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元企業人社労士から見た企業を取り巻く今 ~人財育成編~

2020.01.20
新川 謙治郎

人材(財)の育成について

 このコラムでは「人材」を敢えて「人財」と表記させていただきます。「人」は企業にとって、事業の存続・発展に欠かせない存在だと考えるからです。

前回コラムの補足

 前回のコラムで、目標管理は人財の育成ツールでもある旨をお話しさせていただきましたが、これは「目標管理を業績評価に使うべきではない」という意図ではありません。目標管理は、事業運営の手段として様々な使い方があって然るべきだと思いますが、業績管理のみに使うと弊害を生じてしまう可能性がある、と申し上げたかったに過ぎませんので、念のため。

隣の会社はどうしてるの?

 さて、今回は目標管理を離れて人財育成について、私が感じていること、最近考えさせられていることをお話しさせていただきます。
 個々の企業において実際に行われている人財育成の制度・仕組みは、外部からはとても見えづらいものです。それは「当社の育成の仕組みはこうです!」とはなかなか開示されないという事情もありますが「競争優位」を実現する最も大きな要素だからという側面も見逃せないのではないでしょうか?
 市場や環境の変化への対応・適応が、企業の存続・発展のための必要条件であることは、今更言うまでもありません。それゆえ企業がどう「競争優位」を実現し、変化する環境に適応していくか? は、適応を可能にする「人」を如何に育成するか? に通ずるところがあります。(競争優位の源泉を「人」だけに求める訳ではありませんが……)
 私は仕事柄色々な企業(※1)を訪ねて人財の育成方法を伺っています。ある企業では「望ましい人財像」を各階層別に定義し、それを実現すべく階層毎の育成プログラムを作成・実施されていましたが、別の企業では、新入社員研修を終えると直ぐに現業の上司・先輩に委ねている状況(OJT中心)でした。どちらが良いとか優れているという問題ではなく、要は企業の存続・発展を担える人財をどういう手法で育成していこうとされているか? ということなのだろうと思います。
 
 ※1:訪問させていただいている企業の多くは、従業員数が約100名から500名のいわゆる中堅・中小企業です。業種としては製造業、流通・サービス業等で、特に偏りはありません。

人は育つのか? 育てるのか?

 私が企業の人財育成に携わられている方々に最初に伺うのは「御社は『人は育つ』とお考えですか? それとも『人は育てるもの』とお考えですか?」という質問です。これに対する回答として多いのは「『育てる』ものだと考えているのだが、十分できているかどうか……」というものでしょうか。育成の必要性は十分認識されつつも、具体的な育成体系やプログラムをどう構築するか? 実施後の効果測定をどう行うか? 等に関しては、なかなか手が回らず大変苦労されているご様子です。
 
 極端な例かもしれませんが、過日伺った企業でお話しいただいた回答が、とても印象に残っています。その企業では、当初このようにお考えだったそうです。
 「当社は5年ほど前まで、人は『勝手に育つ』ものと考えていて、教育や研修は(コンプライアンス等を別にすれば)殆ど実施していませんでした。まさに『獅子は我が子を千尋の谷に突き落とし、這い上がってきた子だけを育てる』方式でずっとやってきました。現在に至るまで、殆どの管理職はそうした『叩き上げ』の、一癖も二癖もある猛者揃いでした。しかし、そうした猛者達が徐々にリタイアの時期を迎え、そこでハタと個々の猛者が支えてきていた我が社の様々な仕組みは、その猛者がいればこそであって、いなくなったらどうなってしまうのだろう?? という、危機感というよりも一種の恐怖感に襲われたのです。お客様に納めた機材の補修ひとつとっても、キチンと文書化されていなかったり、されていても個々人のやり方に任されていたため様式がバラバラで、引き継いだ後任者が頭を悩ますこともあったり……。徐々にその懸念が現実のものになってきているところでした」
 この企業では上述の状況に対応するため、社内で少しずつ改善活動を始めたそうです。
 「お客様に迷惑をお掛けする訳には参りませんから、先ずは納入機材の補修に関する文書様式の統一化に着手し、併せて若年層の育成にも力を入れ始めました。その育成は、3年も経つと教育・研修も一巡し、徐々に一定の成果(限界も)が見えてくるようになりましたので、成果報告も兼ねて経営層と意見交換の場を持ちました」
 このとき、経営層からは次のような評価とご指摘をいただいたとのことです。
 「経営層から見ても、文書様式の統一化と相まって、若年層の成長著しいことは明らかだったようで、教育・研修は大いに評価していただきました。しかし、その反面、彼らの成長の限界も見え始めているとの指摘もありました。そして、その要因を探るディスカッションの中で『やはり当社の大きな課題は、管理職層の部下育成に対する姿勢だ!』という結論に至ったのです(即ち『ライオン方式は現代の若者には理解されない!』という認識の下、コミュニケーションを伴う指導方法への転換が必要だということです)。そこで直近2年は『管理職層そのものの育成(マネジメント力の強化)』と、彼らの『部下育成に対する意識変革』を目指したプログラムを充実させようと取り組んでいるところです」
 結果として、この企業では人財育成方針の転換を図り始めたということです。
 
 企業がこうした結論(=管理職層の育成こそ重要である!)に至るのは至極当然でしょう。リーダーシップを上手く発揮できている経営幹部に「どのようなことが自身の成長に役立ったと思うか?」と聞き取り調査したところ、
 7割は「経験(≒OJT)」、
 2割は「薫陶(=上司・先輩からのアドバイス)」、
 1割が「研修(=Off-JT)」
という結果(リーダーシップ研究の調査機関であるロミンガー社による)だったそうです。ここからも明らかなように、人が育つために必要な要素の9割は、職場の上司や先輩が何らかの形で関係している訳ですから。いくら教育・研修を充実させたところで、そこには自ずと限界があって、明確に「育てる」意思を持った(管理職を始めとする)上司・先輩の存在が求められる訳です。
 上述の企業の育成担当者(経営者も!)は、行き着くべきところに行き着いたということなのでしょう。
 
 「人は(放っておいても)育つ人はそれなりに育つ。しかし、育てるという明確な意図をもって接することによって、その成長を促進できる」というのが、冒頭の問いに対する私なりの解です。

 余談ですが「獅子は我が子を……」について一言。私が好んで視聴する「National Geographic」や「Animal Planet」によると、実は、成長した雄ライオンが子どものライオンを苛める(というよりも食い殺してしまうことが多い)のは、別に敢えて厳しい試練を与え、それに耐え得るものを選別しようとしている訳ではないそうです。新たに群れの支配者となった雄ライオンが、直前の群れの支配者の血を継ぐ子ライオンを排除しようとする行為で、厳しい自然の「掟」だそうです。受け売りですが。
 

 

時代は明らかに変化している。人財育成の考え方・手法も変化しなければ……

 30年程前は、新卒一括採用した新入社員が勝手に育つのを、根気よく(?)待っていれば良い、そんなおおらかな(?)時代でした。新入社員側もそれを当然と受け止め、自身のキャリアプランが描けないという理由で入社を断ったり、転職を選択したりといった社員は極めて少数だったように思います。
 現在は企業と新入社員の関係も大きく変化しています。少子高齢化に伴う「売り手市場」の恩恵を受けてか、自身の成長・キャリアを実現でき、それを少しでもサポートしてくれる企業を選ぶというのが、新入社員側の考え方のひとつとなっている気がします。
 
 実は私自身、若年層の方々が自身のキャリア形成に真剣に向き合うように「成長」してきているという捉え方に、一抹の不安を覚えます。最近の若年層の方々は、必要に迫られて将来の自身のキャリアを描かざるを得ない状況になっているのは事実でしょう。周囲もそれを求める訳ですから……。
 しかし、明確に自身のキャリアを描き、それを踏まえて自身を委ねるべき企業を選別する、そんなことができるほど、本当に近年の若者たちは皆、成長しているのでしょうか? 私たちの世代にも、そんなトンがった(?)人財も一握りはいたでしょうが、私を含めて同世代の多くは、いわゆる大手企業の「ジェネラリスト育成のベルトコンベア」に乗り、主体性には乏しいが、会社が用意する相応のキャリアを積むことを当然と考えてきました。
 某上場企業の担当者の方からは「そうですねぇ、確かに説明会での質問の中に『御社の育成制度について教えてください』というのが多いのは事実ですね。ただ、本気でその点に関心を持っているのか? は分かりませんね。はっきり言って。学校の就職課からは『説明会では何かしら質問しておくように!』と言われているようで、そのための質問としては、まぁ適当なんじゃないか? と思って発しているような気もするのですよね、実際のところ……」という話も伺いました。即ち、実力以上に背伸びしている方々も相当数いるのではないだろうか? と。
 私なぞ「分別」が求められる年齢になった今でも、まだまだ自身は半人前としか思えませんし、独立開業した今でも、これからのキャリアをどうするのか? についてさえ、相当あやふやなビジョンしか描けていないのですが……。(焦!)

 しかし、上述のような側面はあるものの、採用にあたって、企業側には人財育成の考え方はもちろん、提供できるキャリアや具体的なその支援(育成)方法を提示することが求められるようになってきていることも確かです。従来常識と考えていた、就職(その多くは実は「就社」)によって企業は終身雇用を保証すると同時に、個々人のキャリア形成にも責任を持つという「暗黙の了解」は、既に過去のものになったということでしょう。(それを信じて就社した人の多くは「そんなことを突然持ち出されても……」と困惑してしまいますが)
 ドライに言えば、企業は個々の従業員に対して成長の機会を提供し、キャリア形成の支援を行う代わりに、従業員としての個人は、相応の、または待遇を上回る成果(利益)を企業にもたらす、Give & Takeの関係に移行しつつあるということです。(まぁ、かつての「終身雇用」と「キャリア責任」も見ようによっては、Give & Takeと言えなくもないですが……)
 そこには「成熟した個人」と「企業」の関係が求められるのは当然です。従業員と企業が契約によって結び付き、責任に基づく「成果」と「対価」の関係を形作る。それぞれに契約の延長・破棄の選択権があって(実際には企業側の契約破棄(=解雇)権は大きく制限されていますが)、自由契約になったり、フリーエージェントになったり……そんなプロフェッショナルな労働市場が形成されていくのかもしれませんね。あくまで将来の話ですし、労働者保護の視点も欠く訳にいかないことは当然ですが。
 そんな時代が来れば、今現在企業の教育・研修担当者が抱えている悩みも、その多くは解決されるかもしれません。集合型の研修において多く見られる課題は、
ⅰ)受講者の主体性の欠如(例:業務命令で「参加せよ」と言われたので出席した……)
ⅱ)「学習」と「教育(≒学習の支援)」を取り違えた受講者の対応
ⅲ)「現状に対する課題」を受講者に気付かせる困難さ

といったものです。プロフェッショナルな個々の従業員は、自身のキャリア形成や成長にとても貪欲ですから、主体的に研修に取り組まないはずがありませんし、常に問題意識を持って日々の業務に取り組んでいるはずですから。
 ただ……
 その道のプロフェッショナルの方々が要求する研修の内容・レベルは、上述の如く従来とは比べようもなく高いものになると思われますので、研修担当者はそれに応えるために(今以上に!)頭を悩ますことになるのでしょうね、きっと。