デジタルの情報感度とリテラシーを高める ~現場の“デジタル力”アップのために~【半径5メートルから始めるDX Vol.3】

いざ現場でDXを始めようとしても、何から手を付けたらよいか分からないという声は多いものです。前回はDXを進めるうえでの課題や目的の共通認識化の重要性をお伝えしましたが、社内や現場で発見した問題に対して、具体的にどういう手段を講じれば解決するのか、どこでデジタルが活用できるのかといったことが分からないと、そこから先には進みません。鍵は、日頃から現場で問題に取り組んでいるメンバーが、デジタルへの関心や感度を高め、リテラシーを向上させることにあります。変化や進化の激しいビジネス✕デジタルの世界で、この点は欠かせない成功要因になります。
どうすれば問題は解決するのか、まず“技術”を知り、“より良い手段”を選択するところから

このコラムでは「半径5メートルのDX」と称して、現場DXの進め方のヒントをご紹介しています。今回は、現場起点でDXに取り組むうえで欠かせない、デジタルに対する社員の情報感度やリテラシーについて、育成の視点も交えてお伝えしていきます。
「DXといっても何から手を付ければいいか分からない」という声はよく聞かれますが、多くの場合「デジタルのスキルを持った人材がいないから」という理由が多いように思います。もちろん実際にDXを進める場合に、例えばプログラミングができる人材が必要になるといった場面はあるでしょう。しかしその前に、このコラムではあえて「情報感度」や「リテラシー」といった観点に注目します。言うならば「スキル以前の問題」ですね。
少々厳しい言い方に聞こえるかもしれませんが、現場で起こっている問題や困り事に対して「この問題にはあのデジタル技術が使えるかもしれない」、「この作業はあのソリューションで自動化できそうだ」といった発想を持つためには、ベースとしての基礎的な技術情報やツールの概要などを知らないと、そもそも着手のきっかけをつかむことができないのは明らかです。
例えば自社の基幹システムが使いづらく、それが原因でミスが頻発したり新入社員の覚えが悪かったりするという問題があったとして、「DAPツール*を使えば解決できるかもしれない」と気付くには、そもそもそういったツールがあることとその効能を知っておかなくてはいけません。(*DAP:Digital Adoption Platform)

デジタル技術を“知る”ことは難しくない、何があって・何ができるかからおさえよう
具体的なスキルの習得のためには、技術的な訓練や研修を受けるなど、一定の時間とコストが必要になります。一方、最初の一歩として「どんなデジタル技術があって」「どんなことができるのか」を知るのは、そこまで労力のかかることではありません。
これらの情報はネットや書籍などで手軽に入手することができます。それも億劫だという方におすすめなのは、毎年あるいは季節ごとに雑誌等で特集される最新のデジタル情報に目を通すだけでも、大まかな動向をつかむことができます。自分が読みやすい、あるいは信頼できるメディアをいくつか見つけておくといいと思います。
またデジタルツールは競争が激しいですから、大抵の場合ひとつの技術でも複数のサービスやソリューションが存在しますので、できれば2~3つ以上のツールを比較するようにしましょう。これも各メディアや展示会、比較サイトなどで情報収集が可能です。
当社でも現場のリーダー向け研修のなかで、事業に関係が強いものを中心に技術ラインナップと概要を解説しています。これらが「半径5メートルのDX」の芽を生むためのある意味“種蒔き”となり、現場での気付きのきっかけとなると考えています。

慣れ親しむことがリテラシー向上の近道、食わず嫌いを無くして興味・関心を持とう
繰返しですが、例えばRPA(Robotic Process Automation)で何ができるかを知らなければ、現場で「この定型作業を自動化しよう」という発想が生まれませんし、仮にトップダウンで全社にRPA導入の指示が下りたとしても「それをどこに使えばいいのか」と途方に暮れてしまいます。
難しいのは、こういった新たな技術やツールに触れること自体に、一定数が苦手意識を持っているという現実です。自分は「関係ない」「苦手だから」といってシャットダウンしてしまう方も少なくないのではないでしょうか。
「半径5メートルのDX」のためにはできるだけ多くの現場の“気付き”が重要です。これまではデジタルに苦手意識のあったベテラン社員にも、できればリテラシーを高めてたくさんの“気付き”をあげて欲しいものですよね。
デジタルが得意な人や新しもの好きの人に発信者になってもらい、情報提供機会をつくるのもひとつですが、もうひとつのオススメは、全員が使う身近なツールから派生するかたちで新しいものに触れてもらうやり方です。コロナ禍でリモートワークが進んだことで、多くの人がWeb会議ツールに慣れたことが良い例です。
例えば多くの会社では、Windows PCとMicrosoft Officeを利用していると思いますが、これら仕事の基盤となるツールにも日進月歩で様々なデジタル機能が追加されています。当社では、プロジェクト管理や情報共有のため部門横断でTeamsを使ったり、簡単なヒアリング集計やアンケートにはFormsを積極的に活用したりしています。
これらのツールは、全社員が日常業務の延長線上で使うことができるため、比較的抵抗なく取り入れることができますし、自然とデジタルの情報感度も高まっていきます。
日頃からアンテナを張って、“新たな問題”に備えよう
最近ではビジネスシーンでももっぱら生成AIの活用が話題です。あれこそリテラシーの最たるもので、生成AIで何ができるか(何ができないか)を知り、自分の業務でどんなことに活用できるかの発想が肝になりますし、どんなプロンプトが有効かというちょっとした知識や、何でも試してみようという積極的な態度の有無で、大きな差がつく典型的な例だと思います。
生成AIも含め、これからも技術進歩はますます加速するなか、次のポイントはその情報の更新に追いついていくことになります。あまりにも進化や変化が激しいので、ついていくのが大変と感じている人も多いと思いますが、ここまでに述べたように「気軽な方法で大まかな動向をまずはつかんでおく」という姿勢が重要です。
技術も、問題も、日々新たに生まれるものです(新しい問題は無い方がいいのですが)。原則としてまずは達成したい目標や解消したい問題があり、そのためにどんな手段を講じるかを考えるのが王道となります。このとき、手段としてデジタル活用の発想を持てるかどうか、そのためのリテラシーの重要性は前述のとおりです。
また少々変化球ですが、技術情報の感度が高くなると、「この新しい技術を使って解決できる問題は何かないか」という逆転の発想を持つこともできますし、時には有効かもしれません。ぜひ日頃から様々な情報のアップデートにアンテナを張ってみてください。

おわりに ~リーダーは率先して新しいことを学ぶ姿勢を示す~
今回は主にメンバーの情報感度やリテラシーについてお話ししました。リーダーの方はぜひ率先してご自身も新しい技術情報に触れ、メンバーにも共有するようにしてみてください。
実際問題、DXの推進には具体的なスキル(技術)が必要になってくるのも事実です。詳しくは次回のコラムでお話ししますが、リーダーの方はまずチームの価値観としてみんなで新しいことを学んでいく姿勢を大切にしていただければ嬉しいです。
2:6:2の法則と言われるように、現場には黙っていても学ぶ方もいれば、全く関心を示さない(むしろ抵抗する)方もいます。ポイントは「6」のメンバーを動機付け、デジタルの実践者にしていくことだと思います。多くの理解者・実践者が生まれれば、最近はノーコードツールなどもかなり実用的になっていますので、技術習得のハードルを下げながら「半径5メートルのDX」を進めることは十分可能です。
次回のコラムでは、実際に現場でDXを進めるにあたり、どのような育成や役割分担をすればよいかを考えていきたいと思います。