早期退職を防ぎ、新入社員の定着・活躍を加速させるポイント〈前編〉【新卒採用が困難な今、中小企業が「自社で定着・活躍する新卒」を採用する秘訣 Vol.6】

人手不足や売り手市場が加速する中、「手間をかけて採用した新入社員に定着してもらい、活躍して欲しい」と全ての経営者や人事担当者が思われることでしょう。一方で、入社3年で3割の新入社員が退職する状況は数十年変わらず、最近では入社1カ月での超早期退職等も話題に上がります。新入社員の早期退職を防ぎ、定着・活躍を促すためには、入社前後のフォロー体制の整備、2年目に接続する効果的な育成プログラム、そして受け入れ側の育成力向上が重要です。最終回では前編・後編に分けて、これらを効果的に進めるための具体的なポイントを解説し、新入社員が定着し活躍できる環境を構築するヒントをご紹介します。
入社前後のフォローで、“リアリティショック”を減らす
新入社員の早期退職を防ぐには、入社前後のフォローを強化し、“リアリティショック”を減らすことが重要です。リアリティショックとは、新入社員が入社前と入社後で感じるギャップから生じる、心理的な衝撃を指します。例えば、「思っていたほど休みが取れない」「給料がイメージと違った」「思っていた雰囲気と違った」など、いくつかの理由がありますが、共通点は「良いと書いてあったのに実際は悪かった」「悪いと書いてあったけど、ここまでとは思わなかった」ということです。
このようなリアリティショックが生じる理由は、企業側と応募者側の双方に要因があります。まず採用プロセスにおいて、企業は応募者の志望度を高めたいと考え、自社の魅力を少し大げさに伝えたり、仕事のポジティブな面に焦点を当てた説明を行ったりしがちです。また、応募者側にも原因があります。とくに新卒の場合、正社員という立場で働いたことがありませんので、実際の業務の苦労や大変さをイメージしにくく、理想的な職場環境を想像しがちです。その結果として、大きなリアリティショックが発生するのです。
リアリティショックは新入社員のモチベーションを落とすとともに、会社への信頼を損ねます。そして、退職にもつながります。リアリティショックの影響を減らすには、入社前から実態をきちんと伝え、さらに入社後はリアリティショックへの心構えを作り、また、効果的なフォロー体制を整えておくことが大切です。
〈入社前:内定者の時期に「大変さ」を誠実に伝え、対処法を知ってもらう〉
第5回では、内定者フォローの取り組みとして、内定者の懇親会や内定者研修などをご紹介しましたが、そのタイミングで「入社後の勤務や仕事」をリアルにイメージさせることを目的としたプログラムを取り入れると、入社後のショック解消に役立ちます。 配属の可能性のある職種ごとに、「入社後にどういう仕事を行うのか」「やりがいや目的は何か」「大変なことはどういうことで、先輩たちはどう乗り越えてきたのか」など、入社後の仕事をリアルにイメージできる内容を扱いましょう。
また、大学4年次というのは単位もほとんど取り終えて、自由な時間が増えているタイミングです。「週5日、朝から8時間勤務する」「自分の希望で働く時間を決められない(アルバイトのシフト決定との比較)」「残業がある」など、生活リズムの違いも意外なストレスになります。こうしたことを想像させておいた方が良いでしょう。
大事なポイントは、入社前から良い面と大変な面の両方を誠実に伝えることです。良い面だけを見せると、入社後のショックが大きくなります。一方で、大変な面だけを見せるとモチベーションが下がり、選考辞退や内定辞退にもつながります。「仕事のやりがいや価値(入社への動機づけ)」「仕事の大変さ(リアリティショックの軽減と心構え)」の両方を、バランスを取りながら伝えていくことが大切です。
入社前の関わりには、人事だけでなく、新卒に年齢の近い若手社員や、役員など経営層にも参画してもらうことが有効です。具体的な事例や体験談を共有することで、内定者が直面する可能性のある大変さについて、乗り越え方や対処法を学ぶ機会を提供できます。また、経営層から現状の課題と改善方針や想いを伝え、内定者からの質問や不安に丁寧に答えることで、会社への信頼感を高める効果も期待できます。
〈入社後:複数人のフォロー体制を整え、早期に悩みの種を摘む〉
入社前にリアリティショックを減らすために情報を丁寧に伝えても、完全にショックをなくすことはできません。そのため、ショックに対する心構えを作るとともに、ショックが生じた際に迅速に察知し、対処できるフォロー体制を構築することが重要です。
新卒社員の場合、入社から現場配属までの間は人事担当者が主にフォローを行うことが多いでしょう。特に新人育成の担当者が採用業務を兼ねる場合、新人への思い入れもあり、新人のモチベーション低下などに気づきやすい傾向があります。
しかし、現場配属後は状況が変わり、現場メンバーは忙しく、新人へのフォローが希薄になることも多いです。さらに、業務の指導だけでなく、感情面や人間関係のフォローまで一人の上司や先輩社員に任せてしまうと、早期離職のリスクを高める可能性もあります。配属先での指導担当者が必ずしも新人とのコミュニケーション上手とは限りません。また、業務を教えることは上手くても、メンタル面の配慮はあまりしないタイプもいます。そして、人間関係にはどうしても価値観等の相性もあります。全てのフォローを現場の新人指導者一人に担わせるのは、負担も大きく、また人間関係がうまくいかなかった場合には新人が相談できる「逃げ場」がなくなります。これらのリスクを防止する効果的な対策として、フォローを複数人で分担する仕組みを構築することがあげられます。
例えば以下のような役割分担です。
・OJT指導担当者:実務の指導とフォローを担当
・指導担当者の上司:キャリアプランや仕事の意義付けを通じたモチベーション支援
・人事部門:日報の確認や定期的な面談を通じて人間関係や働き方をフォロー
・ブラザー/シスター制度:会社に馴染む&上司や人事に言いにくい悩みを拾う
「ブラザー/シスター制度」とは、新入社員受け入れの一環で良く行われる手法です。他部署の先輩社員をブラザー(お兄さん)やシスター(お姉さん)に見立て、新入社員に1対1で設定します。ブラザーやシスターは、新入社員と気軽なコミュニケーションを取り、精神面や組織に馴染むまでをケアします。
このように、現場と人事が連携し、組織の多方面から新人に関わることで、“リアリティショック”等による気持ちの落ち込みを早期に捉えたりフォローしたりして早期離職を未然に防ぐことが可能です。
働いたことがない新卒の場合、リアリティショックを完全になくすことは不可能です。入社前・研修期間を通じてリアリティショックを減らす、また、受け入れ態勢をしっかりと整えることが重要です。例えば、入社後の新人育成プログラムにおいて、リアリティショックの具体例やギャップを受け入れる心構え、乗り越える方法を学ぶ機会を提供することも有効です。離職防止の観点からは、そのようなスキルの習得だけでなく、「組織に馴染む」「人間関係を構築する」「悩みを相談できる」環境づくりにもしっかりと焦点を当てて受け入れ態勢を整備することが大切です。費用をかけずに実践できる「受け入れ」のポイントについては、「若手の早期離職を防ぐポイント【中小企業の“令和流” 若手・第二新卒採用を成功させる秘訣 Vol.5】」で詳しく紹介していますので、参考にしてください。
次回は「早期退職を防ぎ、新入社員の定着・活躍を加速させるポイント」後編
今回は、新入社員の早期退職の原因のひとつとなる “リアリティショック”、それを減らすために企業側がとるべき対応、具体的な施策をご紹介しました。次回の「早期退職を防ぎ、新入社員の定着・活躍を加速させるポイント」後編では、「定着と早期活躍を実現する新人育成プログラムの設計ポイント」をご紹介します。