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トヨタ自動車の「アルムナイネットワーク」とは? 退職者=裏切者ではなく卒業生という認識を~「横浜人事カレッジ#4」開催

2024.03.04
オフィスのミカタ編集部

横浜で活動する人々、国内外の人々と連携をしながら、新たなチャレンジャーを応援するイノベーション創出の推進機関「横浜未来機構」が、「横浜人事カレッジ#4」を2024年1月29日に開催した。テーマは「アルムナイネットワーク」だ。トヨタ自動車株式会社で「アルムナイネットワーク」に取り組む、同社人材開発部 組織開発・育成室 主任 千々岩真志氏をゲストスピーカーに様々な意見が交わされたこの「横浜人事カレッジ#4」から、一部をお届けする。

産学公民連携の推進組織「横浜未来機構」が「横浜人事カレッジ」開催

現政権で「スタートアップ支援」が推進される中、首都圏での「起業家育成」の取り組みが盛んだ。なかでも横浜市では2020年度から若者向け「起業家マインド育成プログラム」を実施。産学公民連携の組織「横浜未来機構」が主導し横浜市立大学や神奈川大学など市内4大学と連携し、イノベーター育成のための、オンラインを中心としたプラットフォーム「YOXO(ヨクゾ)カレッジ」を展開している。

その一環として株式会社An-Nahalが企画運営しているのが「横浜人事カレッジ」だ。横浜未来機構の正会員である株式会社An-Nahalは、組織のダイバーシティ&インクルージョン推進が専門。イノベーション推進が加速する企業において、「人事」としての役割・視点・知識をゲストや企業の垣根を超えた参加者との越境体験のなかで共に学びあうコミュニティで、毎回異なるテーマを扱い、これに関連するゲストの経験やリアルな事例を学べるイベントを行っている。「学び+交流+情報交換」が可能で、イベント後にはオンラインコミュニティに参加できる仕組みになっている。過去には、健康経営・越境学習・ダイバーシティ&インクルージョンをテーマに企業人事や大学教授をゲストに実施した。

第4回のテーマは「【横浜人事カレッジ#4】多様性が育まれ、新しい気づきや新たな価値を生み出す トヨタ自動車が取り組むアルムナイネットワークとは」。産学連携イノベーション拠点「NANA Lv.(ナナレベル)」内の「横浜市立大学みなとみらいサテライトキャンパス」で、トヨタ自動車がアルムナイネットワークに取り組む理由、人事としてどのように取り組んできたのかを、同社人材開発部 組織開発・育成室 主任 千々岩真志氏が話した。

トヨタ自動車のアルムナイネットワークはなぜスタート?

「アルムナイ(alumni)」とはもともと、学校の卒業生やOB・OGを意味する言葉で、人事領域においては企業の退職者・離職者を指す言葉として使われている。「横浜人事カレッジ」の説明によれば「退職者や転職した社員と継続的に接点を持つためのコミュニティ形成に取り組む企業が増えてきた」現状があり、これに2021年から取り組んでいるのがトヨタ自動車だ。

担当の千々岩氏は、大手通信会社でキャリアをスタートし、ネットワークエンジニア、法人営業を経て新卒採用・若手育成に携わった経験を持つ。2021年にトヨタ自動車人事部にキャリア入社後、経験を生かしたキャリア採用方針の立案、ソフトウェア人材の採用・育成と東京採用拠点の立ち上げを担当しているという。

言うまでもなく、自動車産業は日本の基幹産業だ。総務省「労働力調査(令和3年平均)」、経済産業省「2020年工業統計表」「平成30年延長産業連関表」等によれば、日本の全就業人口6,667万人に対し、自動車関連就業人口は552万人(約8.3%)に上る。こうした中、トヨタ自動車は現在、「自動車製造業」から「モビリティカンパニー」に変わろうとしており、「ヒト、モノ、コトの移動を通じてお客様に感動体験を提供」し、「幸せを量産」することを目指している。変化の時には、やはり「人材」が重要なわけだが、単に革新的であればいいわけではないだろう。これまでの歴史を知った人材と、新しい発想力を持つ人材が協働することは、いずれの業界においても必要になると考えられる。それをトヨタ自動車では若手社員が課題意識を持ち、有志でプロジェクトを立ち上げ、退職者の再雇用やコミュニティ活動「アルムナイネットワーク」を提案し始めたというわけだ。

もちろん、世界に名だたる大企業だけに、退職者とのかかわり方にはあらゆる側面から慎重だった。特に退職者の再雇用に対するトヨタ自動車内部の理解を得るためには丁寧なコミュニケーションが必要だった。

しかし発案者の若手社員を中心としたメンバーの熱意により徐々に社内の理解が深まり、また千々岩氏がプロジェクトに参画して以降はアルムナイコミュニティについて社外に情報発信を行うことで、登録者数が増加した。現在はさまざまな活動が展開されているという。今のところ実績は多くないということだが、「アルムナイ採用(Alumni Recruiting)」もしている。ただし、「アルムナイだからと採用条件が有利になるということはありません」と千々岩氏が言う通り、採用はあくまでも採用。この視点も、アルムナイコミュニティに置いてはポイントになりそうだ。

「退職者=裏切者」ではなく「卒業生」

「退職者=裏切者」ではなく「卒業生」

ここまで聞くと、順調そうに思えるトヨタ自動車のアルムナイネットワークだが、もちろんコミュニティ運営には課題がある。「横浜人事カレッジ」でモデレーターを務める株式会社An-Nahalの代表、品川優氏も「コミュニティは運営、継続が難しい」と話す。

千々岩氏も「コミュニティの運営はアルムナイ事務局メンバーがかなりの工数をかけている状況」だと説明。また「現状で言えば、社員の参加はまだ少なく、社内の理解を広めているフェーズです。ですが、コミュニティ運営は自律的に行われることを理想としており、社員同士のコミュニケーションを重視」しているため、オーナーシップを持つ人物が欠かせない。

またトヨタ自動車の場合、元社員が本社近辺(愛知県豊田市)を離れ、東京で働いているケースもすくなくないため、対面イベントへの参加率が低くなってしまうという課題もある。コミュニティ運営をおこないながら日々の気づきをアジャイルで改善につなげているとのことだ。

ディスカッションでは品川氏から「(退職者に対しての評価は様々であるため)卒業生という言い方の浸透」について問われた千々岩氏は「そうですね。卒業生という言い方を、まずは会社の中に広めていくことが大切だと思っています」と回答。

確かにいずれの企業においても「退職者=裏切者」という見方がされる可能性は高い。そこをあえて、もう一度共にネットワークを作っていくことができるようになれば、様々な業界で知見を得た人材が、適材適所で活躍しやすい組織が出来上がり、さらなる発展が望めるのではないかと感じられた。

【関連リンク】
トヨタ自動車株式会社
YOXOカレッジ
株式会社An-Nahal(アンナハル)