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これからの「採用」は どう変わるのか?⑮ ~ テレワークが企業に課した宿題とは?変わる「働き方」の意向~

 急激な少子高齢化、労働人口の減少、サービス経済化、デジタル社会への転換、AIの進化など、社会構造は大きく変化しています。働く個人の生き方や働き方に対する意識も大きな変化を遂げつつあり、そこに向き合う企業も採用戦略の新たな在り方が問われ始めています。

 そんな中、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、働く個人の「働き方」への考え方が変化しています。今夏に実施したアンケートをもとに、詳しく解説したいと思います。

東京では7割以上がテレワークを経験、地方との差が出る結果に

 前回、前々回と、コロナ禍において企業の採用戦略が多角化していることをお伝えしました。今回は、テレワーク経験に伴い、働く個人の「働き方」に関する意識にも変化が生じていることについて、解説したいと思います。

 リクルートキャリアでは8月7~10日、全国の20~60代の就業者948名に「新型コロナウイルス禍での仕事に関するアンケート」を実施しました。
それによると、緊急事態宣言下でテレワークを経験した人は48.0%でしたが、生産年齢人口が多い東京都は71.1%、神奈川県では63.8%、大阪府は64.8%と、全体と比較して15ポイント以上の差が付きました。
この3都府県を除いた44道府県の実績は38.5%にとどまっており、最も経験者の割合が高い東京とは、実に32.6ポイントもの差がついています。

 年代別に見ると、60代のテレワーク経験の割合が最も高い66.7%となっており(続いて多いのは20代53.6%、30代49.4%)、感染症対策の一環としてテレワークが実施されたものと予想されます。

 なお、「緊急事態宣言解除後に、テレワークの割合について変化はありましたか?」との質問に対しての回答は、以下のような結果になりました。元々自由にテレワークで来ていた人も含めると、35.9%の人が何らかの形でテレワークを継続していることを示しています。

 

「自由にテレワークできるようになった」人の満足度は高い

 次に、テレワークを経験した人に「緊急事態宣言解除後の自身の状況について、宣言前と比べてどのように感じていますか?」と質問したところ、自由にテレワークできるようになった人と、そうでない人の間で温度差が感じられる結果となりました。

 先の質問で、「自己の判断で自由にテレワークできるようになった」という人においては、66.1%が「非常に良かった」「良かった」と回答しています。しかし一方で、「会社の基準で出勤割合が決まった」、「通常出勤に戻った」人は、30%近くが 「良くなかった」「まったく良くなかった」と回答しています。

「会社の基準で出勤割合が決まった」、「通常出勤に戻った」というケースは、感染症対策として緊急にテレワークを導入した企業が多いせいと考えられます。そのため、回答者のフリーコメントでは、テレワークに対するネガティブなコメントも散見されました。

 これらの結果からは、「テレワークに対するポジ・ネガの感情をわける鍵は、働き方を自分で決められる裁量権の有無にある」と捉えることができます。

<フリーコメント>

●時間を有効に使えるようになり、業務効率が上がった。(千葉/40 歳)

●感染の不安を抱えながら電車通勤をする必要がなくなり、仕事に専念できるため。(東京/44 歳)

●緊急事態宣言前もテレワーク可能ではあったが、家庭の事情などがないと取りにくかったが、緊急事態宣言後は誰でもテレワークを取りやすくなった(東京/34 歳)

●会社が都内にあるので通勤のストレスから解放される。(神奈川/49 歳)

●テレワークの機材はすべて自己負担だった。(群馬/61 歳)

●会話が減少したことで意志の疎通が図りにくくなった。(大阪/34 歳)

「地域で働きつつ都内で働ける選択肢があれば、 働き方を変える」という人は7割

 転職を考えている人は、テレワーク経験の有無に限らず「コロナを機に自身の将来を見つめ直した」という人が多いようです。

 この調査時点で転職検討中、もしくは転職活動中の人のうち、「コロナ禍で自身のキャリアを考えた」と答えた人は58.8%に上りました。「転職は検討していない」人では17.3%にとどまっており、両者には41.5 ポイントの差がついています。

 それに伴い、仕事を選ぶ際の重視項目にも、変化が生じています。

 転職意向があり、かつ「コロナ禍で自身のキャリアを考えた」と答えた58.8%の人に、「入社時と現在との、仕事選びの重視項目の変化」を聞いたところ、入社時に比べて今のほうが増えている(変化が大きい)項目の上位は「給料が高い」(+15.0ポイント)、「テレワークが認められている」(+14.4ポイント)、「副業が認められている」(+10.8ポイント)という結果になりました。

 コロナ禍による経営不安を受け給与額にこだわる人が増えていますが、注目すべきはテレワークと副業の増加。テレワークや副業による働く時間や場所、そして働き方の自由…コロナを機に、これらの自由度を求める人が増えている、と判断することができます。


 上記の変化を受け、「働き方を変える」という選択肢を真剣に考える人も増えています。

 「地域で働きながら、働きたい企業等(都内)で働ける選択肢があった場合、働き方を変えたいと思いますか?」という問いに対し、「働き方を変えたい」と答えた人は71.7%に上りました。さらには「転職が伴う」という場合でも、59.0%が働き方を変えたいと回答しています。

 つまり、テレワークが普及したことを受け、多くの人が「職場と家が通える距離にある必要性」に疑問を持ち始め、たとえば北海道の大自然の中や沖縄の海の近く、軽井沢などの避暑地で日常生活を送りながら、都心の会社で働く…といった選択肢を、前向きに検討し始めているのです。

 なお、テレワーク経験者が多かった東京・神奈川・大阪の3都府県在住者では「働き方を変えたい」との意向はさらに高く、テレワーク経験ありの人で72.9%、現在もテレワーク継続中の人で53.8%となっています。

人材確保を望む地方企業は、テレワーク導入が急務に

 これらの調査結果は、すべての企業に大きな宿題を課し、課題を投げかけています。

 コロナ禍は働く個人に対し、これまで会社の一律な時間と場所や制度の中であきらめていた(もしくは湧き上がった疑問を心の中に押し込めてきた)「自由度や生産性が高い働き方」への目覚めを促しました。

 この状況から考えると、テレワーク経験の地域差、つまり「地方企業のテレワーク実施度の低さ」は、企業の人材求心力の観点から見て大きな問題です。「職住近接を重視しなくてもいい」という人がこれだけ増えているにもかかわらず、テレワークに対応しきれていない現状は、大きな機会損失です。時間や空間を超えて、自由度・生産性が高い働き方をどう整備するのか…これは多くの地方企業にとって、早急に対応すべき大きな宿題です。

 もちろん、この宿題は地方企業だけでなくすべての企業に向けられています。コロナ禍の不況で「今は買い手市場にある」とあぐらをかき、自由度・生産性が高い働き方を整備しない企業は、「人材求心力」と「生産性」ともに低下のリスクにあると言わざるを得ません。

 逆に言えば、早急に環境整備に注力すれば、人材採用においても生産性においても大逆転できる好機、とも言えます。働く個人の声に耳を傾け、宿題に真摯に向き合うことが、すべての企業に求められているのです。