです。
また研修後は、「新入社員と配属先の上司の面談機会を設定して、研修で得た学びを実務にどのように活かしていくかを話し合ってもらう」「研修内で必ず実践アクションを設定して報告してもらう」「成果発表の機会を作る」といった取り組みがあげられます。
〈直属の上司・先輩にも「受け入れ教育」を実施する〉
新入社員の定着と活躍を促進するためには、直属の上司や先輩にも「受け入れ教育」を実施することが欠かせません。先ほど紹介した、育成プログラムの前後フォローでよくある失敗の一つが、配属先の上司や先輩が新入社員の育成プログラムの目的や内容を十分に理解していないことです。理解が不十分な場合、上司や先輩がポジティブな態度で新入社員を研修等に送り出すことができず、さらに効果的な研修後面談が実施できないことがあります。特に、上司やOJT担当者から「この忙しいのに研修か」といったネガティブな一言があると、研修への参加姿勢は確実に後ろ向きになります。これを防ぐために、育成プログラムの内容や前後におけるフォローアップの仕組みや重要ポイントを人事担当者から現場の上司や先輩に共有し、理解を深めてもらうことが非常に重要です。これにより、現場のリーダーたちも、新入社員に対して効果的なサポートを提供でき、新入社員の早期活躍を後押しすることができます。
中小企業の成長は、採用担当者がカギを握る
本連載では、これまで中小企業が令和の新卒採用で成功を収めるための効果的な採用戦略を紹介してきました。どのノウハウにも共通している点は、中小企業だからこそ実現できる施策であるということです。少子化や人手不足が加速する中で、採用担当者は中小企業の未来を左右する重要な存在です。本連載で紹介したノウハウが、次年度の採用活動に少しでも役立てば幸いです。