2024年度 「賃上げ実施予定率」85.6%で過去最高も賃上げ率の最多は3%で「前年を上回る賃上げ」に届かず
東京商工リサーチ(以下:TSR)は2024年度の賃上げについて、2024年2月1日~8日にインターネットでアンケート調査を実施。有効回答4527社を集計、分析した。本調査では、賃上げの実態を把握するため「定期昇給」「ベースアップ」「賞与(一時金)」「新卒者の初任給の増額」「再雇用者の賃金の増額」を賃上げと定義。また、企業規模について資本金1億円以上を「大企業」1億円未満(個人企業等を含む)を「中小企業」と定義した。
調査結果概要
本調査結果を見ると、2024年度に賃上げ予定の企業は85.6%で、定期的な調査を開始した2016年度以降の最高を更新している。しかし、規模別の実施率では大企業(93.1%)と中小企業(84.9%)で8.2ポイントの差がついており、TSRは賃上げを捻出する体力や収益力の差で二極化が拡大していると推察した。
また、日本労働組合総連合会が2024年春闘の方針として掲げる「5%以上」の賃上げについて、達成見込みは賃上げ実施企業のうち25.9%にとどまり、前年度から10ポイント以上の大幅な低下となっている。賃上げ率の中央値は3%で、政府が要請する「前年を上回る賃上げ」も、中央値ではすべての規模・産業で未達成に。TSRは、物価上昇が続くなかで、賃上げの金額と広がりが景気回復の足腰の強さを左右することになり得ると懸念を示した。
本調査では、67.0%の企業が「賃上げに必要なこと」として「製品・サービス単価の値上げ」に言及。同時に、2024年度に賃上げを実施しない企業のうち53.8%が「価格転嫁できていない」ことを理由に挙げている。収益の源である価格転嫁の実現可否が、賃上げにも影響しているようだ。
賃上げの内容は「ベースアップ」との回答が62.5%にのぼり、前年度(2023年8月調査)から6.1ポイント上昇。厚生労働省が2月6日に発表した「毎月勤労統計調査(※)」では、実質賃金指数は前年を2.5%下回った。これについてTSRは、実質賃金の目減りが続き、ベースアップで賃金底上げを図る企業が増えていると考察した。
※参照:厚生労働省毎月勤労統計調査 令和5年分結果速報
TSRは「一方、身の丈を超えた無理な賃上げは、企業の業績悪化に拍車をかけかねない」とし、2023年は「人件費高騰」による倒産が過去最多の59件発生した点に注目。また、賃上げの予定がない企業のうち16.0%が「2023年度の賃上げが負担となっている」を理由に挙げたことにも触れ「今後、過去最高の賃上げが実施されたとしても、企業業績に与える影響を注視していくことが必要だ」と注意を促した。
2024年春闘に向けたワーキンググループ開催
オフィスのミカタ編集部では先日、2024春闘交渉の本格化に先立ち「中小企業の活力向上に関するワーキンググループ」(以下本会)が開催されたとのニュースを配信した。
本会で森屋宏内閣官房副長官は「価格交渉・転嫁対策」「業界ごとの自主行動計画の改定・徹底」「約束手形・型取引」の3点について、対策を進めるよう指示。いずれも、目前に迫った春闘において、特に中小企業で昨年を上回る賃上げを実現するための対策である。
TSRの調査報告でも触れられている「価格転嫁」については、2023年9月の「価格交渉月間」を踏まえ、校章・添加の状況が芳しくない約20社のトップに対し、事業所間大臣名で指導や助言を行うことが方針として打ち出された。
また、労務費の適切な転嫁に向けた交渉のあり方や、原材料費やエネルギーコストの適切なコスト増加分の全額転嫁を目指す取組について、下請中小企業振興法に基づく「振興基準」を改正する動きもある。
会の締めには森屋官房副長官から、春闘で昨年を上回る賃上げを、特に中小企業において実現することが重要とした上で、関係省庁で施策を着実に進めていくよう強調する発言があった。
関連記事:春闘交渉が本格化!中小企業の価格転嫁・取引適正化を目指し内閣側が関係省庁に指示 - オフィスのミカタ
まとめ
TSRが2023年12月1日〜11日に実施したアンケートでは、賃上げ幅が「2023年を超えそうだ」と回答した企業は約1割にとどまっており、厳しい現状がうかがえる。こうした現状に新たな賃上げ方法を提案するアクションを起こす企業も。より効果的・本質的な賃上げを実現するために何をすべきか、今一度検討していく必要があるのではないだろうか。
参照:東京商工リサーチ来春の賃上げ 「2023年超え」は 1割にとどまる 原資の確保には 「価格転嫁」「人材開発」を重視
関連記事:新たな賃上げの一手に freeeとエデンレッドジャパンが第3の賃上げアクションの立ち上げへ - オフィスのミカタ