海外で増えている「社員の給与オープン」のメリットとは
近年、自社の給与テーブルや個々の社員の給与を社内外に公開する会社が登場している。人事や経理担当者としては、社員の給料を公開することにはどのようなメリットがあるのかや、給与公開は違法にあたらないのか等、気になることもあるかもしれない。
今回は、社員の給与をオープン化している会社の例や、法的な観点からの見解、給与を公開することのメリット・デメリットについて紹介する。社内制度や文化の一つとして参考にしてほしい。
目次
●社員の給与をオープンにしている会社の例
●法的観点から見る「給与オープン」
●給与公開を社員はどう受け止める?
●まとめ
社員の給与をオープンにしている会社の例
一言に「給与をオープン」と言っても、「社外に給与テーブルを公開する」「社内で個々の社員の給与額を公開する」など、会社によってさまざまなケースがある。まずは、社員の給与をオープンにしている会社の例を見てみよう。
アメリカでは増加しつつある「オープンサラリー」
ジョブ型採用が主流であり、引き抜きや転職が一般的なアメリカでは、「オープンサラリー(給与公開)」制度を導入し、会社運営の透明性を高めたり自社のブランディングを図ったりする会社が増えている。
例として、スタートアップであるA社では、社員の給与がどのように計算されているのか、役職、経験、居住地などにもとづく計算式をインターネット上に公開している。さらに、社員がストック・オプション(株式会社の社員が、自社の株をあらかじめ定められた価格で取得できる権利)か給料かを選択できるようにしており、個々の社員の選択結果についても公表。社内の仕組みや情報、サービス面全てにおいて透明性を上げるよう努力している。
また、大手スーパーB社では、給料だけでなく各支店の売り上げと利益率も公表し、給料計算の元となる情報も公開することで社員の納得感を高めているそうだ。
日本ではあまり行われていないのが現状
一方、終身雇用・年功序列制度を主流としている日本では「金銭の話を公にすることは美徳でない」という考えが一般的で、給与を社内外に公開する会社は少数であるのが現状だ。しかし、近年は「不公平感を解消するために給与体系や賞与決定のロジックを適正に公開すべき」との考えから、給与テーブルや社員の給与を公開している会社も増えつつある。
例えば、アパレルブランドを運営するC社では、2014年に「年収テーブル」の一般公開に踏み切り、等級ごとの「平均年収」「最低年収」「最高年収」「年齢」を示した。新卒採用向けのコンテンツで公開されたため、採用広告の意味でも大きな話題となった。
また、IT企業のD社では、給与テーブルと等級を社員に公開し、誰もが同僚や上司の給与額を確認できるようにしている。同社では給与の公開とともに360度評価も取り入れており、周囲からの評価が自身の給与に見合っているのかを測ることで、給与の妥当性を高めているそうだ。
法的観点から見る「給与オープン」
社員の給与を社内外に公開することは、法律違反にはあたらないのであろうか。対象となる「労働基準法」と「個人情報保護法」それぞれの観点から説明する。
労働基準法の観点
労働基準法第89条では賃金に関する事項(賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項)を就業規則の絶対的必要記載事項に定めているため、「給与テーブル」を社内に公表することは問題ないと言える。ただし、個々の社員の給与を社内外に公開する場合は、就業規則および賃金規定にその旨を記載しなければならない。
なお、就業規則を作成・変更する際は、「過半数組合または社員の過半数代表者からの意見を聴取したうえで、意見書を添付し所轄の労働基準監督署に届け出ること(同法第89条、90条)」「就業規則を書面の交付などによって労働者に周知すること(同法第106条)」が必要だ。
参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「就業規則を作成しましょう」
個人情報保護法の観点
個人情報保護法第23条では「個人情報取扱事業者は例外を除き、あらかじめ本人の同意を得ずに個人データを第三者に提供してはならない」と定めている。
労働基準法の観点も踏まえると、法律を遵守しつつ個々の社員の給与を社内外に公開するためには、適切な方法で就業規則の作成・変更を行うとともに、公開対象となる社員全員の同意を得る必要があるだろう。
給与公開を社員はどう受け止める?
給与を公開することを社員はどのように受け止めるだろうか。社員にとってのメリットとデメリットを見ていこう。
給与公開のメリット
給与を公開するメリットには、以下のことが挙げられる。
・人事評価の透明性や賃金の平等性が保てる
・会社への信頼があがる
・モチベーションや競争意識が向上する
・オーナーシップや責任感を持って仕事に臨める
・将来的な給与やキャリアをイメージしやすくなる
適切な評価が行われていると知ることによって納得感が生まれたり、インセンティブで増える報酬額が明確になったりすることによって、社員のモチベーションが上がる効果などが期待されている。
給与公開のデメリット
一方で、給与公開では以下の点が懸念されている。
・プライベートな情報が公開されることに嫌悪感が生まれる
・モチベーションやパフォーマンスが低下する可能性がある
・トラブルに発展する可能性がある
・失敗や評価の低下を恐れ、チャレンジや試行の余地がなくなる
給与額はプライベートな事項であるため、公開に反対する社員もいるだろう。同僚の給与や社内での相対的な位置を知ることで、モチベーションが低下したり社員同士のトラブルに発展したりする可能性もある。また、多くの会社では社員に財務状況や支出額などを公開していないため、給与額が収益に応じて妥当であるかなどについて、会社に不信感を覚えることもあるかもしれない。
まとめ
社員の給与をオープンにすることは、平等性や競争意識を高められるなどのメリットがある一方で、トラブルの元になる可能性があるなどの懸念点も挙げられる。また、法的な観点で見ると、公開範囲や手段によっては社員全員の同意を得る必要があること、就業規則に明記しなければならないことにも注意が必要だ。給与公開制度の導入を考える場合は、事前にそれぞれのポイントを押さえ、自社にとって給与オープンが有効であるかを慎重に検討すべきだろう。