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愚痴や不平不満で終わらせないために必要なのは●●の力!【リモートワーク共存時代~これからの社内コミュニケーションの在り方とは? Vol.4】

第3回では、若手の自発性・協働性を引き出すコミュニケーションを活性化させた事例をご紹介してきた。
第4回となる本稿では、変革期に直面し、重たい課題を推進していかなければならない状況にある企業での社内コミュニケーションについてご紹介したい。

成熟した市場で、競合を一歩出し抜く変革を打ち出したある事業部の取り組み

B社は複合事業を持つ企業であり、その中でC部門は従業員約200名、利益は150億円前後をあげている組織だ。安定した主力サービスを持ち、全社利益の7~8割を稼ぐ部門。現在も増収増益が続いていたが、今後数年のうちに、市場は頭打ちになることが予想されていた。業界内では中位のポジション。今後競合との競争が激化すれば、厳しい状況になることが予想されていた。そのためB社としては、新規事業を育てるため、リソースを他事業部に配分する計画が打ち出された。

C部門のミッションは「安定して収益を稼げる状態を少しでも長く続けること」。売上はできる限り現状を維持しつつ、業務を維持・運営するためのコストを半分に減らすという事業・組織変革が掲げられた。

変革の成果は?

C部門はこの改革を打ち出した当時、利益は約150億円、人員200名だったが、3年間で利益は180億円、人員は120名を実現した。顧客獲得に使っていた販促コスト大幅削減、AI等を活用して、人についていた仕事を思い切ってシステム化、少ない人員で業務が回せる体制の構築(多能工化)、売上は上がっていたが、コストが想定以上にかかっていたサービスの撤退、顧客離脱を防ぐフォロー、リテンション防止施策の実行、新サービスの開発等々、着手した課題は枚挙にいとまがない。

変革を実現する上で、事業部長が着目した「自律人材育成」と「社内コミュニケーション」

改革推進当時、事業部長が感じていたことは下記のようなことだった。

・増収増益下での路線変更。幹部も現場も皆反発してくるだろう。なぜならば、この改革は、多くの人にとって望まないものであるから。

家に例えていうなら、「4LDKに住んでいた人たちが、引っ越して1DKの部屋に住むということ」。つまり

-住める人員は限られる中、家具(サービス・仕事)は何を捨てて、どうやって生活しようか、それを現場に自主的に考えてもらう必要がある
−個々の家具に思い入れをもつ住民からの反発も予想される
−隣の家(関連部署)にとって不都合が生じるような家具の変更も合意をとっていかないといけない
−「次は自分が家から追い出されるのではないか?」と不安に感じる住民も少なくない


このような変革を進める上で、組織に必要なことは何だろうか。

ひと言で言えば、自律したリーダーの存在だ。上から言われたから……という受身な態度ではなく、当事者意識をもって変革を前に進めるリーダーを1人でも多くみつけ、育てていきたい。そしてリーダーを探し、変革を乗り超えながら成長していくために、手を入れたのが「社内コミュニケーション」だった。

打ち手は、3つの「間」のコミュニケーション活性(参考資料①)

1つ目が、「トップと現場」の間を巡るコミュニケーションである。
構造改革を巡って、双方がどのように感じ、考えているのかをお互いの立場に立って、自由に意見交換する場の創出だ。リモートワークが常態化していた中で、リモート/対面両方で10~15名程度のメンバーと車座になり、そのような機会をつくることにした。

メンバーからは、実に様々な意見が挙がってきた。

・「〇〇サービスの対応廃止の意思決定」は、顧客からみたら極めて不利益。そのことについてどう考えるのか?」
・「新商材は全く獲得が進んでいない。一体どういう顧客ターゲットを想定しているのか?」
・「コスト構造改革は今何合目で、トップはどう考えているのか?」
・「この先、自分達の事業の行きつく先は?」


不平不満のぶつけ合いにするのではなく、参加者に対して、なるべく「自分がトップならどう考えるか?」というモードで発信してもらうことを緩やかなルールとしつつ、実に様々な意見を交換した。

事業部長曰く、「自分が部課長を通して伝えていると思っていたことが、伝わっていないということがよくわかる時間だった。結果、リーダーである部課長と、より意識的に戦略意図を確認するようなコミュニケーションをとるようになった」とのことだった。

2つ目が、「部署間」での連携を促進させるためのコミュニケーション機会創出だ。
リモートワークによる影響だけでなく、縦割りの弊害から部署を超えた情報共有や意思疎通がスムーズではなく、リーダーでさえも、

・相談することを躊躇して時間がたつ
・相談するにあたってあれこれ考える、不要な資料をつくる
・誰に相談していいかわからず放置する
・議論が平行線(それはできない、あれはできない/それはうちの仕事じゃない/それはそっちの仕事)~ときに「衝突」、やがて「諦め」

という状態に陥りがちだった。

こうした問題を乗り越える手法はいろいろあるが、1つ、ユニークな方法を取り入れた。それはお互いの人間性に触れる中で、社員同士が気心知れた仲間になることである。これまでの仕事の喜怒哀楽、青年期の出来事等をざっくばらんに話し合う機会をつくる際に、「小難しい事ばかり言ってくるので気難しい人かと思っていたが、実は……」という驚きや発見、「立場や役割は違うからよく意見が衝突していたが、そこまで真剣に仕事に取り組んでいたのか」そんな発見が立て続けにおこり、結果的に横の情報交換が進み、モチベーションを支え合うような効果がみられていったそうだ。

3つ目が、「マネージャーとメンバー」の間の「キャリア」「成長」を巡るコミュニケーションだ。

多くのマネージャーが感じていたことは、“自分たちはまだいいが、現場のメンバーはこの変革についてどう受け止めているのだろうか?”というものだった。メンバーの捉え方・根底の考えに今一歩確信が持てない。故に踏み込んだコミュニケーションがとりづらい。

だったら……ということで、この事業部で、どんな喜怒哀楽を感じて仕事に取り組んで来たのか? ということを、メンバーに振り返ってもらい、それをマネージャーと共有することにしたそうだ。結果、表面的には不平不満を言っていたメンバーも、“自分のキャリア形成という視点で見れば、人が減った分、自分がより多くのタスクをこなせることは成長につながる“という意見が想像以上に多くみられた。あるマネジャーは「とても勇気づけられた」と話をしてくれたそうだ。

先行きが見えない中、変革を推進するC部門の社員にとって、「自社・自部門が掲げる方針・基準」や「協働」「キャリア・成長」というものを巡る深くて忌憚のないコミュニケーションが、変革を進める上で多くの課題を主体的に推進する土台・基盤となっていった(参考資料②)。

本事例から学ぶべきことは何か?

私が感じたことは、これだけの変革を主体的に取り組む力を、C部門の社員は潜在的に持っていたということだ。なおかつ、平時ではその力が全て出力されていたわけではなく、特に人と人の「間」にある見えない壁により、もったいない状態になっていた。それが、いくつかの関心あるテーマを巡ってコミュニケーションが活性化される中で、エネルギーが解放され、結果としてエネルギーが変革課題に注ぎ込まれていった。

しかし、なぜ、多くのコミュニケーションが、愚痴や不平不満を言って終わりにならず、実に前向きなエネルギーを引き出すものになっていったのか? そこに本事例の核心がある。

それは一言で言えば、信頼の力。事業部長自身が、「働く社員1人ひとりに、この仕事を通して、せっかくなら生き生きと働いてもらいたい、そういう職場をつくりたい」という価値観を常に大事にしながら交流してもらった影響が、多くのリーダー、ひいては現場社員に伝播するものとなったのではないか、と私は思う。

国内企業の中で、B社のように難度の高い変革を進めなければならない会社は決して少数ではないだろう。そのような企業にとって、階層や部署をまたいだ「間」の社内コミュニケーション活性は多くのことをもたらすに違いない。
しかしその活性を生み出す最大のポイントは、特にリーダーたちの「働く社員に対する見方・感じ方」にあると考える。そのことさえ間違えなければ、手法ややり方が多少稚拙だったとしても、コミュニケーションは活性化されていくものだ。

次回、第5回ではこれからの企業の持続成長に必要なコミュニケーションチャネルについて、具体的にご紹介したい。