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『ふるさと副業』への取り組みが加速中 ~ コロナ禍による「テレワーク定着」が追い風に

2020.12.16

 会社に勤務しながら他社の課題を体験できる「社会人のインターシップ」サービスを提供する『サンカク』では、これまで培ってきたノウハウを活かし、「ふるさと副業」を推進しています。
 「ふるさと副業」のコンセプトは、「地方企業と首都圏人材の共創」。首都圏(都市部)で働きながら本業では得られない挑戦機会を求めている人と、事業創造に必要な
知見・スキル不足に悩む地方企業のマッチングを図る取り組みです。
 2020年の「ふるさと副業」イベントへの参加希望者数は2018年と比較して現在は約
9倍以上に伸びています。新型コロナウイルス禍を機とする人々の価値観・生活様式の変化も影響し、「ふるさと副業」への注目が高まっています。

 

立ち上げの背景 ~ 「故郷に貢献したい人」と「成長したい地方 企業」に注目

 「ふるさと副業」の構想の起点となったのは、私自身の経験と想いです。

 私はもともと大手メーカーに勤務していましたが、1社でしか働いたことがないのはキャリアの開発・自立機会の損失だと考えていました。そんな折、リクルートキャリアでスタートした会社を越えて成長企業に参画できるサービス、『サンカク』に興味を抱き、2014年に転職したのです。

 一方、自身の故郷に対する想いもありました。和歌山県から上京して長い年月が経ちますが、故郷を想う気持ちは薄れることなく、何らかの形で貢献したいと、 ずっと考えていました。
 それでも、サービスを地方へ広げるアクションは起こしていませんでした。地方企業にはそんなニーズはないのではないかという先入観を持っていたからです。
 ところがある日、九州の営業所のメンバーから「事業拡大をしたい企業が人材不足に悩んでいるので『サンカク』を活用してみたい」という相談が寄せられました。
 そこで、提案書を作成して参画企業を募ったところ、1~2週間の間に5社が参加を表明。「地方にもニーズがある」と気付いたのです。

 私の地元の後輩は、地元企業に就職しましたが、頻繁に東京に出張に来ています。その目的は、顧客開拓や展示商談会への出展。東京進出や全国展開したい地方企業にとって、例えば東京に「1人営業部長」のような存在がいると良いのではないか――「リモート副業」が成立しそうだと考え、本格的に取り組みを開始しました。

 こうして2018年9月、福岡の企業と首都圏在住の副業人材のマッチングを図る場として、第1回「ふるさと副業会議」を東京で開催。福岡の企業5社と、100名以上のエントリーの中から東京在住の参加者約80名が集まり、企業のプレゼンテーションやパネルディスカッションを実施しました。
 ここで成立したマッチングの中には、現在も継続している取り組みがあります。都内でマーケティングや事業開発を経験してきた方が「地元・福岡に恩返しがしたい」と参加。伝統工芸品のプロモーションに貢献されています。

「ふるさと副業」が加速する背景 ~「政府の施策」と「新型コロナウイルス禍の影響」

 現在「ふるさと副業」への注目が高まっている背景には、大きく2つの要因があります。

 1つは、政府の施策。2014年に閣議決定により『まち・ ひと・ しごと創生本部』が内閣に設置され、地方創生・地域経済産業政策を進めてきました。現在では「関係人口の創出・増加」が注力されており、大都市圏に住む人が兼業・副業などを通じて地方の企業や団体と関わりを持ち、地域の活性化へつなげることを狙うようになりました。
  もう1つの要因は、働く人たちの心情の変化。新型コロナウイルス禍を機に、自身のライフスタイルを見直す人が増え、しかも「テレワークでも十分働ける」という手応えを得ました。オンラインでの会議にも慣れ、遠隔地にある企業での副業に対するハードルが一気に下がったのです。

 内閣府が実施したアンケート調査において、テレワーク経験者に対し「今回の感染症の影響下において、地方移住への関心に変化はありましたか。」と尋ねたところ、「関心が高くなった」(6.3%)、「関心がやや高くなった」(18.3%)と、合わせて24.6%、約4人に1人が地方への関心の高まりがあると答えています(※1)。

 

2020年10月、石川県主催「社会人向けインターンシップ交流   イベント」を開催

 「関係人口の増加を目指したい。一緒に取り組めることはないか」

 石川県では、UIターン促進事業を推進してきた中で、「移住には『職』の提供が不可欠」と実感。兼業・副業も含めた形で石川県と関わりを持つ人口を増やすことも視野に入れた「社会人UIターン者向けインターンシップモデル事業」を新たな試みとして導入。
 結果、『サンカク』が実現に向けて協業することになり、2020年10月3日、石川県主催の「社会人向けインターンシップ交流イベント」をオンラインで開催しました。
 内容は、石川県の企業3社が抱える課題やテーマについて、首都圏在住の参加者が経験や知見を活かしてアイデアを出すワークショップです。地場企業と参加者との相互理解を深め、兼業・副業・UIターンなどの可能性の創出を目的としました。首都圏の方からのエントリーは140名以上。参加枠の都合上、企業側が求めている経験(Webマーケティング、ECサイト企画・運営、ブランド戦略、PR、営業企画、システム開発など)を持つ方・約60名をお招きし、当日は45名の方にご参加いただきました。
 参加者のプロフィールは、大手企業勤務、ベンチャー企業勤務、フリーランスなど多様。
 数名の方は石川県出身であり、「地元に貢献したい」という動機で参加されましたが、大半は「旅行や出張に行ったことがある」などで興味を持っている方、また、特定の地域へのこだわりはなく「自身のスキルを活かして課題解決に貢献したい」と参加した方もいらっしゃいました。

参加企業の課題解決策を考えるワークショップで、「新しい視点・発想を得られた」の声

 オンラインワークショップで提起された企業側の課題は、「実店舗での販売が中心だったが、オンラインでの販売を強化したい」「オンラインでサービスを円滑に利用できる仕組みを創りたい」「営業活動をデジタル化したい」などです。

 ワークショップ終了後、参加した方々からはこのような感想が寄せられました。
■「他の参加者の皆さんがハイレベルなスキルを持っているので刺激になった」
■「異なる業種の参加者から、思いがけない発想やアイデアを聞けて面白かった」
■「企業の方々と直接対話したことで社内の雰囲気が感じられ、この輪に入りたいと思った」
■「商品に魅力を感じたので、ぜひお手伝いしたい」

 また、「こんな積極的な取り組みをしている石川県を、これからも応援したい」という声も聞かれました。

 一方、参加企業側からは、こんな感想をいただいています。
■「参加者の皆さんが、自分の会社でもないのに、こんなに真剣に考えてアイデアを
 出してくれることに感動した」
■「自分たちに欠けていた視点に気付けた」
■「大事だと思いつつ、取り組めていなかった課題を再認識できた」
■「いい方々との出会いがあった。SNSでもつながり、今後いろいろな形で関われそうだ」
■「可能性を感じる場だった」

 現在、企業と参加者の間で、副業での関わり方について個別の話し合いが進んでいます。

 ある企業では、1名の副業者の採用を考えていたところ、結果的に5名と契約。ディスカッションの様子を見て「さまざまな役割の人がチームを組んで推進するのがいい」と判断。社長直下で新規部署を立ち上げて活動をスタートしています。オンラインWeb会議ツールなどを駆使しながら地方と遠方をつないで取り組みが加速しています。
 なお、報酬については、企業側から「ミニマムでのスタート」という打診をしたところ、参加者たちは快諾。副業を希望される方の目的はさまざまですが、このプロジェクトに取り組む彼らは、当初から報酬の多寡ではなく、「地方貢献」「新たな経験を積んで知見を得る」ことにやりがいを感じている部分が大きいようです。

「ふるさと副業」のマッチングの課題と、注意すべきポイント

 「ふるさと副業」への取り組み開始から約2年。私たちもさまざまなことを学びました。
 これまでのマッチングでは、当初は良いご縁が結べたと思ったけれど、長続きしなかったものもあります。その主な原因と対策は次の通りです。

●コミュニケーションを密にする
 距離が離れているため、コミュニケーションが十分に取れず、お互いの考えや気持ちにギャップが生じてしまったようです。この課題については、新型コロナウイルス禍以降、双方でオンラインでのコミュニケーションが習慣化されたため、自然に解決できると考えています。

●最初にロードマップを描き、共有する
 企業側が「もっと早く成果を挙げられると思っていたのに」と、道半ばであきらめるケースがあった一方、企業側は長い目で見ているのに、副業者側がなかなか成果を挙げられない自分に焦りを感じ、いたたまれなくなって辞退する……というケースもありました。
 どれくらいの期間をかけて目標を達成するのか、最初の段階で中長期のロードマップを描き、共有することが重要です。
 また、かけられるコストや人員など、進め方についても認識を一致させておく必要があります。
 それらを、私たちがマッチングの段階からガイドするようになりました。

●初期段階で、課題解決の方向性が正しいかを見極める
  企業側は当初、「Webマーケティング人材の力を借りたい」と考えていましたが、じっくり話をしてみると、「本質的な経営課題解決のためには、まず営業戦略を立てられる人材が必要」と気付いたこともありました。マッチングを図る前に、「その施策は正しいのか」「本当に必要なのはどんな人材か」を十分検討することが重要です。それを、私たちも一緒に考えています。

 このように、私たちも経験を積みながら地方企業と首都圏人材のマッチングの精度を高め、成功事例を積み上げていきたいと考えています。