会社の期待に応え、現場の想いを実現する~DXを進める”すり合わせ”のコツ~【半径5メートルから始めるDX Vol.2】

自社が今どのような事業戦略やサービス展開を目指しているか、その課題は何か。まずは基本に立ち返って自社・経営の立場でどういったデジタル推進が期待されているかを確認しましょう。そして「現場にどういったニーズや攻めどころがあるか」は、最前線を担う皆さんだからこそ気付けるポイントです。会社の期待と現場の想いがすり合わさることで、デジタル化の推進力はぐっと高まります。DXを“誰か特定の人がやる”のではなく、“全員がデジタルを使いこなす人材”になって巻込み型で「半径5メートルのDX」を進められるよう、経営と現場をつなげるコミュニケーションが極めて重要です。
【過去のコラムはこちら!第1回】
DXで何を目指すのか、一度立ち止まってみんなで考えよう

今回はDXを進めるにあたって、経営と現場のすり合わせについて考えていきます。残念ながら企業において経営と現場の認識がズレていることによる非効率は、様々な場面で起きがちですが、ことDXのようなある意味“派手な”テーマは、トップダウンで始めたのはいいものの、現場がその意図や内容を理解できず施策が形骸化するといったことがよくあります。
こういった事態を避けるためには、端的に「目的」と「成果」の認識をそろえることが重要になります。つまり、「何のためにやるか」(目的)と、「何をもって達成とするか」(成果・期待効果)ということです。
従って、現場発でボトムアップのデジタル施策を進めるうえでは、なぜ現場はそれをやりたいのか・やる必要があるのかを、経営からも理解を得られるように伝えなくてはいけません。
なお、このコラムではいわゆるトップダウン型(経営主導)とボトムアップ型(現場主導)の優劣については深く触れません。実際、どちらか一方が必ず正しいというものでもありません。少なくとも第1回のコラムでも述べたとおり、大規模な投資やトップダウンばかりがDXではありませんので、多くの読者の皆さんが現場の推進人材であると仮定し、主に現場を主語にした「半径5メートルのDX」の実践のヒントを後述します。

現場は企業の縮図、問題を正しく可視化・言語化して共通理解を促そう
シンプルに言えば、「現場の問題や困り事をデジタルで改善したい」、「デジタルで従来の仕事のやり方を変えたい」というのが現場DXの出発点です。すると当然、何らかのデジタルツールを導入するには費用がかかりますし、また仕事のやり方の変更は他部署や他の関係者にも影響を与える可能性があります。それはつまり、自部門だけでは完結しない、経営や上位層の承認が必要な取り組みということになってきます。
このとき基本的なアプローチとして、まず現場の課題をしっかり可視化・言語化することが重要ですが、その際、例えば「紙帳票の管理が面倒で困っている」というだけでは、関係者の理解はなかなか得られないでしょう。前述した、目的と成果が不明確だからですね。
もうひとつ、これもよく言われることですが、問題や期待効果は、定性と定量の両方で示されている必要があります。そしてさらに踏み込んで、現場の課題を経営視点でみるとどのように定義できるのかも、言語化できるとより経営の理解を得られやすくなります。
簡単な例で示すと、このようになります。

ごく当たり前のことをお伝えしていますが、DXという飛び道具的な言葉がついた途端、これらのロジックがどこかに飛んでいってしまう(?)こともよくありますので、その後しっかりと社内のステークホルダーの協力を得るためにも、忘れないようにしたいものです。
ポイントはこれらの過程が、なにも経営を説得するためだけのものではないということです。実際のところ、DXの推進には現場社員の心理的な抵抗が足かせになる場合が多くあります。現場に対してDXの目的と成果を分かりやすく説明し、経営の理解や後ろ盾を得られていることを伝えて安心感を与えるといった、ボトムアップの推進力(言わば腹落ち)も非常に重要なポイントになるのです。
事業の最前線でDXを考える、経営の理解と支援を得ながら現場が主体の活動に
こうして企画段階でしっかりと経営・現場双方の理解を得られれば、ようやく具体的な計画に入っていくことができます。但し、企画時点でいくら目的と成果をすり合わせたからといって、それがずっと続くとも限りません。むしろ、施策を進める過程で様々な問題やハードルに突き当たると、当初の目的や目指していたものが分からなくなってしまうこともよくあります。
推進リーダーが常に原点に返ってDXの目的を繰り返し伝えることが重要なのに加え、現場DXには文字通り現場の推進力を生むためのチームづくり(チームビルディング)が欠かせません。具体的な役割分担のコツは後日のコラムでお話しするとして、まずは現場のチームにおいて以下の3つのちょっとしたポイントを意識してみてください。
①デジタルやツールのファンをつくる
デジタルに興味・関心がありそうな人を引き入れ、新しいツールに触れてもらい牽引役にする
②ベテラン層を巻込む
業務に詳しく知見のあるベテランをチームに入れて、「あの人がやるなら私も」と仕向ける
③リーダーを置く
忙しい業務のなかで現状を変えるには、メンバーをまとめ、サポートする人が不可欠
チーム力が上がることと、共通認識を持つことは言わばセットであり、結果としてDXを進めるうえでの様々な問題に対しても文字通りチーム一丸で取り組み続けることができます。
ちなみに当社では、DXを推進するうえで特に現場のリーダー格の人材(当社の主業であるコンタクトセンターの現場ではLSV<リードスーパーバイザー>と呼びます)への教育を重点的に実施したり、CX(顧客体験価値)推進の施策ではまずマネジャー(課長層)から学習に取り組んだりしています。
ミドル層ないし現場リーダーが率先して取り組む体制ができると、チーム力が強化されることに加え、結果として経営と現場の橋渡し役を担うことで、全社の共通認識化がより確かなものになることが期待できます。
リーダーが覚えておきたい、シンプルだけどブレてはいけない大切なこと
前述のとおり、「半径5メートルのDX」成功の鍵はリーダーの方が握っています。今回は現場視点での目的や成果のすり合わせについてお話ししてきましたが、もう少し企業視点で俯瞰して整理すると、DXはあくまで手段であり、目的はそれにより企業や顧客の価値を高めることです。言い換えれば、「DXによって(手段)、EX(従業員体験)やCX(顧客体験)を向上させる(目的)」ということです。

CX(顧客体験)を高めることは言わずもがな経営の重要な課題です(①)。またEX(従業員体験)を高めること(②)も、企業にとって重要なテーマであることは言うまでもありません。ただどうしても直接的に売上や収益に結び付きにくいEXは、予算や優先度の問題が障壁になりがちです。ここでは、EXが改善することによってCXも向上する(③)というロジックがあると、より理解を得られやすくなります。
シンプルですが、この点がブレないことがとても大切です。
また企画を立案する段階での現実的な問題として、例えば「定量的な現状把握ができていない」「テーマが大きくて数値目標を掲げるのが不安」といった声もよく聞かれますが、ここでもリーダーの工夫がそれらを打開するポイントになります。例えば組織全体・全量の現状把握(計測)が難しければ、一部の作業を手動で計測してそれをサンプルとして全体効果を試算するとか、目標もまずは全体の一部の作業を切り出してデジタル化することとその目標設定から始めるといった、「プロジェクトを小さい単位に区切って計画し、進めるテクニック」も非常に有効です。
ぜひ現場リーダーの皆さんは臆せず創意工夫して「半径5メートルのDX」を推し進めてください。
次回のコラムでは、現場DXを進めるうえでどのようにデジタルのリテラシーやスキルを高めていくことができるのか、現場でできる学習やナレッジ共有の工夫についてお話しします。