マネジャーが生きれば組織も生きる! 人材育成の今《後編》【中小企業の組織づくり~いまこそ階層別育成の時代 Vol.10】

皆さんの組織にはどのような役職の方がいらっしゃるでしょうか。最近は「係長、主任といった役職がない」あるいは「部長も課長もない」というケースもあるでしょう。スタートアップ企業だと、階層が3階層程度……ということも珍しくありません。そもそもピラミッド構造ではなく、フラット化している企業もあり、それが是とされるような気運があります。ところが、いざ組織運営をしてみるとフラットな組織の運営難度は非常に高く、あらためて階層別組織の良さが見直されているように感じています。そこで本連載では中小企業の組織づくりをテーマに、階層別育成の考え方について解説していきます。ぜひ、自社の組織づくりに生かしていただければ幸いです。
第10回は、既任マネジャーに期待される役割と実践へのつなげ方のヒントをお伝えできればと思います。
目次
(1)マネジャー(後期)の特徴
(2)期待役割
(3)こんなことは起きていませんか?
マネジャー(後期)の特徴
「マネジャー」と聞いた時、どのような対象を想起するか、範囲は人によりさまざまかと思います。以前ご紹介した弊社のトランジションモデルではマネジャーになりたての方は前期、ベテランの方は後期と、2つに分類して整理しています。今回はマネジャー(後期)に焦点をあてます。「課長クラス・部下がいる」方をイメージして読み進めていただければと思います。
期待役割
「Manager(後期)=マネジャー(後期)」にはどのような期待役割があるのでしょうか。
弊社トランジションモデルでは以下の通り定義しています。
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組織業績を達成しながらミドルアップダウンの変革を推進していくステージ(マネジメント)
(Manager前期に加えて)
●事業部や部門の課題について自ら問題提起する
●上位組織の中長期ビジョン、戦略の策定に参画する
●既存のビジネスプロセスや業務フローを見直し、改善/革新を提案・実行する
●新市場/新製品開発、BPRなどの変革を主導する
●次期マネジメント人材を発掘、育成する
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【参考 マネジャー前期の期待役割】
●自らも担当業務はもつものの、メンバーを通して組織業績を達成する
●上位方針に沿って自組織の目標・計画・方針を定め、達成に向けて業務が前に進むように最適な判断を行う
●メンバー一人ひとりの育成責任を負い、業務アサイン・日常の関わりを通して、メンバーの成長をはかる
●メンバー同士が切磋琢磨・協働しながら成果を出していける関係性を組織内につくる
●他部署や社外と関係をつくり、自部署との連携を促進する
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【出典:リクルートマネジメントソリューションズ『トランジションデザインブック2.0』】
1つ前のステージ、「Manager=マネジャー(前期)」の期待役割と比較すると、「Manager=マネジャー(後期)」は戦略の策定やBPRなど改善活動への参画が求められていることがわかります。次のステージである「Senior Manager=シニアマネジャー」への足掛かり、予行演習をしているような時期と言えます。
マネジャーの前期と後期はゆるやかに地続きになっているので、その差がわかりにくいですが、変わり目としては、全社を視界とするプロジェクトへの参画が求められたり、同じマネジャーでも自身がプレイヤーをしていた職種ではなく別の職種のマネジメントを担当することになったり、メンバーの人数が増えたりするなど、より視界の広さが求められる、やや難度や複雑性が高いマネジメントの実践を求められる、といったことが挙げられます。
従来の延長線上にある判断だけでなく、事業にとって必要であれば、よりよい状態を目指す動きが求められます。マネジャー前期と同様に、上位方針に沿って業績達成や部下育成をしつつ、革新していくことも求められます。マネジャー後期ともなると、相当高い難度の仕事が任されることになります。
マネジャーが次のステージに向かえるよう、後期にふさわしい活躍してもらうためには、周囲がどのように関わるのがよいか、起こりがちなことをケースにしてみました。一緒に考えてみましょう。
こんなことは起きていませんか?
ここからはケーススタディです。皆さんのまわりにこんなマネジャー(「Manager(後期)=マネジャー(後期)」)はいないでしょうか。またそんなマネジャーがいた場合、周囲はどのように関わるのがよいでしょうか。
ケース①
Aさんは営業1課を率いて5年になる。1課の業績は安定しており、今や、他の事業部からも注目される課となっている。A課長の評判を開発部のB課長に尋ねてみた。
「A課長の業績づくりは素晴らしいと思います。はたから見ていてもメンバーが成長していることがわかるし、マネジメントをしっかりされているのだろうな、と感じています。その点は見習いたいな、と思っています。一点、ひっかかるのは、中期経営計画に新商品の開発が盛り込まれているのに、その開発への協力姿勢がない点です。今期のうちに開発の方向性を定めておくというスケジュールになっていて、開発メンバーが営業メンバーにお客様の声をヒアリングさせてもらうことになっていました。業績も出している営業1課にヒアリングをお願いしようとA課長に依頼したところ、断られてしまったのです。
『自分たちは業績を出している。業績を出せているのは今の商品が顧客にあっているからだ。なぜ改めて開発をしなければならないのか、私にはわからない。それに、私たちは業績を上げているからメンバーも相当忙しい。追加の業務などできるわけがないよ』という主旨の返答がありました。忙しいのはわかりますが、方針が定まっている中で、あのような態度とは……と残念に思いました」
ケース②
開発1課Cマネジャーに対する印象を直属の上司であるD部長に聞きました。
「Cマネジャーは開発1課に異動してきて1年が経つ。もともと営業部で活躍をしていて、その力を開発でも発揮して欲しいという期待あっての異動だったのだが、動きがいまひとつだ。
営業部にいて顧客や営業の様子を理解しているからこそ、良い意見を具申してくれると思っていたのに、『わたしは開発のことはわからないから……』と、会議でも聞き役にまわるばかりだ。
メンバーからもCマネジャーが判断してくれないから仕事が進まない、と不満の声もあがっている。経験したことのない職種でのマネジメントを任せたこと自体が、間違いだったのだろうか……」
次回はこれらのケースの対応策についてご一緒に考えてみたいと思います。