労働力不足社会がやってくる!【中小企業の人材育成~「働き続けたい」組織と人づくりVol.1】
労働力不足が深刻化する中、このところよく耳にするのが「離職防止」に関するお悩みです。労働力の需給バランスが「売り手市場」に転換する中、中小企業において、人材確保は喫緊の課題なのではないでしょうか。そこでこのコラムでは、1000社以上を担当し、中小企業の人材育成、組織づくりに深くかかわってきた株式会社リクルートマネジメントソリューションズの佐藤修美氏に、中小企業の人材育成をテーマに、バックオフィス担当者に必要なノウハウを伝授していただきます。第1回は労働力不足の現状について。
人手不足を理由とした倒産件数も増加…労働力不足が深刻化
少子高齢化と言われて久しくなりました。リクルートワークス研究所の調査によると2030年には341万5000人、2040年には1100万人の労働力不足が起こるそうです。この341万人という数字は現在の中国地方、1100万人とは現在の近畿地方の全就業者数と同程度の数字だそうで、労働力不足はいかに深刻さを増すかがわかります。
人手不足を理由とした倒産件数もここのところ増加の傾向にあり、労働力不足はもはや軽視できない問題になってきました。この記事を読んでくださっている企業の皆様でも募集かけてもなかなか人が集まらない、採用ができないといった悩みに直面している企業様もあるのではないでしょうか。
労働力不足を補うヒント
労働力不足に直面する中、企業はどのような手立てを打っていく必要があるのでしょうか。
下図は統計上の職業状態(国勢調査)を分類したもので、“労働力人口”を定義しています。こちらを参考にしながら労働力に該当していないものをあぶりだし、不足を補う方法を考えてみましょう。
※出典:総務省統計局 労働力調査 用語の解説
筆者はこれを、次のように整理しました。
※出典:総務省統計局 労働力調査 用語の解説より筆者作成
整理してみると、不足している労働力に対し、どのような解決策が提案できるか、見えてきます。
① 自動化
AIなど最新の技術をもって人がする労働を機械が代わって行う
② 外国人の受け入れ
日本企業で外国籍の方により多く働いていただく
③ 生産性の向上
移動時間を減らす、無駄と思われる会議を減らす。生産性向上、業務効率化とよばれる領域
④ 多能工化
1人の人があらゆる仕事を兼務することで業務効率をあげる
⑤ 就業上の制約の軽減
家事、育児、介護といった活動をしながら働く方には勤務地・時間など勤務の諸条件を改善する。退職した人の再雇用など、働ける期間を長くする
⑥ 採用要件の見直し
割り当てる業務の幅を見直すと、採用要件を限定化できる。採用対象となる人の幅がひろがる
労働力を増やすヒントはこのあたりにありそうです。
労働力不足対策には多様性を活かすマネジメントが不可欠
では、列挙した労働力を補うヒントに対し、実現していくとしたら、その企業はどんな組織になるでしょうか。
・日本人だけでなく、国籍、文化、言語が違う外国人がともに働いている
・リモートワークなど物理的に接点がない状態で働いている仲間がいる
・パートタイム、契約社員など、雇用形態や労働条件、勤務時間が異なる人が入り混じって働いている
・つい最近社会人になったばかりの人から65歳オーバーの人まで混在している
・いくつもの仕事にまたがって働いている人や、一方で単一の業務に従事している人がいる
雇用条件、スタイル、年齢、仕事の習熟度……ありとあらゆる差異が今までよりも広がりますよね。想像するに、今よりももっともっと、多様性が増した組織になっていくでしょう。
その多様な状態が働きやすく、それぞれの人材が個性と能力を発揮できる状態で維持していくための要となるのは、他ならぬマネジメントです。
働く時間や場所に配慮する。スキルの差は補いあう。お互いが自尊心を保ち、意見を自由に交わし、それぞれの個性を生かす。このようなマネジメントは「社員が一斉・一律で入社、同等数の業務量・付加、類似のスキル・経験がある」組織のマネジメントに比べて、難易度も格段に高いといえます。しかし、これだけ労働力が不足してくる社会では、こうした組織づくり、マネジメントはいつでも実践できる体制に整えておかなければならない、待ったなしというのが現実かと思います。
有給取得から出産・育児・介護への対応、あるいは組織内での悩みに対しどう対応できるのか
少し大仰に書きましたが、1つ1つはささいなことの積み重ねだと私は考えています。
例えば、有給休暇など社員が権利を行使したい時などは、会社のスタンスが問われる象徴的な場面といえます。
実際、私は何度か転職を経て今の会社に入社しましたが、今の会社では、普段は忙しく働いていても、その分、有給の取得は上司も奨励してくれます。だからこそ行楽地のベストシーズンで旅行を楽しめますし、お互いが休暇をとるために仕事もサポートしあえる。そんな今の会社を、私はとても気に入っています。
一方、以前の会社では「有給は親戚が死んだときに取っておくもの」と上司に言われ、休暇一つとるにも遠慮しましたし、罪悪感すら持ったものです。有給の他にも、育休、産休など、制度は整っているけれど、上司の怪訝そうな表情が目に浮かび、取得に引け目を感じてしまう……こんなこともまだまだ起こっているのではないでしょうか。
休みの取得に限らず、例えば、仕事がうまく進められず、自信を失いかけているメンバーを見た時、先輩や周囲とうまく折り合えないメンバーがいた時、マネジャーはメンバーにどんな声をかけるのでしょうか。その人の考えや意見、気持ちを受け止めているでしょうか。尊重できているでしょうか。そのうえでどうあるのが望ましいか、ともに考え、方向づけられているでしょうか。
出産・育児・介護など、時間や場所の自由度が問われる場面、複雑な組織・スキルも一様ではない中、様々な心情に対処する場面、こんな場面はさらに増えるでしょう。その際、「ああ、この会社に勤めていてよかった、ここなら長く働けそうだ」と思ってもらうためには、この1つ1つの場面をマネジメント側がどう大事に処していくのか、問われていくのだと思います。
働きたい・働ける・働き続けたい組織をつくる
改めて、労働力不足は事業の存続そのものにも影響しかねない、深刻な問題です。
特に中小・中堅企業の場合、ネームバリューや雇用時に提示する条件が大手企業に叶わず、採用そのものに苦戦するといったことも起こり得るのではないでしょうか。
自社の労働力を増やすという観点で考えると、限られた人材に、ほかでもない自社に入社してもらう必要があります。
当然ながら、ネームバリューや雇用条件など、大手企業ほど整わないこともあるかもしれませんが、入社の動機につながるものはそれだけではありません。中小・中堅企業の組織の柔軟性や仕事の機動性の高さは大手に勝る魅力があります。少人数な分、一人ひとりが戦力、早いタイミングで若手に裁量のある仕事を任せることができる、といったこともあるでしょう。大企業であれば15年待たなければならない課長の座がベンチャー企業なら3年で昇格、抜擢人事も頻繁に起こる、といったことも往々にしてあります。自由度の高さ、働く仲間、会社の魅力は1つではありません。
労働力不足の今、この会社で「働きたい(=入社したい)・働ける(=条件が叶う)・働き続けたい(=働きがいがある)」と思える企業づくりが、今後の企業存続の鍵となるのではと考えています。
本連載では「働きたい・働ける・働き続けたい」会社の組織・人づくりにまつわる5つのテーマについて述べていきたいと思います。皆様の施策検討のヒントにしていただけると幸甚に思います。