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Why Japaneses people !? なぜ「ワークエンゲージメント」が「仕事の愛着」?

 私は米国アイオワ州立大学でワークエンゲージメントと燃え尽き症候群(うつ病の手前の状態)の関係を、先進国での数千件におよぶ調査研究をメタ分析し、その具体的な状態を構造方程式で実証する研究を行いました。

 また、2016年から1年間フルブライト奨学留学生として東京大学医学系研究科精神保健学分野でも研究しておりました。現在は米国ミズーリ州立大学経営学部で教鞭をとると同時に、日本では株式会社メタワークライフの取締役として、自分の研究成果をシステム化して日本企業への提供を行っています。

 

 日本でもワークエンゲージメントというキーワードが定着しはじめているように思います。しかし、米国の研究者の目から見ると、日本でのワークエンゲージメントという概念がなんだかおかしい気がしています。

 先ず、「エンゲージメント」とは英語で「婚約」や「契約」、または目標をロックオンする時にも使われる意味です。私の研究分野である経営心理学では「ワークエンゲージメント」を、その人の精神的なエネルギーが仕事に向けて集中している状態を表すものとしています。

日本で目にする「ワークエンゲージメント」はどうやら、「仕事の愛着」や「愛社精神」の意味を含んで解釈されているように思います。そのため、企業は従業員にずっと「ワークエンゲージメント」が高い状態が続くようにしようとしていると思いますが、それは間違った施策です。

 「ワークエンゲージメント」はどれだけ仕事へ没頭している時間が長いか、という時間コントロールでは無く、短い時間でも仕事に没頭する精神的なエネルギーを集中させるコントロールを行うことが重要です。しかし、日本の企業では、これはほとんど理解されていないと思います。働き方改革の時短もそうですが、どうも日本では表面的な時間管理ばかり注力するところが不思議に思います。

 こうした日本独特の「ワークエンゲージメント」の理解から、とにかく仕事のリソースを(企業理念、人事制度、インセンティブ、職場環境、福利厚生など)向上させ、常に従業員のエンゲージメントが高い状態をキープさせようとします。ところが、精神的なエネルギーも有限ですから、エンゲージメントが高い状態が続けばそのエネルギーを消費してしまい、疲れてしまって肝心な時にエネルギーを出せなくなってしまいます。

 実は、私が先進国のワークエンゲージメントに関する幾つもの調査研究をメタ分析したところ、日本ではワークエンゲージメントが比較的高い結果が出たのですが、反対に一般的には、有名な調査会社の単一的な調査や、出典元が良く解らないデータで日本のワークエンゲージメントが低いという結果が認知されているようです。
低いことが悪いという先入観で、実際に低いと不安を煽られると間違った施策を取りやすくなってしまいます。何か意図して誰かが不安を煽っているのかもしれませんね。(笑)ワークエンゲージメントは常に高い必要はありません。

 エネルギーを注力することを常に意識させ続けることを強要すると、結果的にはエンゲージメント疲れを起こしてしまい逆効果となります。従業員満足度が高くても思ったように生産性が上がらない、離職者の数が少なくならないなどの原因は、ここにあると思います。
 生産性の向上や定着率に悩んでいる多くの企業では、従業員の「ワークエンゲージメント」が常に高い状態を保つことに熱心のようですが、

仕事のリソースの向上
     ↓
従業員満足度のアップ
     ↓
エンゲージメントの向上
     ↓
生産性の向上&定着率のアップ

このプロセスは間違いでは無いですが、本当に実現するにはかなり大変な取組みになると思います。仕事のリソースの向上にはお金もパワーもかかりますし、従業員満足度調査でも社員は調査目的を理解して本音を出さないで忖度するなど、正確な状況を掴み難いものです。

 何かを与えてエンゲージメントを向上させるのではなく、反対にエンゲージメントをわざと切る「ディスエンゲージメント」状態を作る方が、余計なお金やパワーを使わなくても効果的であると思います。
 企業側は従業員に対し、ある程度の自由や権限を与えて、会社や管理者が必要以上に干渉しない状態にして、エンゲージメントの呪縛から解放すると良いでしょう。具体的な施策としてはテレワーキングの導入などが良いかもしれません。インセンティブや福利厚生にお金をかけるより、はるかに低コストで生産性を向上させることが出来ると思いますし、米国では数々の成功例があります。

 さて、「ワークエンゲージメント」等を調査するサーベイですが、米国も日本も調査したい事項を確認する質問を複数用意して、それに対し5~7段階でどう感じているかという回答を得て、それらの平均値を点数としています。その点数をサーベイ実施者が所有する既存データと比較する標準偏差計算のような分析がいまだに主流です。このような表層的な調査では、従業員の本当のエンゲージメントや仕事へのメンタリティなどは掴み難いものです。
 最近はこういった分析にAI分析を導入していると標榜するところも多いのですが、仮にAI分析で何らかのパターン化を見出したとしても、それが個人と組織にどんな影響を与え、どうしたら良いのかという分析のエビデンスが不明なものばかりに驚きます。

 私は先進国での職場の従業員のメンタリティに関する数千件の調査研究をメタアナリシス(メタ分析とも言います)して、ワークエンゲージメント、生産性、燃え尽きや、イノベーションの源泉となる利他的行為の発生度合いなどを詳細に分析するメタアナリシス構造方程式を研究開発し、それによりサーベイの質問で直接的に回答を得ない、表面に出てこない心理的要素も数値化出来るようにしています。

 突然、「あなたは呪われている!」と誰かに指摘されたらとても不安を感じると思いますが、それと同じように表層的な分析で「あなたの会社のワークエンゲージメントは低い!」と不安を煽られたら、外部から言われるままに仕事のリソースの向上にお金とパワーをかけてしまうでしょう。その前に、セカンドオピニオン的に私の分析をお勧めします。(笑)

 また私のワークエンゲージメント分析の手法は、職場だけではなく現在社会問題となっているゲームやネットの依存のメンタル分析と予防策の確立へ応用を始めています。
 エネルギーが集中しているという状況は仕事だけでなく趣味などでも同じです。現在、立命館大学ゲーム研究センターと共同で研究を続けており、その成果をゲーム・エンタテインメントの健全な発展やe-スポーツの発展普及に役立てようと進めています。