郵便料金値上げから1カ月 請求書のデジタル化によるコスト削減効果とは【ラクス勉強会レポート】
2024年9月30日、バックオフィス向けクラウドサービス「楽楽シリーズ」を提供する株式会社ラクスは、10月より施行される「郵便料金値上げ」による企業のデジタル化状況と、経済産業省のDXレポートで提唱された「2025年の崖問題」に関するメディア向け説明会を開催した。今後、企業が紙で請求書発行を続けている場合、郵便料金値上げによって大きなコスト増となる可能性がある。
本レポートでは、同社の小谷翔子氏(楽楽クラウド事業本部 マーケティング統括部)と滝澤幸憲氏(営業戦略統括部)が、請求書のデジタル化の現状や、郵便料金の値上げが企業のコストへ与える影響について紹介する。
30年ぶりの郵便料金改定は最大34.9%の値上げ
2023年12月18日、総務省は定形郵便物の値上げをする案を情報通信行政・郵政行政審議会に諮問し、2024年6月13日に同年10月より改定することを決定した(※1)。値上げ料金は、25グラム以下の定形郵便物の場合84円から110円、50グラム以下の定形郵便物の場合94円から110円、はがきの場合63円から85円となる。定形郵便物の値上げは消費増税を除いて30年ぶりのことだ。
値上げの背景として、メールやSNSの普及によって郵便物が過去20年ほどで45%減少した一方、原燃料や人件費の上昇などが追い打ちをかけたことがあげられる。また、日本郵便の郵便事業のみの収支は2023年3月期に211億円の赤字であり、2007年の郵政民営化後、初めての赤字となった。
※1 出典元:郵便法施行規則の一部を改正する省令及び民間事業者による信書の送達に関する法律施行規則の一部を改正する省令の公布等(総務省)
郵便料金値上げも、約半数の企業が請求書発行をデジタル化せず
郵便料金の値上げにより、請求書発行を紙で行っている企業はコスト増となる。株式会社ラクスが提供する電子請求書発行システム「楽楽明細」は、請求書や納品書、支払明細書などの帳票を電子発行できるクラウド型の電子請求書発行システムだ。値上げ直前である7・8月には、「楽楽明細」の問い合わせ件数が前年11月時点から約2倍にまで増加したという。
株式会社ラクスが2024年9月に実施した調査によると、請求書を「紙で印刷、封入し、郵送している」と答えた企業は69.4%にのぼる。「紙による請求書発行が未だに最も多い業務フローとなっており、請求書発行において約7割の企業が郵便料金値上げに伴うコスト増加に直面すると言えます」(小谷氏)。
また、請求書を「紙で印刷、封入し、郵送している」と答えた企業のうち、郵便料金値上げへの対策を実施した企業はわずか17.7%であり、発行方法を「変更する予定はない」と答えた企業は50.6%の結果となった。
「郵便料金値上げへの対策では、57.5%の企業が電子請求書発行システムの導入または導入の検討をしており、今後も請求書の電子化は加速していくと捉えています。しかし、約半数の企業が請求書の発行方法を変更する予定がなく、郵便料金値上げに伴うコスト増加の危機感が醸成されていないとも捉えています」(小谷氏)。
紙とデジタルのコストの差分、約3500万円に及ぶ可能性も
郵便料金値上げ以降も紙の請求書を発行していた場合、毎月500件の請求書を発行すると人件費・郵便費・その他の経費を合わせて150.6万円のコストが発生すると試算。同様に毎月500件の請求書を「楽楽明細」を活用して発行すると、人件費とシステム利用料で55.2万円のコストとなり、紙とデジタルの差分は毎月約95万円に及ぶ。紙の請求書を発行し続けると、1年後には約1150万円、2年後には約2400万円、3年後には約3500万円もの差分が生じる試算だ。
「弊社のアンケートでは、郵便料金値上げへの対策を今後考えていくと答えた企業もいましたが、対策を考えている間にもコストの差分は生じていきます。まずは早期に電子化を進めるべきだという認識を持つ必要があります」(小谷氏)。
コスト削減目的で電子化を検討する企業は増えているというが、実態はどうなっているのだろうか。滝澤氏は商談する上で、コスト削減よりも根本的な課題で困っている企業が多いという。
「経理担当者1人で毎月請求書・納品書を発行していたり、工数が多く手間と時間がかかっていたりと根本的な課題を抱えている企業様がほとんどです。コスト削減がきっかけとはいえ、根本的な課題を解決するためにお問い合わせいただく企業が多い印象です」(滝澤氏)
コスト増加は痛手だが、今回の郵便料金値上げは既存業務の見直しや電子化を推進する上で良いきっかけになった企業が多いとも言えそうだ。
電子化への移行、システム選びのポイントは?
請求書発行を電子化する上で、同社が提供するような「電子請求書発行システム」は欠かせない。システムを検討する上で何を見ておけばいいのだろうか?
滝澤氏によれば、受け取り側の体制によって柔軟に対応できるかどうかや、現状のフォーマットを崩さないままシステムに移行できるかがポイントだという。
「自社で請求書の電子化を進めたとしても、受け取り手が紙での請求書を希望されていれば、紙で対応せざるを得ません。そのため、郵便やFAXなど送付方法のカスタマイズができるかどうかは大きなポイントです。また、現状の請求書フォーマットをできるだけ崩さないようなテンプレートがあるかどうかは、商談時に経理担当者様からよく聞かれるポイントです」(滝澤氏)
請求書の受け取りは、郵送・FAX・電子など多様化している。また電子で発行しても、後から郵送対応してほしいなど要望は様々だ。社内の工数を増やさないこと、取引先の要望に添えられるようなシステムやサポートがあるかどうかが、システム導入を選ぶ観点では肝になりそうだ。