オフィスのミカタとは
従業員の働きがい向上に務める皆様のための完全無料で使える
総務・人事・経理・管理部/バックオフィス業界専門メディア「オフィスのミカタ」

これからの「採用」はどう変わるのか?⑥~中途入社者の生活に寄り添う「ライフフィット転職」の重要性

 急激な少子高齢化、労働人口の減少、デジタル社会への転換、AIの進化など、社会構造は大きく変化しています。その中で、我々が働く環境も変化を遂げつつあり、個人の「働く意識」が問われ始めています。そんな中、「ライフフィット」というキーワードが重視されています。中途入社者の定着・活躍のため、企業はどのように一人ひとりに寄り添い、サポートすればいいのか、解説したいと思います。

増加の一途をたどる「制約社員」に向き合う必要性

 これまでに、求人市場の主権は構造的に企業から個人にシフトしており、十人十色ならぬ、百人百色のテーラーメイド人事が重要であることをお伝えしてきました。今回は働き方改革の背景にある「ライフフィット」の重要性について、ご説明したいと思います。

 リクルートキャリアでは、毎年キャリア採用領域におけるトレンド予測を行っていますが、以前に2017年の予測として発表したのが「ライフフィット転職」というキーワード。2020年を迎え、企業も個人もいよいよ「ライフフィット転職」に真剣に向き合う必要性が高まっています。

 日本は構造的な人口減少に伴う未曽有の労働人口減少に陥っていますが、その中で「制約社員」の増加が顕著になっています。制約社員とは、何かしらの時間的制約、場所的な制約を抱えている働き手のことです。

 共働き世代の増加に伴い、子育てしながら働く人が増えています。厚生労働省の「国民生活基礎調査の概況」によると、児童のいる母親の就業割合は2001年の52.5%から、2015年には68.0%に増加。小さな子どもを育てながら働くことは、もはや当たり前になっています。

 親などを介護しながら働く人も増えています。同じく厚生労働省の調査によると、介護・看護により前職を離職した15歳以上人口は、2007年10月~2008年9月の8.86%から、4年後には10.11%に増加しています。

中途採用は「カンパニーフィット」から「ライフフィット」へ

 政府が推進する「一億総活躍社会」実現のためには、労働参加率の向上が急務。この流れを受け、さまざまな制約を持つ人に真摯に向き合い、「ライフフィット転職」のための体制を整える企業が増えつつあります。

 ライフフィット転職とは、求職者が企業に対して自ら勤務条件を交渉し、入社後もイキイキと活躍する、そんな転職や採用のしかたを指しています。

 従来の転職では、「カンパニーフィット」が主流でした。中途採用における主役はあくまで企業で、業務内容や給与、勤務時間などの条件を企業主導で決めていました。そして個人側も、「子どもを保育園に送りたいので本当は10時出社にしたいけれど、面接の場で個別事情を話したら不採用にされてしまうかも」という不安から、事前交渉できずにいました。

 しかしここにきて、個人が勤務時間や勤務地など「自分にはこんな制約があるけれど、ここさえフィッティングいただければ活躍できる」と企業に提案し、企業側も個人に対してそういった懸念がないか確認する、という動きが顕著になっています。例えば、「当社は繁忙期にはどうしても残業が発生します。小さなお子さんをお持ちですが、残業に対して懸念はないですか?」など、個人側が躊躇していることを企業側から聞きにいく。そんなケースが増えています。

 居酒屋やレストランなどを経営するある外食企業では、子育てによる時間的な制約を持つ男性が、この業態では避けられない深夜勤務をしない働き方で活躍していました。「小さな子どもがいるので、終電までに帰って午前中は主夫をしたい」という思いを相談したのです。企業側はそんな彼の事情を理解し、終電までに店を閉めても売り上げが確保できるよう運営方法を変えて対応しました。

 あるシステム開発会社では、両親を介護している30代の男性がプログラマーとして活躍しています。転職活動時、日中の介護を実現するために、朝夕に在宅勤務をして納品するという方法を企業に提案、それを受けて企業側は「フリーワーク制度」という新しい制度を作って対応しました。その他の制約を持つ社員も自由な働き方を申請しやすくなり、育児や介護、副業など、さまざまな働き方が実現できるようになり、社員の定着率も向上しているそうです。

 制約がある人材を、企業側の条件に当てはめようとしても、結局は長続きしません。せっかくいい人が採用できたのに活躍できず、辞めてしまうことになるのは、企業にとっても個人にとっても不幸。入社前に懸念事項を確認し、一人ひとりの生活にフィットする働き方を考えることで、中途入社者が無理をすることなく長く活躍してくれるようになるのです。

「ライフフィット」のため、新たな人事施策を検討する企業が増えている

 これからの働き方は、「ライフワークバランス」を越えて「ワークアズライフ」になる、と言われています。仕事とプライベートを分けるのではなく、人生や生活の中の一つに仕事がある、という考え方です。このような考え方が強まっている今、そこに真摯に向き合える企業は、優秀な人材を採用でき定着、活躍させることもできるはず。中途採用におけるライフフィッティングは、企業の大きな命題になると考えています。

 なお、リクルートキャリアが企業の人事600人に対して行った「2019年度中途採用の計画調査」によると、「新たな人事施策を検討している」という企業が7割に上ることが分かりました。実際に検討している人事施策としては、テレワーク、兼業・副業の容認、地域限定社員の導入などが上位に挙がっています。

 これはまさに「中途採用者の生活に、これまで以上に寄り添おう」と考えている企業が増えている、ということ。これまでも残業の削減や業務効率化などに取り組み、働き方改革を進めてきましたが、これからはテレワークで時間や場所を自由に選択できる働き方を支援したり、副業推進により自社以外でキャリアを開くことを応援したり、家族の制約などにより転勤が難しいのであれば、場所を限定する働き方も整備する…ライフフィット型の企業は今後どんどん増える見通しにあります。

 すなわち、将来的には「ライフフィット採用」での競争も激しくなることが予想され、未だに旧来型のカンパニーフィット、ジョブフィット型の採用をしている企業は取り残されてしまう恐れがあります。

 ライフフィットは、いわば靴のフィッティングと同じ。サイズが合わない靴を無理に履かせても、靴擦れするだけで履き続けることはできません。こちらからサイズを聞き、履いてみて痛いところはないか確認しながら、よりその人の足にフィットする靴を選んで提案する。こんな姿勢が、これからの企業には求められているのです。