パート従業員の社会保険の適用範囲拡大で準備すべきポイントと支援制度を紹介
パート従業員における社会保険の適用範囲拡大が2022年10月と2024年10月の2回に分けて段階的に行われる。適用要件や拡大に向けて準備すべきポイントや、保険料負担増で経営状態の悪化が懸念される企業が利用したい支援制度・助成金について紹介する。
2022年と2024年に実施されるパート従業員の社会保険適用拡大の概要
2020年5月に成立した「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」により、パート従業員における社会保険適用が拡大される。法改正による変更点について解説する。
特定適用事業所の拡大要件
現行制度では常時501人以上の被保険者がいる事業所とされていたが、2022年10月から常時101人以上、2024年10月からは常時51人以上と対象事業所が拡大していく。
短期間勤務のパート従業員の適用条件が拡大
今回の法改正による変更点は1つ。現行制度では継続して1年以上勤務する見込みがある人だけが対象とされており、短期雇用労働者には当てはまらなかった。今回の改正により、継続して2カ月以上と大幅な期間短縮となり、短期雇用労働者にも適用されることになる。
今回の社会保険の適用拡大について、パート従業員の声を集めた記事を紹介する。ぜひ一読してほしい。
非正規で働く主婦6割が「社会保険の適用拡大」に前向き
パート従業員の社会保険加入要件の拡大に際して準備すべきポイント
適用範囲拡大までに企業側が準備しておくべきポイントを紹介する。
今回の適用拡大によって被保険者となるパート従業員の把握
まずは被保険者となるパート従業員を把握する必要がある。パート従業員の中で上記の表の要件に該当する人をピックアップしてほしい。
被保険者となる従業員に対しての説明
ピックアップした被保険者となる従業員に対し、社会保険加入となる旨を説明する必要があるが、まずは社内メールや事業所内に貼り紙をするなどして周知を進めよう。その後、説明会や個人面談でより具体的な内容を説明してほしい。
「被保険者資格取得届」の提出に備えて準備を進める
2022年と2024年それぞれの拡大要件に該当する企業は、当年10月に該当従業員の「被保険者資格取得届」を提出する準備も進めたい。また、被扶養者がいる場合は、「被扶養者(異動)届」の作成も必要となるので、従業員へ確認して作成を進めてほしい。
保険料の増加で負担感が増す企業が利用したい支援制度・サービス
社会保険料は従業員と企業で折半するため、今回の適用拡大は企業側にとっては負担が増し、経営状況が厳しくなる危険性もある。また、従業員への説明会開催も担当できる人員の不足により負担となることもあるだろう。ここでは、負担増を重く感じる企業にとって助けとなる支援制度やサービスを紹介する。
適用拡大への対応や手続きに関する無料の相談制度
年金事務所では、新たな被保険者となる従業員に対する説明会を行うためのアドバイスなどを無償で行う制度を実施している。社会保険労務士などの専門家が相談に乗ってくれるため、心強いこと間違いなしだ。希望する場合は管轄の年金事務所まで問い合わせてほしい。
中小企業向け補助金・総合支援サイト「ミラサポplus」
中小企業・小規模事業者向けの補助金や給付金などの申請や事業サポートが検索できる「ミラサポplus」は対象企業にとって心強い存在だ。申請方法や経営相談についてサポートしてくれる支援者や支援機関の検索もできる上、支援制度の活用例も閲覧できるため、自社に有用な制度を簡単に探すことができる。
https://mirasapo-plus.go.jp/
中小企業基盤整備機構が中小企業の成長をサポート
中小企業基盤整備機構(中小機構)は国の中小企業政策の中核として幅広い支援メニューを提供している実施機関。企業の起業・創業期から成長期、成熟期までステージに合わせた支援を行っている。具体的には持続的成長や事業再構築に向けたサポートやデジタル化の推進、新事業創出など、企業が抱える悩みや課題解決を網羅的にサポートしている。
パート従業員のキャリアアップを促進する企業を支援する「キャリアアップ助成金」
パート従業員や有期雇用労働者、派遣労働者といった非正規雇用の労働者における社内でのキャリアアップを促進するための取り組みを実施する企業に対して、国は「キャリアアップ助成金」を支給している。その中でもパート従業員に関連する内容を抜粋して解説する。
パート従業員に特化したコース
パート従業員に特化したコースとして「短時間労働者労働時間延長コース」「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」がある。
・短時間労働者労働時間延長コース
週所定労働時間を3時間以上延長し、社会保険を適用した場合に助成される。また、社会保険の加入により手取りが減少するため、手取りが減少しないよう労働時間を延長し、基本給を昇給させて社会保険に適用した場合にも助成金が支給される。
・選択的適用拡大導入時処遇改善コース
今回の適用拡大に伴ってパート従業員に働き方を見直してもらう取り組みを実施し、社会保険の被保険者へとした場合に助成する。支給は1事業所あたりに支給されるものと、被保険者となった従業員の基本給の増額割合に応じて加算される助成金がある。なお、本コースは2022年9月30日までの措置となるため、助成を受けたい場合は注意したい。
パート従業員の正社員化支援も
パート従業員だけでなく、有期雇用労働者なども合わせて正規雇用労働者に転換、または直接雇用した場合に助成を受けられる「正社員化コース」もキャリアアップ助成のひとつ。1人当たりの支給とともに、母子家庭・父子家庭の人など、雇用する人の条件によって加算措置もある。
支給申請には労働局・ハローワークへの申請手続きが必要
支給申請には支給申請書および添付書類を、管轄の都道府県労働局に提出する必要がある。ハローワークでの提出が認められている場合もあるため、まずは各都道府県労働局に問い合わせてほしい。
まとめ
今回の社会保険の適用拡大の法改正は、かなりの数の事業所が対象となるだろう。パート従業員が多い企業は早めに準備を進めて2022年10月の施行に間に合うようにしたい。また、国のさまざまな助成制度を活用し、少しでも負担を減らせるよう心がけてほしい。