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内定取り消しを行う際の法的問題と注意点

2021.12.23

近年、増加している内定取消し

近年、増加している内定取消し

都内ITベンチャー企業が来春入社予定の大学生など21人の内々定を取り消していたことが先月大きく報道され、SNS上でも炎上し、社長が謝罪する事態となりました(2021年11月10日、日本経済新聞)。

このITベンチャー企業にかかわらず、厚労省の発表によれば、コロナ禍の影響もあり、2019年、2020年と内定取り消しが急増しています。

そこで今回は「内定取り消し」の際の法的問題やそのリスクについて解説しいきたいと思います。

労働契約が成立していると評価できるのかが重要

結論から言うと、会社が出した「内定」について、労働契約が成立していると評価される場合には、内定取消しが違法になる可能性が高くなります。

逆に労働契約が成立したとは言えない「内定」であれば、内定取消しが違法となる可能性は低いです。例えば、会社の採用担当者が「あなたを採用する予定だ」と述べたものの、入社時期や賃金額などが全く決定していない段階では、労働契約が成立したと評価できません。

他方で、大学卒業予定者の就職に際して、企業が入社予定者を確保するため、口頭でいわゆる「内々定」を出す企業も多くありますが、この「内々定」も入社時期や賃金額などの労働条件が十分具体的な内容を伴っているなどの事情があれば、労働契約の成立と評価される可能性が高く、その取消しが違法となる可能性も高まります。

なので「内定」か「内々定」かという用語に固執せず、労働契約が成立しているか否かが重要なのです。

労働契約が成立しているかは、

①内定通知の際にすでに労働契約の内容が具体的なものとなっているか
②通知をもらった側も入社を前提とした行動をとる状況や時期であったか(例えば、他社の就活の辞退をしているなど)
③会社も内定後は特に選抜のための面接など設けずに入社するという認識であるのか

という諸事情から総合判断されます。

仮に内定取消しが違法となった場合の企業のリスク

違法な内定取り消しを行なった場合、会社は内定者が働く予定であった月以降の賃金を支払う義務を負います。例えば、基本給16万円で4月から働き始める旨の内定を出したものの、その後、違法に内定を取り消した場合、4月以降も毎月給料16万円を支払う義務が発生します。

併せて、違法な内定取り消しによって慰謝料の支払い義務が発生することもあります。

加えて、冒頭のIT企業の例のようにSNSで情報が拡散して、企業の対外的な信用が失墜するリスクも多分にあります。

以上のように違法な内定取消しは、会社に相当な損害を与えるので慎重に決定する必要があります。

内定取り消しが許される場合と許されない場合

内定取り消しが許される場合と許されない場合

先述のとおり、まずは「内定」や「内々定」等の会社の通知が労働契約の成立に至っていると評価できるかが出発点になりますが、これが労働契約の成立と評価される場合には、内定取り消しには細心の注意が必要です。

内定取消しが許される場合は、①採用内定当時知ることができず、または知ることが期待できない事実が後から判明したこと、②内定を取消すことが客観的に合理的と言えるかという2つの要件から判断されます(このように判断した最高裁判決があります)。

以下では要件①②について、具体例をもとに見ていきましょう。

(1)内定取り消しが許される場合
許される内定取消し事由としては「学校を卒業できなかった」「犯罪で捕まった」というものが典型的です。いずれも①採用内定当時知ることができませんし、内定者の落ち度からすると、②内定取消しの合理的理由になります。

「経歴を詐称した」「健康診断で異常が発見された」という場合も適法となるケースが多いです。いずれも①採用内定当時知ることができないため、要件①はクリアします。

そして、詐称された経歴が採用時の考慮事由になっていれば(例えば、学歴や職歴は考慮事由です)、内定取消しは適法ですが、一方で経歴とは言えないような「趣味」欄の記載が若干違うだけでは、そのことが②合理的な取消し事由と言えない可能性が高くなります。

健康診断の異常も内定取消しが適法となるケースが大半ですが、その異常により業務に全く支障がなければ、②内定を取り消す合理的理由がなく、違法となる可能性が高いです。

内定取り消しが許されない場合
不況を理由とする内定取消しは、許されない(違法となる)ケースが多いので注意が必要です。
なぜなら、企業が積極的に人材募集・勧誘を行っておきながら、短期間でこの対応を覆すには相応の理由が求められるからです。
そもそも、不況という事実が、①採用当時知ることができない事実であったのかという視点も問われることになります。そのため、経営環境の悪化が相当程度あり、これが採用当時予測できなかったという事実があるかを十分に検討する必要があります。

抽象的な理由での内定取消しは、②客観的に合理的理由がなく、違法と判断されることが多いです。例えば、最高裁で問題となった事案では、会社が一旦内定を出したものの、「グルーミーな(陰気な)印象」があるという理由で内定を取り消した事案では、内定取消しを違法と判断しました。

終わりに

内定取消しが適法な場合と違法な場合を解説しました。

実際は、企業が内定を取り消したい場合に、内定者に辞退を促すということも多くあります。
この促しに応じて内定者が自ら内定を辞退した場合には、法的紛争にはなりづらいと思いますが、他方で、みだりに内定の辞退を迫っているという情報がSNSで出回れば、企業の信用が失墜することにもなりかねません。
企業は、内定辞退を促す際にも丁寧な説明を行い、上記のような合理的理由を挙げられるようにしておくことが重要でしょう。