“創るひと・進めるひと”のチームで取り組む現場DX ~役割分担と機動力でデジタル化を加速させるには?~【半径5メートルから始めるDX Vol.4】

デジタルを活用した業務改革やサービス変革を実現するためには、技術的な壁と、組織的・業務的な壁の2つの問題をクリアする必要があります。プログラムやシステム設計の技術と、業務課題を明確にして計画化し周囲の合意を取り付けていくプロジェクト推進とを、誰か1人が担って進めていくのは非常に困難ですし、私たちの現場に必ずしもそんな「スーパーマン」がいるとも限りません。今回は、現場でこそ生まれる小さなチームによってDXを推進するための、効果的な役割分担の考え方や学ぶべきポイントについて解説します。
現場DXの秘訣はプロジェクトを“進める人”、デジタルを“創る人”が、「小さなチーム」になること

このコラムでは「半径5メートルのDX」と題して、オフィスワークでありながら企業の“現場”で働く皆さんがDXを身近なものと捉え、デジタルで現場の問題や困り事を解決し、仕事のやり方を変えるための参考になる考え方やヒントを紹介しています。4回目の今回は、現場DXをどのようなチームや体制で進めたらよいかについて考えます。
前回(第3回はこちら)お伝えしたとおり、まず大前提として現場DXを進めるうえでは(できれば)全員が最低限のデジタルに対する興味・関心や一般知識、すなわちリテラシーを持つことが大切です。
そのうえで、例えばパソコンで行う定型作業の自動化を進める場合であれば、自動化のために必要なプログラム言語を理解し、実際にプログラムを書いて動作させるための知識と技術を持った人材が必要です。しかし、現実の職場では果たしてそれだけで(その人材だけで)DXは推進できるでしょうか?
・そもそも自動化すべき対象の作業はどれなのか、現状はどうなっているのか
・自動化を進めるうえで誰に相談し、予算や了承を取り付け、巻込めばよいのか
・どんな作業計画を立て、どのように進捗管理し、どう効果検証したらよいのか
単に自動化すると言っても、現実には上記のような様々な問題をひとつずつ解決していく必要があります。また、プログラムを行う人が対象作業(実務)を熟知していればよいですが、必ずしもそうでない場合もあるでしょう。
現場DXを進めるため、取り組む課題をひとつのプロジェクト(例.作業自動化)と捉え、“プロジェクト全体を推進する人”と、“デジタルを創る人”とがチームになること、それが「半径5メートルのDX」における重要なポイントになります。
誰か1人に任せるのはなく、協力しあい、相互補完で進める“現場DXチーム”

現場を熟知し、プロジェクトの企画やマネジメントが得意で、プログラミング等のITスキルにも精通している。現実にはそんなスーパーマンのような方が全ての現場にいるわけではありません。
反対に、皆さんの職場にもこんな人はいないでしょうか。先頭に立ってみんなを引っ張り、周囲を巻込みながら上手くコミュニケーションをとって物事を進めるのに長けたリーダータイプの人(でもIT関係は苦手)。Excel等のOfficeツールやネットワークなどに詳しく、自身で率先して新しい知識を学んだり試したりするエンジニアタイプの人(でも積極的に周囲を引っ張るのは不得意)。
少々乱暴な例ですが、言ってしまえば非常にシンプルで、推進する人(このスキルを当社ではデザインスキルと呼んでいます(上図参照))と創る人(デジタルスキル)が、互いに得意な点を活かして協力しあって取り組もう、というのが「半径5メートルのDX」を成功裏に運ぶ現場DXチームです。
違う見方をすると、プログラミングやITソリューションに関する知識・スキル、それを有した人材だけでは、上手くいかない場合もあるということです。後述しますが、現場DXが実務に対して変化や新たな要素を生む以上、必ず障壁となる問題の解決や周囲の巻込みといった、いわゆるプロジェクトマネジメントの考え方も不可欠になります。
実務が求めるデジタルを、チームで実践的に学ぼう
プログラミング学習を推進して全社員が理解したからといって、必ずしもDXが進むわけではありません。一方で、先頭に立って旗を振るリーダーがいても実際にテクニカルスキルを有した人がいなければ事は進みません。まずは推進者と技術者のチームづくりが必要です。
このとき、具体的には推進者と技術者それぞれにどんなスキルが必要・重要か、学ぶ必要があるかについても見てみましょう。

現場DXをひとつのプロジェクトと見立てて、そのプロセスを大きく推進面と技術面のスキルから大雑把に整理すると上図のようになります。
ここで現実的に問題になるのが、技術・スキルにおいては、当然ですが「何に取り組むか」によって求められるスキルも多岐に渡るという点です。ご存知のとおり、ひと口にデジタルスキルと言っても、その幅広さや深さは1人でカバーするのは極めて難しく、また変化や更新も頻繁です。
従って全てのニーズに応えられる技術人材の育成は非常にハードルが高いわけですが、当社では、①事業や現場が求める共通課題に適用できそうな技術(スキル)にアタリをつけ、②様々な部署から参加を募り座学+実技・実装までのカリキュラムを提供する、という2つのステップで技術人材の育成を推進しています。
コールセンターのBPO企業である当社では、現場ごとに受託した契約に紐づく異なる環境やシステムがあり、一律で大型ソリューションが導入しにくく、クライアント側システムに依存する(当社では勝手にシステム改修できない)、といった特徴的な現場共通課題があります。こういった共通課題に汎用的に対処でき、かつ現場ごとにより細かい実務に即したアレンジが可能な技術要素に着眼し、RPA(Robotic Process Automation)、DAPツール(Digital Adoption Platform)などのワークショップ型の研修を実施しています。
ポイントは各技術の知識だけでなく、操作・設定の仕方などの実技指導と、その実践(導入)までをカリキュラムとすることで、知識習得だけでなく、実務での成果までをゴールとしているところにあります。また、部署横断で同じ悩みを持った同志が共に学び、その後の実践での工夫や困り事を“横のつながり”として共有できることも、副次効果として期待できます。
当社も最初からこういったカリキュラムがあったわけではありません。技術系を得意とする人材の知見を活かしながら教え合ったり学び合ったりするところから始まっています。今はYoutubeなどでも十分に学べるコンテンツがありますので、まずはこれだと思う内容から、学習の一歩を踏み出してみましょう。
デジタルを”進めること”は思ったより難しい!?、次世代に求められるプロマネスキルを身につける
もうひとつ、現場DXに欠かせないのが推進者とそのスキルです。IPAが提唱するDXスキル標準*で言えばアーキテクト人材、ということになるかと思いますが、当社では事業に親和性があり馴染みもあるプロジェクトマネジメントの手法を参考にしています。
*デジタルスキル標準
デジタル導入の計画立案から、関係者の巻込みやコミュニケーション、タスクの進捗管理や効果検証・報告など、一連の流れは規模の大小問わずまさに“プロジェクト”であり、いわゆる日々の定例業務ではなく一定期間に目的を持って進める施策の推進を広く“プロジェクトマネジメント”と捉えれば、私たちビジネスパーソンに益々不可欠なスキルと言えます。これについてはPMBOK(Project Management Body Of Knowledge)など、体系としてまとまったものが参考になります。
ここでは2つの留意ポイントがあります。
1つは、定型的なプロジェクトの管理手法に加えて、変革に伴うリーダーシップの発揮やチェンジマネジメントといった考え方が重要になるということです。よく「粛々と進める」という言い方がありますが、DXが変化や刷新とそれに伴う抵抗を伴う以上、ある意味「粛々と進む」ことは無いと思った方がいいでしょう。そこで、対話を通じて共感を創り、変化を受け入れながら挑戦を進めるリーダーシップや、抵抗となる壁をひとつずつ解決していくチェンジマネジメントといった要点を理解しておくことが不可欠です。
2つ目は、「アジャイル」であることが求められるという点です。従来的な大型システム導入などを一般的にウォーターホール型と呼ぶのに対して、そもそも果たしてそれが正解かどうかはやってみないと分からないDXのような取組みは、試しては修正し、の繰返しで柔軟に変更や軌道修正を加えていくことが要求されるプロジェクトであり、踏まえておきたいポイントです。(次回コラムにて詳述)
これも、すぐに専門的な学習が難しい場合は、アドバイザーとして経営層や管理職にも参加してもらったり、Webや書籍などで入手できる様々な“プロジェクト”の成功・失敗例を参考にしたりすることができます。

現場発のDXとは? 小さなチームから生まれる機動力
最後により現実的な側面から、現場リーダーの方へエールを送りたいと思います。
本コラムの考え方で言えば、皆さん自身は推進者の立場になることが多いと思います。いわゆる役職や肩書によるものではなく、皆さん自身もプロジェクトマネジメントやリーダーシップを改めて学びながら、技術者である他メンバーの方々と「良い現場DXチーム」を創ること。それが「半径5メートルのDX」の成功の鍵だと共感してもらえれば嬉しいです。
決して十分な予算が用意され、高スキル人材が揃っているわけではないと思います。ですが、現場主導による“小さなチーム”とその機動力は、本来DXととても相性が良い特性です。「two pizza team」と呼ばれる少数編制のチームが高いパフォーマンスを発揮すると言われるように、ぜひ皆さんの現場でも素晴らしいDXチームと成果が生まれることを応援しています。
次回のコラムでは、シビアな現場業務にあってどのようにアジャイルなDX推進やトライ&エラーを実現するかについてお話しします。