法令遵守はゴールではなくスタート、カスハラ対策をきっかけに顧客や従業員とより良い関係を創る【今なら間に合う、現場で始めるカスハラ対策 Vol.6】
皆さんご存知のとおり、いよいよ2026年10月には国の改正労働施策総合推進法が施行され、中小企業を含む全ての事業主にカスハラ対策が義務付けられます。最終回となる今回は、これまでのコラムでも触れた対策や準備のポイントをおさらいしつつ、カスハラという問題を単なる法令遵守としての観点だけでなく、より俯瞰した形でどうしたらカスハラを起こさずに済むのか、企業と顧客の本来あるべき関係とは何かを皆さんと一緒に考えます。
今からでも間に合う、現場で始めるカスハラ対策のポイント
まずは早速ですがこれまでのコラムでもお伝えしてきた通り、これから対策を考えるという企業の方は、大きく以下のポイントをおさえて効率的に準備を進めていきましょう。
① カスハラに関する自社の現状把握と問題整理を行う
② 自社にとってのカスハラ定義を定める
③ 対策を立案し、定義とともに文書化する
④ 自社方針として定義や対策を社内・社外へ周知する
⑤ 従業員からの相談受付や二次対応の体制と運用を整備する
昨今ではカスハラに関する社会的認知も進んできましたので、具体的に該当するケースというのも以前よりは比較的理解されやすくなってきていますが、それでもいわゆる“グレーゾーン”と呼ばれる部分はどうしても存在します。グレーゾーンへの対処含め、企業ごとに自社の業態・業種などの特性に即して検証・点検することが重要です。
また上記の通り、文書化というのももう一つの重要な要素です。文書化されているからこそ、社外に周知することも可能ですし、また社内、すなわち従業員に対しても効果的な研修やトレーニングを提供することに繋がり、結果としてそれが従業員の安心感やカスハラ対応の質にも繋がります。
そしていずれの対策も、できるだけ現場を含む企業全体を巻き込んで進められると良いでしょう。
事後の対応だけがカスハラ対策ではない、未然に防止するよう努めよう
発生時の切り分けや一次対応、事後の相談受付など、カスハラ対策は「発生した後」の内容に目が行きがちですが、社外への周知を含め、「カスハラを未然に防ぐ」という観点も忘れてはいけません。そもそも防止する手立てが無ければ、従業員にも本当の意味で安心感を提供することは困難です。
最近は店舗や公共施設などでもカスハラについて啓蒙するポスターを見かけることが増えてきました。そういった周知・啓蒙による牽制の他に、どういった防止策・緩和策が考えられるでしょうか?
ひとつは、昨今のAIをはじめとした技術活用です。業種や業態にもよりますが、日進月歩のテクノロジーの進化を踏まえれば、従来無かった新たな対策も検討できます。例えばアプリや電話窓口などにボットによる自動応答の一次受付を設け、待ち時間のストレス無く自己解決できることで事態が好転したり、お客様と電話でやり取りしている最中に相手の声色を機械的に和らげる機能、感情を計測してエスカレートの予兆を察知する機能などを利用したりと、活用シーンも増えてきています。
もうひとつは、カスハラにエスカレートする手前に、企業側のサービスやルール、はたまた従業員の対応の仕方に、その原因が無いかどうかを点検し、もしあればそれを除去・改善するということです。
前提として理由如何に関わらず非人道的な言動や、理由なき嫌がらせは論外です。しかし、結果的な行為はともかく、実は多くの場合そのきっかけは企業側にも一定の要因があることは認めざるを得ません。これは自身がいち消費者になったときの体験を振り返れば、どんな方でも思い当たる節があるはずです。
言い換えれば、「お客様をカスハラ顧客にさせない」という姿勢が大切なのです。
そもそもなぜカスハラは起きるのか、目指すべき企業と顧客のより良い関係性
もちろん、全ての企業や顧客接点で、カスハラを完全に無くすことは難しいかもしれません。よく言われるように、とりわけ日本においては「お客様は神様」という曲解・誤解や、「おもてなし文化」からくる顧客側の過剰期待など、文化的背景も根強くあります。
それでも、一部の愉快犯を除けば、本来企業側はもちろん顧客側も含めてカスハラを望んでいる人はいないはずです。前述のとおり文化的背景も含めてすぐに変容が難しい要素はありますが、企業側・顧客側が対等な立場で(これはBtoBであっても同様です)、お互いに期待する価値を享受しあえる関係性を、双方の努力と対話によって実現できることが望ましいと考えます。
ホスピタリティを失わず、同時に対等な目線で顧客と向き合うこと、寄り添うことは、言うほど簡単なことではないかもしれません。従業員にはある意味これまでよりも一段高いスキルが求められるとも言えるでしょう。それでも、私たちが企業とその従業員として、より良い社会の一端に貢献するためには、このことと向き合っていくことは、結果私たち自身にも返ってくることであり、避けて通れないことなのだと思います。
昔から「三方よし」とはよく言ったもので、売り手・買い手のどちらかが一方的かつ暴力的に自身の要求や利益のみを求めるのでなく、お互いに対話・理解することで廻っている社会が、私たちが求める姿なのではないでしょうか。
Q&A 企業のカスハラ対策においてよくある質問
ひとつの正解があるわけではないカスハラ対策、どの企業も悩みながら対応されています。ここではそんな企業の現場の皆さんからよくある質問について、当社のインストラクターで多くの企業へカスハラ対策の支援を行っている阿部がお答えします。
Q:「カスハラ対策の義務化とは具体的に何を求められているのでしょうか?」
A:国が求めているのは「カスハラをゼロにすること」ではなく、「企業として合理的な防止策・対応体制を整えていること」です。従って対策を行っていない場合、安全配慮義務違反や従業員との紛争に繋がるリスクが高まります。今後は「何も起きていないから大丈夫」ではなく、発生した際にきちんと説明できる準備をしていることが重要になるでしょう。
Q:「カスハラに厳格に対処しつつ、一方でサービスレベルや顧客体験を下げないためにはどうしたらいいでしょうか?」
A:カスハラに毅然と対応することは、顧客との関係を悪化させることではありません。重要なのは「不当な要求には応じない一方で、相手の気持ちや背景には寄り添う」という姿勢を、企業として示すことです。ラポール(信頼関係の土台)を築いた上で、できること・できないことを感情的にならず冷静に伝えるという、従来以上に高度なコミュニケーションスキルが求められますが、これは決して個人の力量だけに委ねるべきものではありません。企業として判断基準や役割分担を明確にし、現場の従業員が安心して対応できる環境を整えることで、応対は自然と落ち着き、一貫性のあるものになります。従業員を守る仕組みが整っている企業ほど、結果として顧客との良好で長期的な関係性を築けると考えています。
全6回のコラムを通して、企業に求められるカスハラ対策とその考え方について解説してきました。少しでも皆さんの参考になれば幸いです。
※本記事に掲載されている図表は全て(株)TMJの研修テキストより抜粋しています









