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元企業人社労士から見た企業を取り巻く今 ~マネジメント編~

2020.02.05

前回コラムを振り返って

 今回も、前回コラムの振り返りから。
 就職説明会において自らのキャリア形成に会社側がどんな手立てを講じてくれるのか。
 前回では、これを問うことを以て「20〜30年前の若者と比べて近年の若者(新卒採用者)が本当に成長しているのか」と疑問を投げかけました。しかし、よくよく考えてみると「現在の新卒採用者が成長したのか」という疑問を投げかけることは、私の現状認識不足から来るのでは、と思えてきました。それは、以下のような社会状況が見えつつあるからです。
(1) 既に新卒採用者を受け入れる企業側は、事実上終身雇用を放棄していること
(2) 従って、旧来の世代のように会社に長期(終身)在籍し、個々人のキャリア形成を会社側が責任を持って行うことなど、求職者側はもはや期待できないこと
(3) 人生100年時代を迎え、仮に60〜65歳までの雇用が保証されていたとしても、その後の自身の生きる糧(最近「セカンドキャリア」と呼ばれることもあります)は、自らが見つけ出さざるを得ないこと(これには少子高齢化によって、現在の若年層の方々が年金収入に期待が持てないことの裏返しとも言えますが……)

 上述のような現状に身を置く新卒採用者が、自身の将来に真剣に向き合った結果として、就職希望先企業におけるキャリア形成の充実度合いを気にすることは、むしろ当然のことと考えられます。
 否応なく自身のキャリア形成に真剣に向き合わざるを得ない近年の新卒採用者に対し、自身のキャリア形成を会社に丸投げしてきた世代の人間が「その成長は本物か?」と問うことは、フェアではないかもしれない、と思うに至りました。そのため、敢えて今回コラムの冒頭に紙面を割かせていただきました。

マネジメント(管理、管理職層)について考える

 さて、今回からは「マネジメント(管理、管理職層)」について、何回かに分けて考えてみたいと思います。

管理職の発生

 企業は、その成長とともに機能を分化させ、組織を形成していきます。その結果、それぞれの組織をマネジメントする管理職層が必要となってきます。組織のトップたる経営者のリーダーシップが重要なのは言うまでもありません。しかし、企業が組織の集合体であることを踏まえてみれば、その個々の組織がいかに機能するかということも同様に重要と言えるでしょう。従って、その組織を率いるマネージャーの力量が、組織の、ひいては企業全体のパフォーマンスを決めると言っても過言ではありません。
 これは今更申し上げるまでもなく、組織が発生して以降ずっと語られてきている訳ですが、未だにこの話題(=組織におけるマネジメントの重要性)が何かにつけ取り上げられることを考えれば「永遠のテーマ」と言えるのかもしれません。そんな大きなテーマに対する「解」を、私がこのコラムで提供できるとは考えていません。しかし、私自身が会社員生活を通して教わり、学び、そして自分なりに納得している考えを紹介することで、少しでも皆さんそれぞれの「解」を考えるのにお役立ていただければと考えています。

マネージャーの使命(ミッション)

 一般的に、マネージャーに求められる使命(ミッション)は、
ⅰ)業績の達成(目標の設定も含めて)
ⅱ)メンバー(部下)の育成
ⅲ)自己の成長

と言われていますし、私もそう信じています。
 ⅰ)の「業績達成」は、マネージャーとして何かしらの組織運営を委ねられる訳ですから、組織ミッションとしてとても理解し易いものでしょう。ただ、その業績を達成する方法はいろいろあります。たとえば、マネージャー自らというケース(これがプレイングマネージャー)もあるでしょう。しかし、所属するメンバーに力を発揮させることによって、即ち所属メンバーの育成(部下育成)を通じて組織ミッションを達成することが通常の姿でしょう。稀にメンバーの育成を蔑ろにし、メンバーを「使い捨て」てしまうマネージャーがいることも耳にしますが、そうしたマネージャーの下では組織が成長しないことは明らかです。そんな組織は、短期間での業績は維持できたとしても、永続的に成長する組織を育むことは難しいでしょう。
 メンバーの育成を通して業績目標を達成する過程について考えてみます。メンバーを成長させるためには、メンバーの尊敬を得ることなく成長を促すことが難しいこともご理解いただけるのではないでしょうか。自己が成長することなしに、メンバーの敬意を集めるのは難しいことです。メンバーに成長を促すには、マネージャー自身も成長していく必要があると思います。という訳で、マネージャーに求められる使命(ミッション)として、ⅱ)「メンバー(部下)の育成」とⅲ)「自己の成長」も重要になってくると言えます。

マネジメントの課題

 近年は上述の通り「プレイングマネージャー」を求められることが多いように思います。人財不足もあって止むを得ないという事情は認めますが、問題と思うのは「プレイヤー」と「マネージャー」の仕事の質の違いを明確に示すことなく、その任にあたらせていることです。(もちろん優秀なマネージャーであるならば、自ずと気付き自身で適応できるものかもしれませんが、私の場合は少なくとも十分には理解できていなかったような気がしています。)
 マネージャーへの登用は、多くの企業では優秀なプレイヤーの中から選抜されているようです。これは指導・管理する立場に立つ人が優秀であるべきとの考えからも当然のことでしょうし、上述のマネージャーの使命ⅱ)を考えれば、部下育成に際して自身の経験値を基に指導できることから、理解もできます。しかし、「プレイヤー」と「マネージャー」の間には大きな「溝」があるというか、その働きそのものが異なる、または次元が違う仕事であることを理解する必要があると思うのです。如何に優秀なプレイヤーであっても、この溝を超えることのできない人間も少なからず存在すること、いわゆる「名選手必ずしも名監督ならず」を理解しておかなければならないということです。
 事実、私の勤務していた企業においても、そうした「不適合マネージャー」の存在を目にしました。彼(もちろん当時の私からすれば、大先輩です!)は、新規の大手顧客を開拓し、そこから大口の受注を獲得するという、敏腕営業マンでした。当然そうした優秀な業績に対して、会社としては「賞与」という形で報いていたのだとは思いますが、当時は(現在も?)表面的にも目に見える形で報いるには、昇進・昇格という方法しかなかったのでしょう。彼はマネージャー、シニアマネージャーと昇進していきました。しかし、彼にはマネジメント上の大きな問題がありました。現在であれば「パワハラ」として責任を問われるような行為(精神的な攻撃:大勢の前での厳しい叱責や理不尽な追及、身体的攻撃:いうまでもなく殴る・蹴るの暴力)を平然と行っていたのです。実際、私と同期で入社した人間も、彼のマネジメントの下でその手法に耐え切れず、1年余りで退社してしまいました。
 この例は極端かもしれませんが、同様に研究で成果を上げた方がマネジメント職に就いた途端、成果は上がらず組織もまとまらないというケースも耳にします。最近では、このような個別専門分野では大変優秀ではあっても、マネジメントには不向きな方々に対し「人事の複線化」が図られているケースも増えているようです。たとえば「管理職としてのマネージャー」ではなく「専門職としてのエキスパート」として処遇するケースです。ですが、実質的な待遇差(世間体的な評価の差も?)は残っているように思えますし、中堅・中小企業では十分には運用できていないのではないでしょうか?

マネジメント(力)は天賦の才能ではない

 こうした悲劇(マネジメントに適さない方の部下の方々はもちろん、ご自身にとっても)を引き起こさないためには、個々人のマネジメント適性を見極めることはもちろん、マネジメントの成果を上げるための正しい教育・研修を施すことも大切です。
 企業の人財育成担当の方々の話を伺うと、ほぼ全ての企業が管理職昇進の前後で「新任管理職研修」を設けられているようです。いろいろな企業が提供されている「新任管理職研修」の内容を見てみると、マネジメントに関する基本的な内容は、当然ですがカバーされているように見受けられます。何事につけ基本動作の重要性は言うまでもありませんが、これは耳で聞くだけでなく反復練習をして初めて身に付くものです。マネジメントも同様で、理論や手法を教わったからと言って、それをすぐに使えるようになる訳ではありません。日々の実務・実践の中で何度もやってみて(失敗を含めて)、段々と活用できるようになるものだと思うのです。
 すなわち、管理職層の育成における問題は、新任研修受講に前後して即前線配置となり、以降マネジメントに関して振り返る教育・研修の機会が多くの企業において提供されていないことです。
 また、マネジメントに携わる方々には、プレイヤー時代にOJTと称して施されてきたような、トレーニング期間が設けられていないことも問題でしょう。経験あるシニアマネージャーの方々からの適切なOJT(もちろん、目標管理や1on1等も含めて)が施されれば、より優秀なマネージャーの育成が可能になると思うのですが……。

管理職層の育成

 人手不足による人財難は将来、企業の市場競争力を左右することになるでしょう。人財のマネジメント力が企業の競争力を規定する時代にあっては、企業はゆっくり人が「育つ」のを待っている訳にはいきません。人の成長は、何より本人の自覚に拠るところが大きいのは言うまでもありません。とは言え、気付きを与え「育てる」ことに注力しない企業の競争力が、相対的に劣っていくのは止むを得ない流れになるものと思います。次回はその管理職層の育成について考えてみたいと思います。

【補足】
 マネジメントについて語る時、忘れることができないのは『マネジメント 基本と原則』(P.F.ドラッカー)でしょう。私も何度となく読み返し、その時には分かったつもりになるのですが、また折に触れて読み返す、その繰り返しであったように思います。(正直に申し上げますと、最初に手にした時は全くもってチンプンカンプンで、ほとんど歯が立たなかったように記憶しています。)既に読まれた皆さんもいらっしゃるかと思いますが、私にとっては会社員(特に後半の管理職在任時)生活を振り返った時、いつも迷ったら立ち戻る「教科書」のような存在でした。と言っても、その教えの通り振る舞えていた訳では、決してありませんが。
 その教科書の内容と多少は重なる部分があるとは思いますが、今回のコラムの内容は、自分なりに読み解いた結果とご理解いただければ幸いです。