「エンゲージメントは高ければ高いほど良い」という誤解【今さら聞けない「エンゲージメント」とは? Vol.4】
組織において、エンゲージメントが高い状態を目指すことに間違いはありません。ですが、いくらエンゲージメントが高くても、事業成果が上がらなければ本末転倒です。エンゲージメント向上を事業成果につなげるためには、組織状態に応じて「アクセル」と「ブレーキ」を使い分けることがポイントです。今回は、エンゲージメント向上の3番目のステップである「Do(実行促進)」における誤解やポイントについて解説していきます。
エンゲージメント向上させる際によくある「誤解」とは?
第2回でお伝えしたとおり、効率的にエンゲージメント向上を図るためには、「See(現状分析) → Plan(施策立案) → Do(実行促進)」の3つのステップを回すことが重要です。「Do」は、エンゲージメント向上施策の実行を促進するフェーズですが、陥りがちな「誤解」があるため注意が必要です。
●Doの誤解:「エンゲージメントは高ければ高いほど良い」
エンゲージメントは、常に高め続ける努力が必要です。ただ、ある程度エンゲージメントが向上した企業が陥りがちなのが、エンゲージメントを高めること自体が「目的化」してしまうケースです。
エンゲージメントを高めること自体は、企業にとってプラスの影響をもたらしてくれます。しかし、事業成果が出ていないにもかかわらず、既存従業員のエンゲージメントを下げないことを優先して、従業員に負荷がかかるような新規事業への挑戦や事業成果に振り切った取り組みを取らないようでは、本末転倒です。このような状態に陥ると、従業員の成長が阻害されたり、イノベーションが生まれにくくなったりするなど、企業としてマイナスな影響を受けてしまうリスクがあります。
押さえておきたいポイントとしては、エンゲージメントは企業経営における「アクセル」と「ブレーキ」の判断軸になるもの、ということです。エンゲージメントが高い状態にあるときは、事業成果にフォーカスした取り組みをしたり、新規事業への挑戦を促したりと、企業成長に向けて強く「アクセル」を踏むことができます。従業員に多少負荷をかけても前向きに受け止めてくれ、成果創出に向けて走り出してくれるでしょう。
逆に、エンゲージメントが下がっているときに事業成果にフォーカスしすぎると、「うちの会社は数字しか見ていないんだな」などと従業員の不満を招いてしまうことがあります。同様に、エンゲージメントが低いときに新規事業に乗り出すと、既存事業を担う従業員から「自分たちは不要なんですか?」といった不満が噴出してしまいます。このようなときは、コミュニケーションの活性化を図ったり、経営と現場の対話機会を設けたりと、いったん「ブレーキ」を踏んで組織状態を立て直す必要があります。
事業環境の変化、顧客との関係性の変化、社内の体制変更、個々の従業員のコンディションの変化など、様々な要因によってエンゲージメントは変動します。その時の状況ごとにエンゲージメント状態を見極めたうえで、アクセルとブレーキのバランスを意識しながら柔軟に施策を講じていかなければいけません。
エンゲージメント向上施策を「Do」する際のポイントとは?
では、アクセルとブレーキを踏みながら施策を実行し、エンゲージメントを向上させるには、具体的にどのように実践することが必要なのでしょうか。大切なのは、エンゲージメントと事業成果の高低に応じた、対策・アプローチを取ることです。
当社では、エンゲージメントの高低と、事業成果の高低ごとに組織状態を4つに分類しています。
①エンゲージメントが高く、事業成果も出ている状態
市場から選ばれる「強い」組織
組織・事業ともに良好な状態だと言えます。新規事業や大きな変革に挑戦しても、従業員は前向きに受け止め、目指す姿の実現に向けて前進してくれるはずです。
②エンゲージメントは高いものの、事業成果が出ていない状態
基準が甘くなっている「ヌルい」組織
心理的安全性は確保されているものの、内向きの思考が強く、基準が低くなっている状態だといえます。組織内で相互理解は深められている一方、掲げている目標や基準が低い可能性があるため、高いエンゲージメントを活かして、より事業成果にフォーカスした取り組みを行うことが大切です。
③エンゲージメントは低いが、事業成果が出ている状態
疲弊感が充満している「キツい」組織
事業成果にフォーカスしすぎるあまり、従業員が目の前の業務に忙殺され、組織に疲弊感が充満している状態だと考えられます。このまま疲弊感が蓄積していくと、どこかで組織崩壊を起こすリスクがあります。そのため、中長期を見据えてエンゲージメント向上に投資するなど、組織状態を立て直すことが大切です。
④エンゲージメントが低く、事業成果も出ていない状態
市場から選ばれない「弱い」組織
組織や上司に対する諦めが蔓延している状態だと考えられます。もはや、当事者だけで課題を解決するのは難しいため、第三者が介入して一から組織変革に取り組む必要があります。場合によっては、部やチームを解散したり、組織編成に大幅にメスを入れたりするなど、抜本的な改革が必要になります。
このように、エンゲージメントの高低や事業状況によって組織状態は変わってきます。エンゲージメントの維持・向上を図るためには、エンゲージメントサーベイで常に組織状態を把握し、「事業」と「組織」の両面から改善に向けたアプローチをすることが重要です。
次回からは、これまでお伝えしたSee・Plan・Doのポイントを踏まえながらエンゲージメント向上に取り組み、事業成果につなげた企業事例をご紹介します。