面接で信頼を築き、志望度を高める「1対1の効果的なコミュニケーション術」〈後編〉【令和の採用担当者必見!学生の“心をつかむ”コミュニケーション力 Vol.6】
この連載では、プレゼンテーションや営業力のトレーニングとして、FORTUNE500(アメリカの売上トップ500社)の90%以上が導入している「デール・カーネギー・トレーニング」のメソッドを基に、採用担当者のコミュニケーション力を高めるためのポイントを解説していきます。
第4回からは、面接で信頼を築き志望度を高める「1対1の効果的なコミュニケーション術」をテーマに、「人事面接」における効果的な面接準備(第4回)や、面接の初めで好印象を与える話し方のポイント(第5回)などを解説しました。最終回となる今回は、面接の中盤から終盤に学生の自社への志望度を高め、次の選考への参加を促すための関わり方を解説します。
「人事面接」で心を動かす! 信頼感と志望度を高める3つのアプローチ
第5回で解説した“スタートトーク”で学生に好印象を与えたあとは、自社への信頼感と志望度を高める関わりを行い、次の選考への参加を促していきます。
②見極めではなく「ほめる+魅力づけ」で志望度を高める!
第4回でも述べた通り、売り手市場における「人事面接」は、学生を見極めるだけでなく、選考に進んでもらいたい学生と信頼関係を築きながら自社の魅力を伝え、志望度を高めてもらう場としての役割が求められています。こうした役割を果たすうえで有効なのが、「ほめる+魅力づけ」というコミュニケーション手法です。
「ほめる」とは、学生の強みに対してポジティブなフィードバックを伝える関わり方です。当社が2026年卒業予定の学生を対象に実施した「面接でほめられると嬉しいポイント」に関する調査では、上位に「人柄の魅力」と「人生観・価値観」があげられ、これらのポイントを面接でほめられると「志望度が高まる」と回答した学生は9割を超えました。
多くの学生にとって企業の採用担当者は、身近に接する初めての社会人です。そうした存在から強みをほめられた学生は、「自分の強みを社会で活かせるかもしれない」という期待感を抱くとともに、前向きな気持ちにさせてくれる採用担当者へ信頼感を持つようになります。こうした感情の高まりに重ねて、学生の強みが活かせる自社の魅力を伝えることで、志望度を高めてもらうことができます。
「学生を知る」に徹する
学生を「ほめる」ためには、強みを知ることが必要です。面接では過度に見極めに走らず、「知ることに徹する」という意識を持ち、学生の強みを引き出す質問を投げかけましょう。活用しやすい質問事例をご紹介します。
【学生生活に関する質問】
・学業で特に力を入れてきたことは何ですか?
・現在、ゼミではどのような研究に取り組んでいますか?
・卒業論文では、どのようなテーマで研究を進めていますか?
・アルバイトでは、どのような業務を担当していましたか?
【 考え方・価値観に関する質問】
・これまでで一番達成感を得られた経験はどんなことですか?
・失敗経験の中で、特に印象に残っていることはありますか?
・就職活動で「大事にしたいこと」は何ですか?
・周りの人からどんなふうに言われることが多いですか?
履歴書やエントリーシートに趣味やプライベートに関する情報が記載されていれば、趣味を始めたきっかけや休日の過ごし方などについて質問してみてもよいでしょう。学生の関心のあるテーマや具体的なエピソードが見えてきたら、その経験の中で楽しいと感じたこと、苦労したこと、工夫した点などについて質問し、学生の強みを深掘りしていきます。
学生の強みを心からほめ、自社の魅力も伝える
対話の中で学生の人間性や価値観、得意なことなどの強みが発見できたら、「ほめる+魅力づけ」を行っていきます。具体的には、次のような伝え方が効果的です。
■ 強み:部活動での主将の経験で培った、目標達成に向けたリーダーシップの発揮
「主将として、メンバーの個性を活かしたリーダーシップを発揮されているんですね。すでに、会社に入ってから経験するようなことを実践されていて、本当にすごいと思います。私たちの会社では、入社2~3年目でチームメンバーを持つリーダーを任されることもあるので、Aさんの強みが早い段階で活かせると感じました」
※下線部が強みに関連する「自社の魅力」の部分(以下同様)
■ 強み:将来のために、明確なキャリアプランを持っていること
「就職活動では多くの選択肢に触れられる中で、現時点で明確にキャリアプランを描けている学生さんは少ないので、Bさんの意思の強さに感動しました。当社にはBさんが目指すキャリアを歩んでいる社員もいるため、入社後には具体的なアクションを知ることができ、モチベーションもさらに高められると思います」
■ 強み:飲食店でのアルバイトで「コミュニケーション」を大切にしている
「どんな時も報連相を徹底し、他の店員さんとのコミュニケーションを大切にされているんですね。忙しいときは自分のことで手一杯になりがちですが、お互いに協力し合う姿勢を常に意識されている点、私も見習いたいと思いました。当社の各事業は、個人では完結できない業務が多いため、Cさんのような存在は非常にフィットすると感じました。一緒に働きたいと強く思いました。」
これらの例では「ほめる」と「自社の魅力づけ」を一文で表現していますが、実際の場面では、相手の反応を見ながら何度か「ほめる」やりとりを重ね、学生がポジティブなフィードバックをしっかり受け取ってくれたと感じたタイミングで自社の魅力を伝えていきましょう。学生の感情の動きに寄り添った関わりにより、採用担当者への信頼感と自社への志望度を一段と高めてもらえることができます。
③ 「入社後のイメージ」を想像させ、次の選考への参加を促す
「ほめる+魅力づけ」によって学生の信頼感と自社への志望度が高まってきたら、最後は「入社後のイメージ」を想像してもらう関わりを通じて、次の選考への参加を促していきます。
学生のニーズに沿う「入社後のイメージ」を一緒に考える
「入社後のイメージ」とは、具体的には「就職によって実現したいキャリアが叶っている姿」を指します。学生が面接の中でそのイメージを具体的に思い描き、「この会社で理想のキャリアを実現できそうだ」と実感できれば、次の選考への参加を自然に促すことができます。
学生に「入社後のイメージ」を想像してもらうためには、まず学生のニーズを正しく把握することが不可欠です。「就職して社会に出たあと、どのような社会人になりたいですか?」「将来、どのようなキャリアを築きたいと考えていますか?」といった質問を通じて、学生が重視している価値観やキャリアの方向性を丁寧にヒアリングしましょう。学生はどの企業に入社するかよりも、入社して得られるメリットを重要視しているので、就職に対する本質的な動機や欲求を理解するためにも、まずは広い視野での対話を行いましょう。
事前の面接準備で学生の志向やニーズをある程度想定している場合は、それを確かめる形で質問を投げかけるのも効果的です。例えば、「Aさんは事前アンケートで『20代でマネジメント経験を積みたい』と書いてくれていましたが、将来的には管理職など、組織を率いるポジションに興味があるのですか?」といった問いかけは、学生の話しやすさを高め、深い思考へと導くことができるでしょう。
対話の中で学生のニーズが明確になってきたら、そのニーズを実現するためにどのような経験やスキルが必要かを一緒に考えていきましょう。学生が具体的なスキルや経験を想像するのが難しそうな場合は、「プロジェクトマネジメント業務では、多くの人の意見をまとめる調整力が必要になりますね」や、「頼れるチームリーダーになるには、まずは自分がプレイヤーとして幅広い経験を積むことが大切かもしれません」といった形で、将来像への道筋を一緒に描けるようにサポートしましょう。
「入社後のイメージ」を実現できる確信を与え、次の選考を促す
理想の社会人像やキャリア形成、その達成に必要なスキルや経験が明らかになったら、そのスキルや経験が自社で身につけられ、最終的には学生が望むキャリアを叶えられるということを、事実をもって伝えていきます。ここで、第4回で事前に準備しておいたUSP(競合他社よりも優れている魅力)の情報をここで活用すると効果的でしょう。
「Aさんは将来的に、チームメンバーの強みを活かして成果を出せるリーダーになりたいのですね。今一緒に考えた通り、そのためには成功や失敗を含めた現場での実践経験や、メンバーのモチベーションを高めながら業務を推進する力が大切になってくると思います。
私たちの企業では、営業部門では入社1年目から新規顧客の開拓と既存顧客の対応という多様な経験ができますし、3年目くらいの早い段階でチームリーダーに任命されることもあります。マネジメント経験を早期に得られるこのスピード感は、他社に負けない強みです。20代のうちから、プレイヤーとしての経験とリーダーとしての経験の両方を積むことができるため、Aさんの今後のキャリア形成にもぴったりだと感じました。」
学生の入社後イメージに合致する自社の魅力を伝えられたら、最後に、次の選考への参加を打診します。
「今日話してくださったAさんが望まれているキャリアを、一緒に実現できればと考えています。ぜひ次の選考に進んでいただきたいのですが、よろしいですか?」
自分のキャリアを真剣に考えてくれる採用担当者への信頼感と、「この会社なら自分の望みが叶えられそうだ」という実感とともに、次の選考へ進む意思を示してくれるでしょう。
さいごに
本連載では、激化する新卒採用市場で中小企業が勝つために、採用担当者が習得すべき“2つのコミュニケーション力”について解説してきました。ご紹介したノウハウを実践し、企業説明会などで多くの学生の心をつかみ(第2回・第3回)、人事面談で目の前の学生の心を動かす(第4回・第5回・第6回)ことができれば、学生を入社まで導くだけでなく、一人ひとりの強みや個性を引き出し、モチベーションの高い状態で入社してもらうことが可能になります。本連載のノウハウが、皆さまの明日からの採用活動に少しでもお役に立てば幸いです。








