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2025年度の税制改正で「年収の壁」はどう変わる?配偶者や学生のこれからの働き方 freee 解説勉強会【後編】

2025.06.27
奥山晶子

2025年の税制改正により、所得税の基礎控除と給与所得控除の見直しが行われ、新たに特定親族特別控除が創設された。この改正により、とくに配偶者の扶養に入っていた人と大学生世代が、扶養内で働ける金額が増えることになる。

このたびの税制改正について、クラウド会計ソフト「freee会計」などを手がけるフリー株式会社(以下freee) が報道関係者向け解説勉強会を開催。今回の後編では「結局、扶養家族はあとどのくらい稼げるのか」を中心に解説する。働き方に悩む配偶者や学生はもちろん、従業員に今回の改正内容を説明する必要がある人事労務担当者も、参考にしてほしい。

2025年税制改正で年収の壁はこう変わる

勉強会で「年収の壁」について解説を行ったのは、freee スモールビジネス総合研究所の⼩泉美果所長。まずは改正前の状況として、以下の6つの壁があったことを解説した。

・100万円の壁
年収が100万円を超えると、住民税が発生する。

・103万円の壁
年収が103万円を超えると、所得税が発生する。

・106万円の壁
年収が106万円を超えると、条件によっては社会保険への加入が必要になる。

・130万円の壁
年収が130万円を超えると、社会保険への加入が必要になる。

・150万円の壁
年収が150万円を超えると、被扶養者の配偶者特別控除が満額で適用されなくなる。

・201万円の壁
年収が201万円を超えると、配偶者特別控除の対象でなくなる。

改正前までの「年収の壁」一覧

このたびの税制改正により、年収の壁が以下のように変わる。

2025年税制改正後の「年収の壁」一覧

住民税の支払いが発生する年収ラインが100万円から110万円になるのは、2026年からだ。これは住民税の計算が前年の所得をベースに計算することによる。注目すべきは「103万円の壁」が一気に「160万円の壁」へと大幅に高くなることであり、勉強会でもこの部分について厚く解説が行われた。

103万円の壁は、なぜ160万円の壁になった?

所得税は、収入額からさまざまな控除を引いた残額に課税される。控除とはいわば必要経費を差し引くことであり、支払った社会保険料は全額控除になったり、扶養する家族がいれば扶養控除が引かれたりする。

なかでも給与所得者が収入から差し引けるのが「給与所得控除」だ。これまで、年収162万5000円以下の場合は給与所得控除が55万円だった。また、収入のある人は誰でも差し引ける「基礎控除」が、年間所得2500万円以下であれば48万円であったことから、収入が「55万円+48万円=103万円」を超えると、超えた金額が所得税の対象になっていた。

このたびの税制改正で、基礎控除も給与所得控除も引き上げられた。控除額は収入によって違ってくるが、分かりやすくするため、「これまで扶養で働いていた人」の控除額がどうなるかにポイントを絞って説明すると、以下のとおりになる。

・基礎控除の引き上げ
収入が200万円相当以下であれば、基礎控除額は95万円になる。

・給与所得控除の引き上げ
年収190万円以下であれば、給与控除額は65万円になる。

よって2025年の年末調整からは、「95万円+65万円=160万円」が、所得税の対象にならない収入額のボーダーラインとなる。

学生アルバイトも、もっと稼げるようになる

このたびの税制改正では「特定親族特別控除」が創設され、親の扶養を受けている19歳以上23歳未満の子の給与収入の上限が、103万円から150万円になった。収入150万円以降は、控除額が段階的に減っていき、188万円を超えると控除の対象外になる。

気をつけたいのは「106万円の壁」「130万円の壁」のほう

「じゃあ、160万円稼ぐぞ」と意気込む方も多いかもしれない。しかし、160万円の壁の前には、「106万円の壁」「130万円の壁」が立ちはだかる。社会保険への加入が必要になる収入ラインだ。

106万円の壁は、条件によって社会保険の加入が必要になる収入ラインだ。「従業員が常時51人以上の企業等」「所定内賃金が月額8.8万円以上」「週の所定労働時間が20時間以上」「雇用の見込みが2カ月を超える」「学生ではない」の5つの条件を満たすと、社会保険の加入対象となる。

一方で、年収が130万円を超えると、全てのパートやアルバイトが社会保険の加入対象となる。学生であっても加入が必要だ。

「従業員が常時51人以上の企業等」「所定内賃金が月額8.8万円以上」の条件は、今後撤廃予定

もし年収130万円の壁を1円超え、社会保険の加入対象となった場合、負担する年間の社会保険料は年間20万円弱にもなる。社会保険料を支払う分、手取り額が減ってしまうのは家計にとって大きな痛手だ。

ただ、社会保険に加入することのメリットもある。「年末調整で還付を受けられることもありますし、社会保険料控除によって課税所得が減るので、住民税が減ります。大きなところとしては、厚生年金に新たに加入することになるので、自分が将来もらえる年金額が増えます」と小泉氏。

収入が131万円を超えたときの社会保険料の試算例

結局いくらまで働ける?手取金額の試算

103万円の壁が160万円の壁になっても、結局130万円の壁があるのなら、あまり働かない方が得なのだろうか。また、社会保険や所得税の対象となった場合、どれだけ働けば手取り額が減少するダメージを最小限に抑えられるのだろうか。

この疑問に対し、小泉氏は「夫・妻・大学生の子」がそれぞれ働いた場合の世帯年収をシミュレーションした。以下のシミュレーションは家族構成が「夫・妻・大学生の子」であり、夫の年収が533万円であることを前提としている。家族構成や年収が違えば控除額等も違ってくるため、全ての人に当てはまるわけではないことに注意したい。


・社会保険に入るが自身の所得税がかからない上限は年収188万円

社会保険に加入すれば控除額が増えるので、収入の少ない人は一定額まで所得税が発生しないことになる。社会保険に入るが所得税がかからない収入ラインは、年収188万円だという。ただし住民税は所得税とは控除額の計算が違うため、かかってくるから要注意だ。

画像のような収入額でシミュレーションした場合、妻が188万円まで働き、大学生の子も扶養控除の範囲ギリギリまで働くとすると、世帯の手取り額は75.4万円アップする。この場合、妻の配偶者特別控除が満額受けられないことから夫の手取り額が減ってしまうことにも注意が必要だ。また、子の扶養控除は受けられても、子自身の社会保険料は発生する。

2024年まで妻子ともに非課税ラインを意識し、2026年以降も税負担を抑えて働く試算

・社会保険の扶養内で働く場合

妻も子も社会保険に加入することを敬遠し、社会保険の扶養の範囲内で働くとすると、世帯の手取り額は56.9万円アップする。この場合、配偶者特別控除も満額受けられるので夫の手取り額は減らない。妻には住民税と雇用保険料がかかる。

2024年まで妻子が非課税ラインを意識し、2026年以降は社保扶養内で働く試算

・妻の働き方を比較した場合

小泉氏は、「所得税がかからないよう意識した働き方」「社会保険に加入しないよう意識した働き方」「130万円を1円超えてしまった場合」を比較し、社会保険料の負担により手取りの逆転現象が起こること、そして所得税がかからなくても住民税が発生してくることを注意点としてまとめた。

社会保険加入のメリットをどう捉えるかがポイント

社会保険料は家計にとって確かに打撃だが、保険料を支払えば、将来年金としてもらえる分も増える。小泉氏は、女性が平均寿命の87歳まで生存した場合を例に、将来もらえる年金額をシミュレーションした。

年収100万円で定年まで働く場合、将来もらえる年金額は年額83.1万円。これに対して年収188万円で定年まで働けば、年金額は98.9万円にアップする。年間で15.8万円、生涯で見れば347.6万円の増加となる。

また、社会保険に加入するメリットは年金にとどまらない。出産時の「出産手当金」、病気やケガで休業したときの「傷病手当金」、失業したときの「失業手当」など、利用できるセーフティーネットが増える。「今の手取り額を増やすか、将来もらえる額を増やすか。どちらを取りたいかで働き方を決めるのが重要です」と小泉氏は解説した。

企業と従業員が協力して今年の年末調整を乗り切る

「103万円の壁が160万円になる」「学生も150万円まで働けるようになる」と聞いて、年末に向けたくさん働こうと考える人は多いと思われる。ここで大事になってくるのが、会社への家族の年収報告だ。

今扶養している家族の年収が急に高くなれば、扶養から抜けるおそれがある。企業は毎年秋から12月にかけ、従業員に家族の年収見込み額を報告してもらうが、報告してもらった金額が実態とかけ離れていたら、年末調整のやり直しが必要になる。もし対応が遅れれば、従業員自身が確定申告を行わなければならない。

働き方の最適解は人それぞれ異なる。自身や家族のライフプランを踏まえながら、どの収入ラインを目指すのが最も合理的かを検討することが大切だ。扶養や社会保険の条件をしっかり理解し、安心して働けるよう準備を進めていこう。

参考:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について(国税庁)

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