掲載希望の方 オフィスのミカタとは
従業員の働きがい向上に務める皆様のための完全無料で使える
総務・人事・経理・管理部/バックオフィス業界専門メディア「オフィスのミカタ」

シニア人材は日本の労働力不足解消の鍵となりえるか

2019.05.15

 少子高齢化に伴う労働人口の減少が進む中で、シニア人材の活用が叫ばれて久しい。実際に、厚生労働省が発表している資料による労働力人口を見てみると現在は6500万人ほどしかいない。15歳から29歳の労働力人口を見ると1990年から比較して300万人ほど減少しており、2030年以降は1000万人を切る可能性が非常に高い。

 そのうえで労働人口解消のため、シニア人材を採用するといった方法がある。では、シニア人材活用の実情はどうなっているのだろうか。労働力としてのシニア人材活用のメリットやデメリットなどについて詳しく見て行こう。
※ここでは、シニアの年齢を60歳以上として定義する

 

シニア人材の活用を行う実状と扱い

 シニア人材活用の実情を見てみると、継続雇用制度として60歳を超えている社員を雇用している企業は非常に多い。定年そのものの引き上げを行っている企業も徐々に増加しつつあり、一般的にもシニア人材の活用は進んでいる。

 例えば、一部の企業の60歳から65歳といった定年の上限の変化もシニア人材の活用を意識しての制度変更だと言えるだろう。また、高年齢雇用者安定法が施行されてからは、60歳以上の従業員に対し、定年の引き上げか再雇用・勤務延長などの処置を企業側で行う必要があるというのもシニア人材の活用を後押ししている状況だ。

・シニア人材活用の実状
 シニア人材の活用を行っている大多数の企業は定年退職後の人材に対して、定年前と業務内容が変わらなくても報酬を減額していることが多い。これは、企業の規則によるものが多く、特に大企業などにおいてはその特徴は顕著だ。

 また、シニア人材の活用を行うにあたって、政府の法令に従って無理やり60歳超の人材を活用・雇用するといった傾向が非常に強く、企業としても仕方なく対応しているといった姿勢が見えているのも事実だ。

 先日、日本屈指の大企業であるトヨタ自動車ですらも終身雇用は難しいと述べたことで非常に話題となった。人材として持ちえる知識やスキルに対して相応の対価を支払うというよりも、日本の多くの企業は年功序列が非常に多い。企業としても、シニア人材として扱うことによって年功序列を考慮しない賃金形態とすることが可能となる。

 次の章ではシニア人材の活用におけるメリットとデメリットについてを見ていく。

シニア人材活用のメリットとデメリット

■ メリットについて
・職務に対して意欲的
 定年を迎えた場合、一般的にはその年齢以降は企業に所属して働く必要性はないと言える。しかし、意欲的に働きたいと望むシニアには熱意があると信用できるため、起業としても安心して業務を任せられる一面があると言えるだろう。また、長年の知識や経験、人脈などをフル活用できることも強みの一つとも言える。

・人件費の削減が可能
 シニアの給料や年収を低く抑えるのではなく、シニアを再雇用することによって、新しい採用を行う必要性がなくなる。また、意欲的に働くことがわかっていることから労働条件を変更したとしても、新しく人材を採用し、教育するコストよりもシニア人材の活用を行った方が人件費の削減につながるため、効率的だ。

・社員の育成に効果的
 シニアは年長者であることに加えて、業務におけるスキルやノウハウも豊富だ。再雇用となった場合、配属を変えて若手社員の育成を行ってもらうという立場になることもできる。また、あらゆるトラブルなどに対しても臨機応変に対応できる力があることから、若手社員にとっても頼りになる存在となるだろう。管理体制などにおいてもシニアがいることによって柔軟な体制を築くことが可能だ。

■ デメリットについて
・賃金が大きく変わる場合がある
 企業の規則によって異なるものの、同じ業務を行うとしても賃金が大きく変化する場合がある。企業によって対策を行う必要があり、再雇用を行っても賃金や待遇などによってはすぐに辞職する可能性もゼロではない。

 また、一律で規定している企業も多いものの、個人の意志を把握した上で、一人一人に合わせた柔軟な対応が必要だ。

・環境の変化に追いつけない
 シニアの待遇や処遇が大きく変わることによって、上司や部下といった関係性も変わることもある。そのため、先日まで上司だったシニアが場合によっては部下となると言ったミスマッチが起こることもありえるだろう。

 そういった場合、シニアだけでなく周りの従業員も環境の変化に追いつくことが困難であることから、シニアの社内での立ち位置を考慮して待遇や処遇を決める必要がある。また、規則が存在しないのであれば、シニア人材に対する新しい規則を作っておくことが重要だ。

 シニア人材の活用を行う際のメリットとデメリットを見てみると、社内の規定や考え方が労働人口や社内の実状に沿ったものではない場合、早急に対応する必要があると言えるだろう。

シニア人材活用での成功事例

 シニア人材の活用にはメリットとデメリットがあることが分かったが、企業によってシニア人材の活用に成功しているケースもある。いくつか事例を紹介していくので、参考にしてほしい。

1.ダイキン工業
 空調や油圧機器、電子システムなどの事業を行っており、年齢を重ねれば重ねるほど専門的なスキルを持つ従業員が多いのが特徴だ。その上で、ダイキン工業はシニア人材の活用に成功している。

 例えば、1990年の段階で60歳の定年以降の再雇用制度をすでに導入しているだけでなく、65歳までの再雇用制度に加えて、シニア人材のスキルによってはそれ以降も働くことが可能だ。また、勤務時間や年収の設定も細かく決まっており、働く日にちも自分で決めることが可能だ。特に、65歳を超えて労働が可能なシニアスキルスペシャリスト契約社員制度では最長で70歳まで労働を行うことが可能な点は新しい取り組みだと言えるだろう。

2.BMW株式会社
 世界で249万台を売り上げる自動車製造会社である BMW でもシニア人材に対する配慮が行われている。 BMW では、従来から自社の従業員の年齢構成を把握しており高年齢の労働者が無理なく就業できる体制を整えている状況だ。

 例えば、従業員に合わせた工程の変化や車体そのものの角度を変えることによって、従業員の負担を減らし、使用する器具についても一定の装備が必要だと規定されている。また、高齢従業員の実態を把握するために作業環境の計測や配置、機器の導入などによって若年層と高齢者が同一のチームで労働が行える環境がある。

 以上の企業のようにシニア人材の活用に成功している企業は、自社の労働状況の分析から行っていることが分かる。報酬などについては、まだ大きく改善の余地があるものも多いものの、シニア人材の活用を行うにあたっては、労働力としてシニア人材がどのような意味を持つのか企業として考慮する必要があるだろう。

まとめ

 シニア活用は非常に多くの企業で取り入れられている制度だ。しかし、個人の能力や立ち位置を全く考慮しない再雇用が多いのも事実である。そうなった場合、シニア活用を行おうとしても失敗する可能性が高く、うまく人材を活用することも難しくなるだろう。個別に対応するのが難しい場合もあるものの、個人の能力や立ち位置を意識したシニア活用が重要になると言える。