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業務のデジタル化を進める際は最初の「整理」が重要!~インボイス制度の処方箋Vol.4~

これまで多くの事業者が不安を抱き、悩んでいる「インボイス制度」に対応するためのポイントについて解説してきました。4回目となる今回は、インボイス制度対応による業務のデジタル化を検討するための具体的な進め方について解説します。

限られた時間で対応を完了させるには、最初の「整理」が重要!

インボイス制度への対応による業務のデジタル化検討を進めるにあたり、大まかなプロセスの流れを表したのが、下の図です。検討をスムーズに進めるためには、はじめに現状の業務や課題の整理を行うことが非常に重要です。この整理というプロセスをスキップして先に進むことは、手戻りが発生するなど、うまくいかない原因となります。

整理のプロセスとしては具体的に、まず業務と書類の現状把握を行い、その上で電子化(デジタル化)の計画やフェーズ決め、システム化の検討などといった「方針や計画の検討」が必要です。

この整理の進め方として、「社内にプロジェクトチームを立ち上げて、そのチームが各部署・部門の業務と書類の現状をすべて調べる」という方法は現実的ではありません。例えば経理や営業の方など、各部門に横展開した上で責任を持って調査の結果をまとめていただくという方法を取るほうが良いでしょう。

というのも、そもそも業務に関連する部門が多岐に渡ることに加え、一つの業務の中でもさまざまなバリエーションが出るためです。例えばA社には請求書を紙で送っているが、B社にはメールで送っているなど、現場部門でないとわからない情報もあります。私たちが実際に携わった例でも、請求書の受け渡しだけで数百パターンもあった事例もありました。

ですからこの整理のプロセスは苦労されるとは思いますが、社内で今どういう処理が動いているかということをここできちんと整理しておくことは、内部統制にもつながります。本来は社内規程や業務規程に基づいてやるべきことが、なかなかできていない、もしくは現場の判断で随時行っているといった事例も出てくる可能性があります。そういうことを、時間をかけてきちんと洗い出しておいたほうが、最終的にはメリットが大きいのです。

まずは業務と書類全体の棚卸しを行う

業務と書類の現状把握をするには、社内の業務全般を対象として取扱う書類の棚卸しが必要です。その際、棚卸しのリストの項目として参考にしていただきたいのが下の5つの要素です。

①業務
②処理・手続き・作業
③取引相手・担当部署
④発生する文書
⑤④の発生経路・作成方法

ただ現実にはこの①から⑤に含まれない例もやはり出てきますので、そうした稀な場合の処理ケースの把握も、後ほど重要になってきます。これも忘れずに実施しましょう。

この整理と棚卸しが終わったら、その結果を受けて方針や計画の検討というフェーズに入ります。これは大きく下の2つの作業に分けられます。

①電子化の計画(フェーズ決め)
②システム化の検討

このプロセスは、当初の見込みよりも結構時間がかかってしまうケースも多くありますが、最初の整理と同じようにしっかり時間をかけて行うことにより、その後の導入もスムーズになります。

「システム改修の方針決め」については、DX推進を意識してやるのかどうかで、対応の方向性が変わってくるかと思います。

「全システム刷新」より「既存システム活用」の方が現実的

「時間がないから、とりあえず法対応だけ」という事業者も多い中、「せっかくなのでこの機会に、DX推進や、業務全般のIT化を進めたい」という方もいらっしゃるかと思います。その際に、全てのシステムを一度に刷新する方法もあるかとは思いますが、そうすると状況が変わるたびに総入れ替えしなければならなくなり、大きな負担になります。そのため、多くのお客様がコスト面や業務ロジックの面などで、既存システムを活用・流用したい、せざるを得ないとの状況にあるとの認識です。実際には複数の異なったシステムを組合せて運用していくことになります。取引上や業務上で扱う書類や伝票はさまざまなシステムや経路で発生しますが、システムごとに保管すると書類の管理が煩雑になります。そこで、前回「つなぐ」というお話をしたように、個々のシステムを関連付け、集約保管できる仕組みを作っていくのが一番現実的ではないかと、私たちは考えています。

業務の断線を解消する、非常にシンプルな方法

では具体的にどうつないでいくかというところで、請求書の受領から精算処理に流すまでの業務にインボイス制度対応を踏まえた例を見てみたいと思います。

請求書の受領から支払い、保管までの業務としては、やりとりの方法や形態もバラバラで、その業務に当たる人がつないでいるような状況にあると思います。つまり、業務が断線している状態なのですが、これを解消する非常にシンプルな方法があります。それは、「人が行う必要があるかどうか」という点に絞って見ていくということです。

必ず人が行う業務は、つまり人の判断が必要な作業ということになります。上の図で言えば、ピンク色の部分がその作業に該当します。例えば紙の請求書の受領とその際のチェック、会計システムに入力された内容や支払情報に関するチェックなどは、人が行う必要があります。しかし紙の請求書も電子化してしまえば、受領から社内提出、システム入力まで、そして原本の保管なども、必ずしも人が行わなくてもいい業務となります。

「必ず人が行う必要がある」というものについては、完全な自動化は難しいですがITツールをうまく活用することで人の負荷を軽減することができます。例えば適格請求書のチェックであれば、適格請求書事業者番号で事業者を検索し、請求書に記載の請求元会社と一致しているかをシステムでチェックする、といった支援が考えられます。また意思決定には必ず人手が入りますが、ここはワークフローと言われるような仕組みを使って省力化するというやり方があります。

「人が行わなくても良い業務」については、ITツールに置き換えることで自動化が可能です。紙の請求書はまずスキャンしてPDFなどに電子化してやりとりするところからはじめるのが良いでしょう。電子化すれば、ITツールによりデータの入力や保存作業を自動化できます。データ化した情報を会計システムに入力したり、電子帳簿保存法対応のための原本保管を行う処理も自動化できます。

以上のようにデジタル化の施策を進めていくと、インボイス制度対応にとどまらず、関連する周囲のプロセスも電子化され改善されていきます。DXを推進したいと考えているのでしたら、今回のインボイス制度対応がいいきっかけになるのではないでしょうか。
次回は、インボイス制度対応からDXへ繋げるための具体的な事例を紹介します。