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「従業員の不満を解消すればエンゲージメントは上がる」という誤解【今さら聞けない「エンゲージメント」とは? Vol.2】

2024.10.18

前回は、エンゲージメントが離職防止だけでなく事業成果にも好影響を与えることをお伝えしました。こうしたエンゲージメントの重要性が認識され始め、エンゲージメント向上に注力する企業が増えていますが、成果につなげられている企業ばかりではありません。今回は、エンゲージメントを向上させる際によくある「誤解」と、その対応策についてお伝えしていきます。

前回コラムはこちら!

エンゲージメントを向上させる際によくある「誤解」とは?

効果的にエンゲージメントを向上させるためには、「See(現状分析) → Plan(施策立案) → Do(実行促進)」の3つのステップで取り組むことが重要です。ただし、取り組む際には各ステップでよくある「誤解」に注意が必要です。

■Seeの誤解:「従業員の不満を解消すればエンゲージメントは上がる」
See(現状分析)のステップでよくあるのが、「従業員の不満を解消すればエンゲージメントは上がる」という誤解です。

エンゲージメント向上の第一歩は、自社のエンゲージメントの現状分析を行うことです。近年は、「エンゲージメントサーベイ」などのアンケート調査を導入し、自社のエンゲージメントを定量化・可視化する企業が増えています。

通常、エンゲージメントサーベイを実施したら、その結果をもとに現状分析を行い、従業員の不満や組織課題を抽出します。それが終わると、多くの企業は「こんなに不満があったのか」とショックを受けながらも、「一つずつ不満を解消していこう」と対策に着手します。しかし、従業員の不満を解消するだけではエンゲージメントは上がりません。このことは、「ハーズバーグの二要因理論」からも明らかです。

臨床心理学者であるハーズバーグは、職場において、なければ不満を感じるが、得られても満足につながるわけではない要因を「衛生要因」、なくても不満は感じないが、得られれば大きな満足をにつながる要因を「動機付け要因」と定義しました。

・衛生要因
経営方針、上司・同僚・部下との関係性、作業条件、賃金、雇用の安定性など

・動機付け要因
達成感、承認、仕事そのもの、責任、昇進、成長など

多くの企業は、給与や働き方を見直すことで従業員の不満解消に努めますが、衛生要因を解消するだけではエンゲージメントは高まりません。エンゲージメントを高めるためには、衛生要因に対応しつつ、いかに動機付け要因に働きかけられるかが重要です。

動機付け要因に働きかけ、エンゲージメントを高めるポイントは、以下の2点です。

● ポイント①サーベイで「満足度」だけでなく「期待度」も測る
一般的なエンゲージメントサーベイでは、従業員の満足度のみを測る場合が多く、「満足度の低い項目から手を打つ」という方針になりがちです。しかし、必ずしも満足度の低い項目が、優先的に改善すべき項目とは限りません。

例えば、サーベイで上司に対する満足度が低いことがわかったため、1on1を導入したり、上司向けの研修を実施したとします。しかし、他に不満があると、「今、改善してほしいのはそれじゃないんだよな」と、逆に不満を増幅させてしまう場合もあります。こうした「施策のすれ違い」をなくすためには、サーベイで満足度だけでなく、”期待度”も測ることが重要です。

従業員が会社に対して「何をどのくらい期待しているのか」という期待度を把握し、そこに対して「どれだけ満足しているか」を把握することで、「不満を解消する」のではなく、「期待に応える」という方向で施策を講じることができます。また、従業員の期待度が分かれば、動機付け要因も抽出しやすくなるため、より効果的にエンゲージメント向上を図ることができるでしょう。

●ポイント②何によってエンゲージメントを高めるのかを絞る
従業員の期待度を把握したら、次は「何によってエンゲージメントを高めるか」を決めることが重要です。当社、株式会社リンクアンドモチベーションでは、エンゲージメントを左右する要因を「4P」という形で以下の4つに分類しています。

4Pのうち、Privilege(待遇の魅力)は、ハーズバーグの二要因理論で言うところの「衛生要因」に含まれます。Privilegeが不十分だと従業員の不満につながるため、これを無視することはできません。

他の3つのPは「動機付け要因」に含まれるため、これらを高めることでエンゲージメントの向上が期待できます。ただし、企業のリソースには限りがあるため、3つのPをすべて高めるのは現実的ではありません。「どのPでエンゲージメントを高めるのか?」を決め、そのPに注力した施策を講じるのがポイントです。

事例紹介

Seeのポイントに注力し、エンゲージメントを向上させ、事業成果につなげた電機メーカーの事例をご紹介します。A社は典型的な日本の大企業であり、保守的な風土が蔓延していました。そこで、中期経営計画のKPIの一つとしてエンゲージメントを掲げ、保守的な風土から脱却し、従業員の挑戦を促す風土づくりに着手しました。

エンゲージメントサーベイで従業員の期待度を把握し、4つのPのなかでも「Philosophy(目標の魅力)」に絞った取り組みを行いました。具体的に実施したのは次の2つの施策です。

①従業員が会社の方針を理解し、自らの役割を再認識できるよう、経営トップとの双方向セッションを実施。
②理念浸透のキーパーソンとなる管理職の強化に注力。新任の管理職だけでなく既存の管理職にも研修を実施し、マネジメント力の変化を定量的に把握・開示。

約4年にわたる取り組みの結果、従業員に理念が浸透し、新たなプロジェクトへの挑戦が次々と生まれる組織へと変貌を遂げました。特筆すべきは、株価・時価総額が4年で2倍以上になったことです。

同社の成功要因は、従業員の期待度を把握し、注力する要素を絞ってエンゲージメント向上に取り組んだことです。風土改革の取り組みが、事業成果にもつながった好事例だと言えるでしょう。

次回は、エンゲージメント向上における「Plan(施策立案)」のステップで陥りがちな誤解と、その対応策について解説していきます。