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マネジャーが生きれば組織も生きる! 人材育成の今《後編 2》【中小企業の組織づくり~いまこそ階層別育成の時代 Vol.11】

皆さんの組織にはどのような役職の方がいらっしゃるでしょうか。最近は「係長、主任といった役職がない」あるいは「部長も課長もない」というケースもあるでしょう。スタートアップ企業だと、階層が3階層程度……ということも珍しくありません。そもそもピラミッド構造ではなく、フラット化している企業もあり、それが是とされるような気運があります。ところが、いざ組織運営をしてみるとフラットな組織の運営難度は非常に高く、あらためて階層別組織の良さが見直されているように感じています。そこで本連載では中小企業の組織づくりをテーマに、階層別育成の考え方について解説していきます。ぜひ、自社の組織づくりに生かしていただければ幸いです。

第11回は「皆さんのまわりにこんな既任マネジャーはいませんか?」という、前回提示した2つのケースへの対応策を考えていきます。

【過去のコラムはこちら!第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回第10回

ケース①:マネジャーが自組織最適のみを考えるときの関わり方

第10回では以下のケースをご提示しました。「うちにもこんなマネジャーがいるな……」「うちのマネジャーとは少し違うな……」など感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。あらためて、それぞれのケースについて考えてみたいと思います。

ケース①
Aさんは営業1課を率いて5年になる。1課の業績は安定しており、今や、他の事業部からも注目される課となっている。A課長の評判を開発部のB課長に尋ねてみた。

「A課長の業績づくりは素晴らしいと思います。はたから見ていてもメンバーが成長していることがわかるし、マネジメントをしっかりされているのだろうな、と感じています。その点は見習いたいな、と思っています。一点、ひっかかるのは、①中期経営計画に新商品の開発が盛り込まれているのに、その開発への協力姿勢がない点です。今期のうちに開発の方向性を定めておくというスケジュールになっていて、開発メンバーが営業メンバーにお客様の声をヒアリングさせてもらうことになっていました。業績も出している営業1課にヒアリングをお願いしようとA課長に依頼したところ、断られてしまったのです。

『自分たちは業績を出している。業績を出せているのは今の商品が顧客にあっているからだ。なぜあらためて開発をしなければならないのか、私にはわからない。それに、私たちは業績を上げているからメンバーも相当忙しい。追加の業務などできるわけがないよ』という主旨の返答がありました。忙しいのはわかりますが、方針が定まっている中で、あのような態度とは……と残念に思いました」

ケース内でお伝えしたかった点に下線をつけてみました。

▼下線① バリューチェーン全体で顧客に価値を届けている意識を
マネジャーには戦略推進を実現させる動きが期待されますが、このケースではむしろ方針に反する動きをとっています。当人にとっては忙しく、業務量をコントロールしたい局面だったのかもしれませんが、自組織の最適性のみを優先することは望ましくありません。

普段から、関連部署間での情報交換を定期的に行う、業務の流れをバリューチェーンで整理する機会を持つ、等バリューチェーン全体で顧客に価値を届けているということを意識できるような支援があると良いのではないでしょうか。

ケース②:他部署から異動してきたマネジャーとの関り方

ケース②
開発1課Cマネジャーに対する印象を直属の上司であるD部長に聞きました。

「Cマネジャーは開発1課に異動してきて1年が経つ。もともと営業部で活躍をしていて、その力を開発でも発揮して欲しいという期待あっての異動だったのだが、動きがいまひとつだ。

②営業部にいて顧客や営業の様子を理解しているからこそ、良い意見を具申してくれると思っていたのに、『わたしは開発のことはわからないから……』と、会議でも聞き役にまわるばかりだ。

メンバーからもCマネジャーが判断してくれないから仕事が進まない、と不満の声もあがっている。経験したことのない職種でのマネジメントを任せたこと自体が、間違いだったのだろうか……」

ケース内でお伝えしたかった点に下線をつけてみました。

▼下線② 経験のない部署でも成果を出す
自分が経験してきた職種であれば、取り巻く環境が良くわかっている、どう動くのがよいか行動そのものがイメージできる、と、自信を持ってマネジメントできます。

一方で、経験のない職種のマネジメントとなると、そもそも環境を捉えられているのかも心配、具体的な手足の動かし方もわからずアドバイスもできない……とやりにくさを感じる方も多いでしょう。とはいえ、経験がなくとも、業務に精通している部下に、成果をあげるポイントをヒアリングしてみる、など、情報を集め、動き方をイメージすることはできるはずです。もし戸惑っているマネジャーがいたら、経験のない職種でもマネジメントを機能させるためのヒントを伝えたり、「臆せずマネジメントをしよう」と背中を押したりすることが、支援になるでしょう。

このような壁を乗り越え、「どのような組織を担当しても成果をあげる」と評判がたつような状態はシニアマネジャーという次のステージに近づいていけます。

関わり方のヒント

第10回でご説明した通り、弊社ではマネジャー(後期)の成長をトランジションモデルで(Manager(後期)=マネジャー(後期))として、整理しています。具体的には、各社員に対して周囲が関わって「抑える行動」、「伸ばす行動」を決め、うまく成長が進んでいないときの様子を「トランジションを乗り越えられていない」、成長がうまくいっているときに見える行動を「出口のサイン」などに棲み分けて言語化し、状況を整理しています。

マネジャー(後期)の皆さんとの関わりにおいては以下を目安にしてみてはいかがでしょうか。

抑える行動
☐自組織最適のみを考える
☐自身の信条や経験則のみで判断しようとする
☐組織の内部基準を優先する
☐ビジョンや戦略は上位層が考えることだと割り切る
☐「私たち」と「彼ら」という思考をする
☐戦略的課題に傾注するあまり、足元の課題/業績の達成が手薄になる
☐判断にあたって不確実性を低減しようと過度に情報を集めようとする
☐仕事のできる/意思の通じ合ったメンバーばかりを重用する

伸ばす行動
☐事業を成長させるには何が必要かを折に触れて考える
☐外部視点から自社のビジネスや仕事の進め方を考える癖をつける
☐バリューチェーン全体を意識する
☐これまでの成功体験にとらわれずに出来事を見る
☐仕事や組織における前例や慣行を疑う
☐複雑性や不確実性を許容した上で自分の意思で判断する
☐メンバー一人ひとりの個性と強みを生かそうとする
☐立場、役割にとらわれず衆知を引き出す
☐社内外のキーパーソンとの人脈を築く
☐担当組織の存在意義を再定義して業務を再編する

トランジションを乗り越えられないと…
●優先順位をつけられず、メンバーが疲弊したり、中途半端な成果しか出せなくなる
●上司に対して提言ができず、上からの方針をそのまま下ろす
●自分の専門外・知らないことがあると、判断できず業務をとめる
●メンバーに仕事を任せようとしても、結局自分がやってしまう
●メンバーが伸び悩む
●メンバーが、報告や意見・提言をしてこなくなる
●メンバーが自分の顔色を窺うようになる
●仕事ができるメンバーのみに仕事が集中する(そのメンバーだけに頼る)
●職場や会議での発言や交流が少なくなる
●場当たり的な判断を繰り返し、メンバー・他部署・顧客の信頼を失う

トランジションの出口のサイン
●どのような組織を担当しても、成果をあげるマネジャーだという評判がたつ
●新人や中途採用者が最初に配属されることが多くなる
●各部門のキーパーソンを苦労なく動かせるようになる
●経営陣から意見を求められる機会が増える
●自分のメンバーだった人材が各所で活躍し、仕事がしやすくなる
●担当組織の存在意義を再定義して業務を再編する