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【執行役員・CPOが解説!法務業務のリスク対策 Vol.1】法務に任される業務が進化。契約書管理の変遷

2024.07.31

日々の生活やビジネスの中で締結される「契約」。大丈夫だろうという考えで締結し、その後の契約書管理をしていない方もいらっしゃるのではないでしょうか。この記事では、契約書管理を怠ったトラブルのご紹介と契約書管理の重要性について解説します。

契約書管理を怠ったことで発生したトラブル

「企業Aは、企業Bとの取引の契約において、自動更新を認める条項を記載していた。自動更新を停止するには契約書に記載されている期日までに企業Bに申し出をする必要があった。

しかし、企業Aは企業Bとの取引について継続する意思を持っていないにもかかわらず、自動更新の停止を申し出る期限管理を怠っており、期日までに契約停止の連絡を怠ってしまった。これにより、企業Aは企業Bとの取引が継続し、本来支払う必要のない費用を支払い続けることになった」

「企業Xは、企業Yとの取引の契約において、第三者への再委託禁止条項が含まれているにもかかわらず、企業Yの承諾を得ずに機密情報の取り扱いを別企業に再委託をしていた。締結済みの契約書の管理が不十分だったことから、取引における重要事項を見逃し、契約に違反をしてしまっていた。

企業Xは、契約に違反してしまった経緯や原因について調査し、再発防止策の実施状況も含めて報告する必要があり、管理体制の見直しや顧客への事実報告などの対応に追われた。さらに、契約違反した事実が報道され、信用失墜に至った」

こうしたトラブルはどの会社でも起こりえるものです。では、どのようにすれば、こうしたトラブルを防ぐことができたのでしょうか。この寄稿では、契約書の管理について、「守りの管理」としての契約書管理の手法を解説するとともに、今後必要とされる「攻めの管理」についてもご紹介いたします。

契約とは

契約とは、簡単に言うと「法的な効果が生じる約束」であり、「当事者同士の意思表示が合致することで成立」します(民法第522条第1項)。

契約によって生じる法的な効果とは、権利と義務の発生です。契約を締結すると、契約当事者は契約に拘束されることになります。つまり、契約当事者は契約の内容である約束を守らなければなりません。

もし、約束を守らなかった場合は、契約違反(債務不履行)として、履行を請求されたり、損害賠償の請求をされたり、契約の解除をされたりすることになります(民法第414条、415条、541条、542条)。

また、契約によって生じる義務を履行しない場合は、訴訟を提起され判決を得て、強制執行をされることも考えられます(民法第414条1項)。

これらの損害を発生させないために、企業は適切な契約書管理をする必要があります。

契約書管理の「これまで」と「これから」

【これまで:守りの管理】
これまでは、法的なトラブルが生じるリスクを察知し、未然に防ぐために行う契約書の管理は一般的な契約書管理と言われてきました。具体的には、①一元管理:締結した全ての契約書を契約管理部門の下に集約、②項目管理:契約管理台帳を作成して、締結した契約書にある当事者名や取引金額、契約締結日、契約期間などの主要項目を整理、③期限管理:契約のステータスを把握し、適切なタイミングで更新や解約の手続きを行うために、有効期間の開始日と終了日、自動更新の有無、解約の条件などを管理、④内容管理:イレギュラーな契約書の場合に個別で内容を把握・管理、の4つがポイントになります。「守りの管理」は、当該契約書に規定されている権利と義務を適切に履行することを目的として行われ、リスク管理という観点から、とても重要なものです。

【これから:攻めの管理】
一方で、これからの契約書管理において重要なのは、締結後の契約に紐づくトラブルを未然に防ぐための管理に加え、契約書に記載されている情報に留まらず、関連する様々な情報を能動的に整理・活用し、将来の契約書作成・審査や今後の事業成長に貢献するための管理が求められています。具体的には、①契約書審査の中で注目した論点、関係者間でのやり取り、審査時に参考にした資料、意思決定がなされた経緯、案件の担当者名等の情報を集めること、②これらの情報を締結済み契約書に紐づけ会社のナレッジにすること、③これらのナレッジを将来の法務業務や事業開発・運営に活用することが重要です。

適切な契約書の管理で、事業成長も支援する

適切な契約書の管理をするために、以下の事項について検討することをおすすめします。

①管理部門・管理担当者の決定
まずは、契約書管理を担当する部門と、管理担当者を決定します。特段の事情がない限り、取引を担当する事業部門ではなく、法務部門や総務部門などバックオフィスに当たる部門にし、その中から担当者を選出するのが良いでしょう。

②契約書の保管方法の決定|セキュリティに配慮
次に、契約書の保管方法を決めます。原本のみでの保管も考えられますが、情報の検索性としては原本+データ(PDFなど)での保管が望ましいです。また、情報セキュリティに十分配慮する必要があり、次の3つの対策を考えることをお勧めします。
1. 契約書にアクセスできる者を必要最小限に絞る
2. 契約書の流出を防止できるような仕組みを整える
3. 万が一流出してしまった場合に備え、流出元を特定できるような仕組みを作る

③契約書管理に関する社内規程の策定
契約書管理部門や保管ルールなどが定まったら、具体的な契約書管理のフローや遵守すべき事項などを定めた社内規程(マニュアル含む)を策定しましょう。
 【社内規程に定める事項の例】
● 契約書管理の担当部署、担当者
● 契約書の保管場所、保管方法
● 契約書管理の申請方法
● 契約書の取り扱いルール(アクセス権、パスワード、メール送信の方法等)

④契約書管理ルールの社内向け教育・周知
契約書管理に関する社内規程を定めたら、その内容を社内全体に周知・教育しましょう。適切に周知・教育を行うことが、一元管理による契約書管理の適正化につながります。周知・教育に当たっては、イントラネットやメールなどでの案内に加えて、研修も併せて開催をお勧めします。契約書管理の担当部門が主導して、細かいフローや遵守すべき事項等をレクチャーすれば、契約書管理ルールを早期に浸透させることができます。

⑤契約書管理台帳の作成
一元管理、項目管理、期限管理、内容管理を参考に、自社にあった台帳を作成しましょう。

⑥契約締結に至るまでのやり取りや参考資料も契約書に紐づけて管理
契約書に加えて、契約締結に至るまでの背景や経緯、参考にした資料やガイドラインなど、契約書に紐づく全ての情報を資産として保管することが大切です。情報資産として蓄積していくことで、将来同じような案件に対応する際に、過去の案件を簡単に参照できることによって、当該案件の進行スピードの高速化や判断の質の向上が容易になります。

⑦リーガルテックツールの導入
上記6つの管理を自社だけで構築するのは非常に労力がかかります。そこで、締結済み契約書の管理に加え、参考にした情報や関係者間でのやり取りをナレッジとして蓄積することができるリーガルテックツールを導入することをお勧めします。ツールの中には、契約書に記載された情報の管理や整理といった「従来の契約書管理」のみを行うことができるツールもあれば、締結までになされた関係者間のやり取りや参考にした情報などをAIを用いて簡単に蓄積し、活用できるナレッジとして管理することができるツールも提供されています。事業成長に貢献する法務体制を構築するために、法務業務に必要な全ての情報をナレッジとして蓄積・管理でき、必要な時に労力なしにこれらのナレッジを活用できる「これから」の契約書管理を行えるリーガルテックツールを選ぶことが望ましいでしょう。

まとめ

ここまで実際に起きたトラブルや、従来の契約書管理方法、これから求められる契約書管理方法に加え、対策を解説してきました。ビジネスの多様化に伴い、日々の業務も進化が求められます。リスクを未然に防ぎ、事業貢献ができる法務体制の構築を、この機会に検討してみてください。