低い自己肯定感とやらされ感が課題に? リスキリングに関するインサイト調査
株式会社ベネッセコーポレーション(本社:岡山県岡山市、代表取締役社長:小林仁)は、日本においてリスキリングが抱える本質的な課題解決を目的に「リスキリングに関する生活者理解のためのインサイト調査」を実施した。
調査実施の背景
同社が2023年に社会人約4万人に実施した「社会人の学びに関する意識調査(※)」では「リスキリング」の認知率は全体で56%と、2022年の23%から2倍以上上がり、社会人の2人に1人は「リスキリング」という言葉を知っていることが明らかになっている。一方で、社会人の約40%が、直近1年間の学習経験も今後の学習意欲もない「なんで学ぶの」層であり、学習をやめた「学ぶの疲れた」層と、現在学んでいないものの、今後は学ぶ意欲がある「学ぶつもり」層と合わせると、社会人の約3分の2(65.5%)が現在学んでいない結果となったことを報告した。
また、同調査では「リスキリング」を必要だと感じている人は社会人全体の56%だったが、その中で実際に取り組んでいるのは約10%という結果に。同社は「リスキリング」について、一定認知され、必要性も感じられているものの、実際に取り組んでいる人が限られている現状の本質的な課題を探るため、本調査を実施した。
※「社会人の学びに関する意識調査2023」(株式会社ベネッセコーポレーション)
対象:全国18~64歳の男女(学生を除く)、39998名
期間:2023年2月7日~2月9日
方法:インターネット調査
リスキリングに対する2つの課題
本調査は最初に「学び」に関するポジティブな体験価値から相対的に見た隠れた不満や未充足を抽出する定性調査を実施し、次に不満や未充足に対する共感度と、それらを満たすために提供するべき新しい価値提案への魅力度および現状感じている未充足度を定量調査で検証している。
同社によると、この定性調査では、リスキリングのイメージとしてネガティブな意見が半数以上見られたという。特に、強制・押し付けられるものといったようなコメントのほか、これまでの人生についての不安や自信のなさ、自己否定や受け身な人生についてのコメントも半数以上あり、個人が大人の学びに対して持つ課題として、同社は以下の2つを抽出した。
■自己肯定感が低く、自分の人生への主体性がないこと
本調査結果では、自己肯定感が低い傾向にある人が多く、自分の人生に対して主体性が持てず、流れに身を任せる生き方をしてきた方が多く見受けられたという。スキルを獲得して新たな道を切り開く以前に、自分の現在地が見えていない状況にある人が一定数いることが明らかになった。
■リスキリング=押し付けられるだけの終わらないタスク
同社によると、リスキリングを「クラス全員参加のリレーのような強迫観念」「永遠に走らされているシャトルラン」と表現する回答がみられ、多くの人が、過去の肯定もなければ、未来への期待や可能性も感じられないものと感じていることが明らかになった。これは「現在学んでいる」と回答した人でも、同様のイメージだという。
同社は、上記の個人の学びに関するインサイトをもとに、企業や組織としても、個々人に合ったリスキリング推進のコミュニケーションの検討が必要との考察を示した。
性別・年代によるリスキリングへの認識差
同社は続いて、バリュープロポジション(リスキリング に期待すること)と、各バリューがどの程度、今の「リスキリング」や「リスキリング」に関するサービス全般で充たされていないと感じるかを性別・年代別に分析。
男性回答者は周囲や自分の意識転換に関心があり、女性は自分の人生そのものへの関心が強い傾向があることが報告されている。また、特に女性回答者の方が、現状のリスキリングに対する不満が大きいという結果となったという。
<男性と女性で「リスキリングに期待すること」への魅力度の差が5ポイント以上だったもの>
②「自分らしい人生(男性62.5%、女性67.3%)」
⑤「職場環境を変革する力(男性54%、女性49.5%)」
⑥「人生を挽回することを優しく支援(男性57%、女性66.8%)」
⑦「人生をやり直す再チャレンジ(男性58.8%、女性66.5%)」
⑧「失敗からの前向きな学び(男性61.5%、女性54.3%)
年代ごとの「リスキリングに期待すること」については、20代~30代は40代~50代と比べて平均9.3ポイント高く、リスキリングへの前向きな意識が浮かびあがった。同社によると、20代~30代は自分を高めることへの関心が強い一方、40代~50代はリスキリングへの不満が大きく、期待感も少ないという傾向が見られたという。傾向の違いの理由としては、ライフステージや働き方に対する意識の違いが考えられる。同社は、企業は40代~50代のリスキリングを重要視しているとして、このギャップが大きな課題であるとの考えを示した。
調査概要
「リスキリングに関する生活者理解のためのインサイト調査」
本調査におけるインサイトとは、本人も気づいていない無自覚な欲求や心の奥深くに隠された心理を指す。インサイトは価値・不満・未充足欲求の3種類あり、生活者に直接聞いても答えられないことが多いため、本調査は最初に「学び」に関するポジティブな体験価値から相対的に見た隠れた不満や未充足を抽出する定性調査を実施し、次に不満や未充足に対する共感度と、それらを満たすために提供するべき新しい価値提案への魅力度および現状感じている未充足度を定量調査で検証している。
対象:18~59歳の男女400名(定性)/20~59歳の男女800名(定量)
期間:2023年9月22日~28日(定性)/2023年11月2日~6日(定量)
方法:インターネット調査(定性・定量)
出典元:2024リスキリングに関するインサイト調査レポート(株式会社ベネッセコーポレーション)
まとめ
本調査結果からは、リスキリングに取り組む以前の問題がみえてきた。社員の主体性や、リスキリングに対するポジティブなイメージを構築していくことが重要と考えられる。また、性別や年代によってもリスキリングへの意識の違いが明らかになっており、それぞれに合ったフォロー体制も必要ではないだろうか。
厚生労働省は「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」の中で「 企業が、自社の存在意義に立ち返り、事業目的(Mission)やビジョン(Vision)、重視する価値観(Value)を明らかにし、それを踏まえ、今後進もうとする経営戦略・ビジョンとそれに対応した人材開発の方向性を提示することは、企業と労働者の学び・学び直しに関する基本認識の共有を図る観点から重要である」と解説。それが個々の自律的・主体的に学び・学び直しに取り組もうと思うことの促進につながるとしている。併せて参考にしていただきたい。
参照:職場における学び・学び直し促進ガイドライン (厚生労働省)














