電帳法、今の対応で大丈夫? 始まって気付く“落とし穴”をチェック【OBC・日本システムテクノロジー共催セミナーより】
電子帳簿保存法による「電子取引の電子保存」義務化の宥恕(ゆうじょ)措置が終了してしばらく経つが、「急いで法令対応したけれど、現在のやり方で間違いがないか不安が残っている」という担当者も多いはずだ。
そんななか、会計システム「勘定奉行」などを展開する株式会社オービックビジネスコンサルタント(以下、OBC)と販売管理システム「楽商」などを手掛ける株式会社 日本システムテクノロジーがオンラインセミナー「スタートしてから気づく電子帳簿保存法の落とし穴」を共催。現状の自社の対応が十分なのかどうか、セミナーで紹介された内容を踏まえてチェックしてほしい。
目次
●こんな落とし穴にはまっていない? 認識を要チェック
●電帳法を運用する上でのつまずきポイント
●ペーパーレス化は、長期的には企業の成長に寄与する
●電帳法に最適なシステムはどう選ぶ?
●まとめ
こんな落とし穴にはまっていない? 認識を要チェック
義務化が始まっている電子帳簿保存法(以下、電帳法)対応。しかし実際には、どのようにしたら完全対応ができるか漠然としたまま運用を開始している会社も多いのではないだろうか。創業手帳株式会社が2024年1月に公表したアンケート(※1)では、電帳法およびその改正内容を「理解できていない」という回答が4割を超えている。
※1:創業手帳株式会社によるアンケート。詳細は公式サイト
※参考:2024年1月義務化の電帳法改正「理解できていない」が4割超え|改正内容の把握状況と対応実施状況調査
6月12日に行われたOBCと日本システムテクノロジー共催のオンラインセミナーでは、電帳法対応コンサルティングなどを行うリック・アンド・カンパニー合同会社の齊藤佳明氏が登壇。100社の電帳法対応を成功に導いた経験から、電帳法対応の落とし穴と進め方を語った。
【CHECK!】保存義務があるのは電子取引の書類
セミナーではまず、電子保存が義務化された書類の範囲について確認。「紙の書類も電子保存しなければならない」と受け取っている人もいるかもしれないが、現段階では、電子取引によって受信・発信された請求書や領収書、契約書といった書類を電子保存する義務があることが示された。
【CHECK!】通常記載されていない項目まで無理に検索対象とする必要はない
電子取引については所定の方法により取引情報(請求書や領収書などに通常記載される日付、取引先、金額など)に係るデータを保存する義務があるが、通常記載されていない項目まで無理に検索対象とする必要はない。例えばいつも使っている納品書に金額の記載がない場合は、空欄あるいは0円でも問題はない。ただ、空欄にする場合は、空欄を対象として検索できるといった工夫をしておく必要がある。
【CHECK!】宥恕措置が終わり、猶予措置が始まった
電帳法の宥恕措置は令和5年(2023年)で廃止し、「相当な理由」がある場合の猶予措置が始まった(※2)。電子取引の保存要件(※3)を充足できない「(所轄税務署長が認める)相当な理由」があり、電子データのダウンロード及び書面出力ができる場合、保存要件を満たしていなくても保存が認められる。「猶予措置」と聞いただけで、「紙の保存でも良しとされる期間が長くなった」と認識していた人は注意が必要だ。
※2:電帳法では、以下4つの保存方法のうちいずれかの措置をとるのが保存要件。①タイムスタンプデータが付与されたデータを授受、②受領後2カ月と概ね7営業日以内にタイムスタンプを付与、③データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステムまたは訂正削除ができないシステムを利用、④訂正削除の防止に関する事務処理規程を策定、運用、備え付け
※3:国税庁 改正に関するパンフレット等「電子帳簿保存法の内容が改正されました~令和5年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しの概要~(令和5年4月)」
【CHECK!】単なるペーパーレス化と電帳法対応は違う
必ずしも電帳法へ対応しなくても、ペーパーレス運用は可能。しかし自社ルールでのペーパーレス運用では、電帳法に対応したときとは紙原本の扱いが異なる。自社ルールのペーパーレス運用では法定保存期間の紙原本の保管が必要なのだ。電帳法に対応すれば、紙原本は廃棄が可能だ。
【CHECK!】紙書類のスキャナ保存には8つの要件がある
紙の書類をスキャナで保存しての電子化においては、「真実性」と「可視性」の確保のために、下記の要件を満たさなければならない。十分に対応できているだろうか。
1. 入力期間の制限:重要書類に関しては、受領後最長2カ月+概ね7営業日以内に電子化が必要。
2. タイプスタンプ付与:画像にタイムスタンプを付与し、改ざんされていないことを証明する。なお、訂正削除履歴システムを利用すると、タイムスタンプは不要になる。
3. 画像の鮮明度:解像度は200dpi(もしくは3.88メガピクセル)以上であること。階調はRGB階調が256階調(24ビットカラー)であること。
4. バージョン管理:タイムスタンプ付与後に、当該書類に係るスキャンデータの訂正または削除を行った場合、これらの事実及び内容を確認できるようにすること。
5. 帳簿との相互関連性:重要書類に関しては、スキャナ保存する書類と関係する国税関係帳簿との間において相互に関連性を確認できること。
6. 見読可能性の確保:要件を満たしたカラーディスプレイ、プリンターを備え付け、画面・書面に整然とした形式でかつ明瞭な状態での出力を確保。
7. 関係書類の備え付け:システム概要などを記載した書類や操作説明書、スキャニングに係る事務手続きを明らかにした書類、文書管理規定などを備え付けること。
8. 検索機能の確保:日付・金額などによる範囲指定、主要な記載項目などによる複合的な検索ができるようにすること。(データをダウンロードできれば不要)
【CHECK!】対応フローでのポイントは「なにを」「誰が」「いつまでに」
電子化は、「電子化の方法」を決め、「紙原本を集約」していつまでに廃棄するかを決め、そして最終的に要件を満たした電子化になっているか「チェック」をするのが大事だ。自分の会社では、このフローが満たされているだろうか? 運用にあたっては従業員が具体的に動き、かつ取りこぼしがないように「なにを」「だれが」「いつまでに」を明確にしたい。
引用元:リック・アンド・カンパニーによるセミナー資料より、「電帳法スキャナ対応のフローを作成する上で重要なポイント」
電帳法を運用する上でのつまずきポイント
電帳法の対応は導入して終わりではなく、しっかり運用できているか定期的なチェックとアップデートが必要になる。セミナーでは、運用を続ける上で発見される課題と、課題への対応策が複数提示された。
「添付された領収書の画像がモノクロの場合はどうする?」という課題には、「カラー画像による読み取りが求められていることから、要件から逸脱した書類は紙原本の保管が必要」という対応策を提示。他にもzipファイルは原則としてそのまま添付・保存しないよう周知徹底する必要があることなど、実務で上がる細かな疑問に答えた。
また、齊藤氏は電帳法対応の進め方として「スモールスタート」を推奨。例えば、まずは本社管理部などを中心に新しい業務プロセスや運用方法を検討・導入し、そこで得た知見やノウハウを持って新業務を確立してから全社展開することが提案された。
引用元:リック・アンド・カンパニーによるセミナー資料より、「【スキャナ保存】よくある運用上の問題と対応策」一例
ペーパーレス化は、長期的には企業の成長に寄与する
今回のセミナーでは法令対応のみならず、企業の競争力向上のためにもクラウドツールを導入し電子化を推進することの重要性を強調。電子帳簿のスキャナ保存による電子一元化やペーパーレス業務を設計することで、バックオフィスの生産性を向上する「経理DX」の必要性が語られた。経理DXを推進していくためには、目的の共有や正しいフローの確立が必要となる。電帳法対応だけでなく、インボイス対応、全体的なペーパーレス化を含め、紙中心の業務設計を見直した新しい業務プロセスを検討することが大事とされた。
電帳法に最適なシステムはどう選ぶ?
セミナーでは次にOBCの東京第二支店 森田健太郎氏が登壇し、電帳法に最適なシステムを選ぶための3つのポイントをあげた。
ポイント1:全ての紙をペーパーレス化できるか
電帳法改正で実質義務化となるのは電子取引のみだが、経理全体を見渡すとさまざまな紙が存在している。時代の流れとともにデジタル化は進行するので、真のペーパーレス化を目指すためにはあらゆる紙を電子化するための基盤が必要だ。
ポイント2:業務に活用でき、使い続けられるか
ほしい情報をほしいときにすぐ取り出せなければ、業務上の手間は増える。今後も電子データは増えていくことも想定し、将来に備えたい。
ポイント3:さまざまな運用に対応できるか
最終的に会計帳簿から請求書や領収書を遡れるのが望ましいが、他のシステムから仕訳連携している場合などは、会計仕訳と証憑が別に回ってくるケースが多々ある。その場合にも手間のない運用を回せるかがポイントだ。
森田氏は紙から脱却し、デジタルデータを実務に活用できるシステムとして「奉行クラウド」を紹介。証憑受領の基幹システムとして「楽商」を取り入れることで3つのポイント全てをクリアした、経理電子化の全体像が提示された。
まとめ
セミナーでは、電帳法対応を機に経理業務の本格的な電子化へ取り組むことの重要性が繰り返し語られた。
確かに、電帳法は対応して終わりではない。業務は続いていき、保存しなければならない書類は増えていく。また今後、他の法改正や新たな法律ができることにより、よりデジタル化を推進しなければならない場面が増えていく可能性もある。
そのときデジタル化に最適なシステムを採用していなければ、新しく導入しなければならないし、新システムへの全社対応に膨大な時間が割かれることは目に見えている。今のシステムが全デジタル化に適しているのか、早いタイミングで検討する必要があるだろう。
OBCでは今後、オンラインセミナー「インボイス塾・電帳塾2024」(※4)が複数日程で予定されている。関連制度への対応法をより深く知りたい経理担当者は、参加を検討してみてはいかがだろうか。
※4:「インボイス塾・電帳塾2024」の開催日程はこちら