介護と仕事の両立に向けた「介護施設入居」という選択肢②人事部として知っておきたい、介護施設4つの種類(特養、有料老人ホーム、グループホーム、サ高住)と特長
前回は「多忙なビジネスマンが親の介護施設を効率的に探す方法」というコラムで、介護施設の探し方について解説しました。今回は介護施設の種類について解説します。少子化も進み夫婦二人で両親四人の介護をする家庭も増えています。介護は他人事ではなく、どの企業も今後は介護をする従業員が増えていくと思います。介護と仕事の両立をサポートするためにも、介護施設の種類と特長を理解しておくとよいでしょう。
ひと口に介護施設といってもその種別は多岐に渡ります。外観を見ただけでは、プロでも施設の種別を見分けることはできません。今回は、介護施設のなかでも特に供給量が多く選択肢になりやすい、特別養護老人ホーム(以下、特養:トクヨウ)、有料老人ホーム、グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住:サコウジュウ)の4種別について解説します。
介護施設・種別はどう選ぶ?
介護施設は大きく分けて、国や地方公共団体、社会福祉法人などが運営する公的施設と、民間企業が運営する民間施設に分けられます。しかし、提供する介護サービスそのものに極端な違いはなく、介護施設を探すときに「公的・民間」はさほど気にする必要はありません。
介護施設の検討で注目したいのは施設の種別です。今回解説する4つの種別では、すべて介護サービスを受けることができ、その多くで認知症の対応も可能です。ただし、対応できる要介護度(※)に違いがあり注意が必要です。
※要介護度:介護を必要とする度合いを数値化したもの。数字が高いほど重い状態をさす。
また要介護度のほかに、サービス内容や生活の様子が微妙に異なります。この点に関してはパンフレットやインターネットでの情報だけではわかりづらいので、それぞれの特徴を把握するとともに、実際に見学するなどして確かめるとよいでしょう。
ここからは種別ごとに、その特徴を見ていきましょう。
「特養」は手厚い介護が必要で、予算が限られている人におすすめ
特養は、社会福祉法人などの非営利団体が運営する老人ホームで、今回紹介する施設では唯一の公的施設です。
補助金などの優遇があるため、他の種別と比べて利用者の費用が安いという特徴があります。さらに低所得者を対象に負担額の軽減制度が整えられており、経済的なハードルが低い種別といえます。
費用が安いことから人気が高く、全国の特養では30万人ほどの入居待機者がいると言われています。特に大都市圏でその傾向が顕著です。そのため入居条件が厳しく、基本的には入居時の要介護度が要介護3以上という条件が設けられています。
ただし、入居の審査では要介護度だけでなく、入居者の生活状況も含めて総合的に判断されます。例えば、要介護1であっても、認知症が進んでいる、遠方の家族とは離れていて独居、在宅サービスだけでは生活が困難などで、入居が認められるケースもあります。
このような特徴から特養は、手厚い介護が必要で、予算が限られる人におすすめです。すぐに入居できないこともあるため、その間は民間施設の利用も検討するとよいでしょう。
「有料老人ホーム」は理想の暮らしや予算のイメージが明確な人におすすめ
有料老人ホームは民間企業が運営する老人ホームです。不動産や教育、飲食などさまざまな業界が参入し急激に増加しました。施設によってはレクリエーションが豊富であったり、医療的ケアに力を入れていたり、病院に近しいリハビリが受けられるなどサービス内容が多種多様。ニーズにあった施設が選びやすいという特徴があります。
有料老人ホームには介護付き、住宅型、健康型の3種類がありますが、現在新規の募集が多いのは介護付きと住宅型です。それぞれの特徴をみていきましょう。
(介護付き)
介護付き有料老人ホームは、介護保険法の基準を満たし、都道府県知事や市区町村から特定施設に指定された施設です。要支援1〜要介護5の人が対象で、介護スタッフが24時間常駐し、日中は看護師が常勤しています。
最近では24時間看護師が勤務する施設も増えてきました。要介護度4〜5などで介護や医療的ケアが常時必要な場合には、介護付きだと安心です。
(住宅型)
住宅型有料老人ホームは、介護サービスを利用する際は必要なサービスだけを同一敷地内や近所にある事業者と別途契約します。ほとんどの施設で24時間対応可能な訪問介護事業所やデイサービスを併設しているので、受けられるサービスは介護付きとほとんど変わりありません。
この住宅型は、要介護認定を受けていない人でも入居可能です。ご夫婦どちらかが自立していても、住宅型であれば一緒に入居することができます。
有料老人ホームはサービス内容や費用が多種多様で、選択肢が最も多い介護施設です。「入居したらこんな生活がしたい」といった具体的なイメージがある人や予算がある程度決まっている人であれば、ニーズに合った施設を見つけやすいでしょう。
「グループホーム」は認知症があり、自宅に近い環境で過ごしたい人におすすめ
グループホームは1施設の定員が9名と小規模な介護施設です。入居できるのは認知症の診断を受けていて、要支援2以上の人。また、施設と同じ市区町村に住民票がある人が対象となります。
人員体制は手厚く、最低でも入居者3人に対して1人の介護スタッフが配置されています。そのため、特養や有料老人ホームと同様に食事や入浴、排泄の介助を受けることができます。ただし、看護師の配置義務はないため、医療的ケアが必要な場合には看護師がいる施設を探す必要があります。
グループホームの最大の特徴は、自宅のようなアットホームな雰囲気を重視していることです。あえてレクリエーションなどを積極的に行わずに日常の団らんの時間を大切にしていたり、調理や料理の盛り付けを入居者で担当したりするところもあります。
また、民家を改築した建物も多いためバリアフリー対策が万全でないこともあります。気になる場合は、見学の際に確認するようにしましょう。
グループホームは認知症の人で、アットホームな雰囲気のなか、少人数でのコミュニケーションを大切にしたい人にぴったりの施設です。
「サ高住」は一人暮らしが不安で、安心して暮らしたい人におすすめ
サ高齢住は、生活相談と安否確認のサービスが付いたバリアフリーマンションです。誤解されることも多いのですが、「サービス」が指すのは介護サービスではありません。
介護サービスは付いていませんので、必要な場合は同一敷地内や近隣の事業者と別途契約する必要があります。「サ高住」や「サ付き」と呼ばれることもあり、いま最も増えている種別です。
生活相談サービスでは、介護の資格を持ったスタッフが常駐していますが、介護に限らず日常生活のどんな困りごとにも相談に乗ってくれます。例えば買い物サポートとして、重い荷物を持ってもらうことも可能です。安否確認サービスでは、1日1回職員が部屋を訪問したり、一定期間水道を使わないと職員が確認に来るなど、建物によってさまざまな対応が取られています。
サ高住はもともと、元気なときから安心して生活できる住まいに早めに住み替えることをコンセプトに作られました。60歳以上であればどなたでも入居できます。介護は不要で、身の回りのことが自分でできる人も利用していますが、実情としてはサ高住全体の7割以上が要介護者です。そのため、介護サービス事業者との連携体制を整ているところが多く、夜間の訪問看護・訪問介護を受けることも可能です。
サ高住の人気の理由は、費用が安いことです。厳密には介護施設ではないため、入居一時金がありません。初期費用として敷金が30〜50万円程かかりますが、あとは毎月の家賃と、必要な介護サービスの費用を払うのみです。そのため、費用が抑えやすくなっています。
また、今回紹介する種別のなかで最も自由度が高い点もあげられます。居室にミニキッチンや浴室があるので、例えば夕食は施設のサービスを利用するがそれ以外は自分で準備するといったことも可能です。加えて利用者のプライバシーを大切にしているので、居室に友人を呼んで過ごすこともできます。
身の回りのことは自分である程度できるが一人暮らしは不安という人であれば、サ高住はプライベートを大切にしながら安心して暮らせる場所になるでしょう。
種別は沢山あるが、すべてを覚える必要なし
結論として、施設を検討する上で、全ての種別を見学する必要はありません。今回のコラムを読んで、サービス内容などに極端な違いは感じなかったと思います。
また、親の状態を見ていれば、
「介護や医療的ケアが必要なので特養か有料老人ホーム」
「認知症があって集団生活は苦手だからグループホーム」
「いまは元気だけど将来が心配なのでサ高住」
と、ある程度の方向性が見えてくるはずです。
このほか、大半の人は介護施設を「場所」と「予算」で決めています。LIFULL介護などの老人ホーム検索サイトでは、これらの条件を指定して調べることが可能です。この2つの条件にあった施設を検索サイトで絞り込み、サービス内容を比較して見学先を決めるのもよいでしょう。
仕事をしていると、親の入居施設を探すために使える時間も限られてきます。それぞれの種別の特徴を踏まえた上で検索サイトを上手に利用することで、効率よく、満足度の高い施設を探すことができるはずです。