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おさえておきたい!人事・労務の基礎知識Vol.5 健康診断は福利厚生?実施方法と人事労務が行う業務

2020.06.11

 企業が従業員の健康を守るために実施を計画する健康診断。福利厚生としての性格も持つ健康診断は、必ず実施しなければならないのか戸惑う労務管理者もいるのではないだろうか。また、健康診断といっても実施方法やその内容にはさまざまあり、どのように実施すれば良いのか思案することもあるだろう。

 今回は、健康診断の概要や、基本的な実施方法とともに、健康診断に関する労務管理業務の項目について見ていく。正しい実施方法を知り、従業員の健康維持に努めよう。

目次

●健康診断は義務?福利厚生?
●健康診断の種類と実施方法
●人事労務が行う健康診断に関する管理業務
●まとめ

健康診断は義務?福利厚生?

 企業が従業員に対して行う健康診断は、労働安全衛生法により定期的に実施することが義務付けられている。実施の対象となる従業員は、正社員に限らず、週の所定労働時間の4分の3以上を労働する契約社員やパート従業員も含まれる。事業規模に関わらず雇用する従業員がいる場合、実施は必須だ。

 また同法では、企業だけでなく従業員自身に対しても、企業が行う健康診断を受診することを義務付けている。そのため、従業員が確実に受診するよう企業からもアナウンスすると良いだろう。仮に企業が健康診断を実施しない場合、罰金50万円以下の罰金が課せられる場合もあるので注意しよう。

 また、健康診断は従業員に対する健康管理義務を果たすための福利厚生としても認められている。従業員の健康を守ることは、企業のメリットにもつながるため、定期的に実施できるよう取り組みを行いたい。

健康診断の種類や内容、実施方法とは

 健康診断の種類はさまざまあり、従業員の業務内容によって、必ず受診しなければならない項目も異なる。ここでは、健康診断の種類と内容、実施時期や費用等について見ていこう。

健康診断の種類
 企業が実施する健康診断には、主に通常業務を行う労働者を対象とした「一般健康診断」と、特定の有害業務を行う労働者を対象とした「特殊健康診断」がある。従業員の業務内容によってどちらの健診の受診対象となるのか、確認が必要だ。

 一般健康診断は雇い入れ時に行う健康診断と、定期的に行う健康診断の2種類があり、必須項目として、次の項目が指定されている。

<一般健康診断で実施が定められた項目>
・既往歴
・自覚症状
・身体測定(身長、体重、胸囲)
・視力検査
・聴力検査
・胸部エックス線検査
・血圧測定
・貧血検査
・肝機能検査
・血中脂質検査
・血糖検査
・尿検査
・心電図検査

 一方、特殊健康診断は放射線業務や有機溶剤を使用する現場での業務など、法定の有害業務に従事する従業員に対して実施するものだ。業務内容に応じて実施が定められた項目の受診を、雇い入れ時と6カ月に1回や、1~3年に1回などのスパンで実施することが義務付けられている。

健康診断の実施方法と実施時期
 健康診断の実施方法は、次の3通りだ。

(1)集団検診を実施
(2)会社指定の病院での受診
(3)従業員各自で受診させたのち、結果を提出
 
 それぞれのメリットやデメリット、従業員の人数などを考慮し、自社にとって最適な方法を検討しよう。実施時期についての定めはなく、従業員ごとに異なっていても問題はないが、なるべく一定のペースになることが望ましい。

健康診断費用の負担
 健康診断に要する費用は、企業が全額を負担する必要がある。ただし、受診のためにかかる交通費等については、法律による定めはないため、事前に企業側の負担とするか、従業員個人の負担とするかを話しあって決定し、通知しておくと良いだろう。
 
 また、基本的な項目の受診費用は全て企業に負担責任があるものの、指定外の項目を従業員自身の希望で追加する場合は、追加項目分の費用は従業員負担とすることも可能だ。最低限の費用のみを企業側の負担とするか、負担する費用の上限を決め、その範囲で従業員個人が健診内容を選択可能とするかなど、福利厚生面も考慮しつつ企業の方針を決定しよう。

健康診断にかかる時間の取扱い
 健康診断にかかる時間を、業務内・業務外のどちらにするかも企業の判断に委ねられる。業務時間内に受診する場合は給与の支給対象とするが、休日に実施する場合は業務外とし、手当等は支給対象外とするなど、トラブル防止のために予め決めておくと良いだろう。

人事労務が行う健康診断に関する管理業務

 従業員の健康診断に関する管理業務は多岐にわたり、労働安全衛生法により、取り組みの実施が定められたものもある。ここでは、従業員の健康診断業務に関わる、労務管理者の業務内容について紹介する。

経営者とのやり取り
 まず、どのような方法で従業員の健康診断を実施するのか、方針や具体的な方法の決定が必要だ。そのため、経営陣との確認業務が発生する。また、予算の見積もりや請求書の作成などの管理業務も必要になる。

健康保険組合とのやり取り
 受診する従業員の年齢や性別によって、健康保険の補助対象となる健診項目は異なる。そのため、受診項目がセットになった健診コースを決めるには、健康保険組合への事前ヒアリングが必要だ。また、健康組合に対する補助金申請の提出が求められることもある。組合によって所定の様式があるので、申請漏れが発生しないように必ず確認しよう。

従業員とのやり取り
 健診の実施方法が決定したら、従業員に対して周知しよう。事前業務には受診日・受診コースの希望確認、問診表などの事前送付などがある。また、受診後はクリニックから送付される健診結果の報告を従業員に対して伝えよう。結果によって従業員が健康保持に努める必要がある場合は、医師や保健師による保健指導を実施できるよう手配が必要だ。

クリニックとのやり取り
 健診をクリニックに依頼する場合は、予約枠の確認を始め、実際の予約やキャンセル等が必要になった場合の変更手続きなどが発生する。この他、従業員に記入してもらった問診表などの事前送付も必要だ。また、健診実施後は送付される健診結果の受け取りと従業員への通知、請求に対する支払いなどを実施しよう。

産業医とのやり取り
 健康診断の結果、異常が見つかったなど、何らかの対処が必要な場合もあるだろう。その際は産業医と連携し、就業判定や意見書を依頼しよう。また、医師の判断により必要がある場合は、作業の転換や労働時間の短縮等の措置が求められる。

労働基準監督署とのやり取り
 健康診断結果は、所轄の労働基準監督署への提出が求められる。常時50名以上を雇用する企業では、提出が滞ったり、提出漏れがあると行政指導の対象となるため健康診断の結果は速やかに届け出よう。

まとめ

 労働安全衛生法により、企業は従業員に対して定期的に健康診断を行うことが定められている。健康診断の実施に際しては、従業員の業務内容により必須となる項目が異なるため注意が必要だ。また、実施方法にもさまざまな方法があるため、事業規模やコスト、労務管理の手間なども考えながら決定しよう。従業員の健康と、企業の健康経営を支える上でも重要となる健康診断業務。多岐にわたる労務管理業務を滞りなく行えるよう、工夫してみてはいかがだろうか。

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